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池上 まさこ

池上 まさこの人生のストーリー

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池上 まさこの人生のストーリー

子持たずの記(1)

       闊歩する 妊婦眩しき 夏の街  何気なく口にしてみれば、すこぶる健康的な「女性讃歌」の句にみえる。  しかし実際はそうではなかった。  詠んだ当人は、ギラギラと照りつける夏の太陽と同じような燃える目付きで、幸せそうに街を闊歩する妊婦をにらみつけていたのだ。胸中には、さらに「恨み」「ねたみ」「憎しみ」の混ざった、口には出すのがはばかれるような醜い固まりがあって、燃えさかっていた。 思い出

子持たずの記(2)

     寿司食べて 駐車違反の おまけ付き  M夫妻は私たちと同年代の教会のお仲間だった。彼は県庁の児童課?今は福祉課とか名称も変わっているらしいが、そこで児童養護施設関係の仕事や母子家庭のケアなどを担当していた。男らしい性格、堂々とした体躯、いい意味での野性味あふれる男性であった。一方奥さんはうんと小柄なほっそりした、ゆったりした山口弁がぴったりの婦人であった。  恵さんというお嬢さんがあるが、

子持たずの記(3)

 私の興奮は収まったが、夕飯を作れるような状態ではないと察してか、「寿司でも食いに行こうか」と、夫は言い出した。それも岩国一の高級な寿司やで、会社でも東京からお偉い方でも来たときにしか使わない、夫も行ったことがないという寿司やへ車で出かける。美味しい寿司を食べちょっぴり気持ちも晴れて出てくると、なんと車に駐車違反のステッカーが張ってあるではないか。夫も動転していたのであろうか。駐車禁止のポールの数字

子持たずの記(4)

壊れたテレビはけっ飛ばせ  結婚して九年が経っていた。  東京へ向かう早朝の京葉道路で、一生をひっくり返すような大事件は起こった。渋滞の車の列がやっとスムーズに動き出そうとしたとき、追突事故を起こしてしまった。その頃はシートベルトの着用がまだ義務づけられていなかったので、助手席の私はフロントガラスにまともに顔をつっこみ、その反動で座席の下に潜り込むように崩れ落ちて、一瞬気を失った。頭も額もまぶたも鼻

子持たずの記(5)

 さて十年目にやっと出来た子を育てるのってどんな感じだろうか。甘やかしすぎ、過保護、絶えずその子に注がれるビームのような視線。もしかして喜びの余り、自制心を失って親バカそのものになって、せっかくの子をとんでもない問題児にしてしまったかもしれなかった。その危険性は充分あったと思われる。しかしそれを防いでくれたのは、三年間、長男を育てた経験だった。   今思うと里子を育てるには若干客観的であることが必要

子持たずの記(6・終)

 明治の初め珍しくもなかったろうが、私の母は兄弟姉妹あわせて九人の、五女であった。幼くて亡くなった姉、結核でなくなった兄、六人目の男の子の出産で亡くなった姉、結婚してから亡くなった弟など、全員が揃って成人した訳ではないが、私には叔父、叔母、いとこたちが大勢あって、寂しい思いをあんまりしないで済んだのは幸いであった。子福者の叔父伯母たちの中で一番若い叔父夫婦だけには子供が無く、父を戦争で亡くした私は、

終(つい)のすみか

 一人で電車に乗って東京へ行った。半年ぶりだろうか。  六本木で地下鉄を降り、三十分ほど歩いて母校の同窓会館へ着いた。六十年前はこんなに遠いと思わなかったのに、足が思うように動いてくれない。右足の付け根がギュッと痛む。クラス会の会場に入り、やっと腰をかける。もう、てこでも動きたくない。  全員、八十歳近いおばあさんたち、でもすぐ十代の少女に返って、おしゃべりはつきない。  一人が付けていた集音器に話

終(つい)のすみかを見つけたり(1)

 年老いた私がある日 今までの私と違っていたとしても どうかそのままの私のことを理解してほしい  悲しいことではないのだ 消え去っていくように見える私の心へ      励ましのまなざしを向けてほしい 旅立ちの前の準備をしている私に       祝福の祈りを捧げてほしい あなたの人生の始まりに       私がしっかりと付き添ったように 私の人生の終わりに         少しだけ付き添ってほしい あ

終(つい)のすみかを見つけたり(2)

 入居して一番驚いたのは、夫が自分の身だしなみに気を遣うようになったことだ。今までおよそそんなことに 気を遣うような人ではなかった。  まあ、よくって朝起きたら、水でビシャビシャっと顔を濡らす程度。  入れ歯を洗って嵌めるくらい。ひげを剃ることも、剃らないことも。ブラシで髪をなでつけるくらいはしてたかな。  まして、着る物には全く無頓着。畑仕事用のドロンコズボンを、玄関に脱ぎ捨ててあるのはまだいい方

ばあちゃんドクターヘリに乗る

 窓の外を、白い空が後ろへ後ろへと飛んで行く。  私は今、『ドクター・ヘリ』の中。揺れもなく音も静かで思ったより快適である。もちろん、この胸の痛みさえなければの話だが……  八月十日、土曜日、午前九時五十分。私は急性心筋梗塞の発作を起こした。  十時に始まる文章教室に出席するため、いつもの会場へ到着したところであった。行きのバスの中で既に、胸にひやっとする違和感があった。 ……なんと強い冷房なんだろ

生まれて初めての北海道~83歳の私を息子が北海道旅行に連れて行ってくれた話

 夫は、現在、特別養護老人ホームの自分の部屋で、落ち着いた生活を送っている。    二年前、動脈瘤破裂を防ぐ大手術を受け、そのとき運悪く起こした脳梗塞のせいで体が不自由になり、意識も戻らないまま月日が過ぎてしまった。  リハビリの成果で一時、物につかまって立てたり、言葉を発したり出来る時期もあったが、その間、幾度も救急搬送される事態も起こり、やっと今の状態におさまってまだ半年もたたない。  かろうじ

生まれて初めての北海道~83歳の私を息子が北海道旅行に連れて行ってくれた話 2

 一休みして入浴。いつものことながら、大浴場は一人で入るのは、誠に心細い。眼鏡を外しているから、脱衣所の棚の入れ方がもうわからない。うろうろしていると、たいてい、周りの誰かが声をかけてくれて、教えてくれるのだが、この日は空いていて周りに人もいない。鍵を閉めるのか、お金を入れるのか、蛇口、シャワーの出し方、一つ一つ手探りでクリアしていく。こんな時、息子じゃなく、娘だったらいいのに……なんて、罰当たりな

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