マタニティマークの話。

このエントリーをはてなブックマークに追加

マタニティマークをつけていると、いろんなドラマがある。

私が十月十日の妊婦生活の中で印象に残った、あるオジサマの話をしたい。


いまお腹にいる子どもが大きくなったときに「あなたはこんな人にも守ってもらってたんだよ」と伝えたいから、書き残しておこうと思う。


自分がなってみて初めて分かったけど、妊婦は本当に身体がしんどいことが多い。

個人差があるけど、多くの人が初期はつわりでツライし、

安定期を越えると今度はだんだんとお腹が大きくなってきて、立っているのが物理的にツライ。


私は自宅から職場まで、乗り換え1回、トータル50分くらい電車に乗っている。

しかも殺人的に混んでることで有名な路線なので、朝のラッシュ時間帯は乗車すらできないこともよくあった。

妊婦だとお腹をギュウギュウ押されるのはかなり怖い。


上司に相談して、なんとか出勤時間を1時間遅らせてもらうことができた。

10時出社にしてもらったおかげで、少しは空いている電車に乗れるようになった。


朝1時間変わるだけで、乗車率は120%から、70%位にはなっただろうか。

席はすべて埋まっていて立っている人も多いけど、隣の人と押し合うほどではない。


どうやら私はつわりが乗り物酔いにでるタイプだったようで、ともかく妊娠初期は朝の通勤電車に酔ってしまっていた。

ずっと立っていると、もれなく吐き気がしてくる。

そして後期になってからは子どもの発育が良すぎたせいか、かなりお腹が重い。

立っているだけで腰が痛いし、息も上がってくる。


通勤途中で気持ち悪くなり、1回や2回降りることもあった。

幸いにも電車を止めたことはなかったけど、その寸前で電車を降り、ホームのベンチでぐったりしていることがよくあった。


マタニティマークを付けていると、ありがたいことに席を譲ってくれる人がたくさんいる。
だいたい6~7割くらいの確率だろうか。

女性も、男性も、年齢問わず、気がついたときに譲ってくれることが多い。

特に体調が悪いときは本気で拝みたくなるほどありがたかった。


スマホを見てたり寝てたりすると気づかないけど、ときどき

「あっ!いま気づきました!!スミマセン!!」となぜか謝りつつ慌てて立ってくれる人もいて、

「いやいや、むしろこちらがスミマセン!!」となることも。

申し訳ないけど、ありがたい。


ふと考えてみると、妊娠するまでの私は目の前の人がマタニティマーク付けてるかどうか、

体調悪そうかどうかなんて、あんまり意識したことがなかった。

こんなに電車の席を欲してる人がいるなんて、知らなかった。

子どもが生まれて落ち着いたら、いま譲ってもらっている分を次の妊婦さんや体調悪そうな人にちゃんと返していこう。

そんなことを思った。


さて、本題のオジサマの話。


マタニティマークを見て席を譲ってくれるのは、女性だけでなく、意外に男性も多い。

女性は若い人も多いが、男性の場合、若い人より30~40代以上の方が多い気がする。


この間は、厳しい表情をした50代位のスーツの男性が、無言でスッと譲ってくれた。

「ありがとうございます!」と言ったら、ニコっと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

会社にいたらちょっとコワモテで話しかけにくそうな人なのに、

ギャップがカッコ良くてビックリした笑


ある時は、中国人男性が2人組で座ってたのに、2人とも競うように席を立ってくれたりもした。

中国の人もマタニティマーク知ってるんだー!となんだか嬉しかったり。


いろんな人がいたけど、中でも特に印象的だったのが、あるすてきなオジサマのことだ。


ある日私が朝の電車に乗ると、座席はすべて埋まっていた。

私は体調も悪くなかったので、特に気にせずつり革に捕まって立っていた。


目の前には2人の男性。

大学生くらいの男の子と、70代くらいのオジサマが座っていた。


大学生はイヤフォンをしてゲームか何かをしている。

オジサマの方は70代位だろうか。

杖をついていて、どこか品のいい、明るい雰囲気の人だ。


ふと私のカバンについてるマタニティマークに気づいたオジサマが、隣の大学生を肘で突っついた。

イヤフォンを外す男の子。

オジサマは、コソコソ小声で言った。


「私ね、ちょっといま体調悪いのよ。君、よかったら譲ってあげてよ」


目の前で見てる私はビックリしたけど、(しかもばっちり聞こえてるし!笑)

ニコニコしながら、明るい調子で大学生にお願いしていた。

大学生も優しくて、ゲームを中断されたのに怒るでもなく「スイマセン、どうぞ!」とすぐに席を立ってくれた。


「すみません! ありがとうございます」

2人にお礼を言って座るのを、隣のオジサマは嬉しそうにニコニコしながら見守っていた。


人に譲らせちゃうなんて面白いおじさんだなぁ。


そんなことを思っていたら、次の駅でなんとまた妊婦さんが乗ってきた。

しかも私より確実にお腹が大きい。


「こりゃあ、私が譲らないとだな!」なんて言いながら、そのオジサマはその妊婦さんに席を譲った。

私と大学生はちょっと笑って見ていた。



その日から私は、オジサマと朝の通勤電車で時々会うようになった。

というか、たぶんよく同じ車両に乗り合わせていたんだろうけど、「あ、あのオジサマだ」と気づけるようになった。

だいたい同じ時間、同じ車両に乗ると会える。


とはいえ、お互いズレることもあるので、目の前で顔を合わせるのはだいたい週1回位だろうか。

オジサマは私を見つけると、必ず嬉しそうに席を譲ってくれた。

(人に譲らせたのは初回だけだった。笑)

そこから何を話すわけでもないけれど、朝オジサマに会えると私もなんだかちょっと嬉しかったりした。


オジサマは薄いサングラスをかけていて、杖をついている手が少し震えている。

身体があまりよくなさそうなのに席を譲ってもらうのは申し訳なかったけど、

なんだかとても嬉しそうに譲ってくれるので、私もありがたく受け取ることにしていた。


だいぶ顔見知りになってきてからは、少し離れた所にいても、無言で (おーいおーい!)と手を振ってくれて、わざわざ私を呼び寄せて席を譲ってくれたりするようになった。笑

ほんと明るくて、おもしろい人だ。


そのオジサマと、ここ2週間位会えていなかった。

私ははやく会いたくて、できる限り同じ時間の、同じ車両を狙って乗るようにしていた。


というのも、私は今月いっぱいで産休に入ってしまう。

休みに入る前に、ちゃんと今までのお礼を言いたかったのだ。


狙って狙って。


ようやく会えたのは2週間以上経っていたと思う。



いつもの電車に乗って (今日もいないかな、、、) と思ったら、

人と人の間から、オジサマがひょいっと顔を覗かせた。

お互い、久しぶりの友だちに会ったみたいに手を振っていた。


いつも通り席を譲ってくれたオジサマを見上げた。


「あの、来週から産休に入るんです。

今までいっぱい席を譲ってくださって、ありがとうございました!」


オジサマはそうかぁ、と嬉しそうにうなずいた。

「いつ産まれるの?」

「8月の予定です」

「そうかぁ、もうすぐだね。元気な子が生まれるといいねぇ」

目を細めてニコニコしてくれた。


あ、それとね、とオジサマ。

「あなたと会ってからね、いいことがいっぱい起こったんだよ。こちらこそありがとうね」

そう言って、オジサマはウフフ、とまた嬉しそうに笑った。


どんないいことがあったのかわからないけれど、なんだか私も嬉しくなった。


また会えるといいねと言って、オジサマはいつもの駅で降りていった。


ちょっとほっこりした、産休前の出来事でした。



* * * * * * * * * * * *


ふと思う。


朝の通勤電車は殺伐として、みんな赤の他人の顔をしているけど、

実はみんな多かれ少なかれ、このオジサマみたいな優しさを持っていたりするんじゃないか。

たまたま表現できてないだけで、ちょっとしたきっかけがあれば

みんな本来持っている優しさ、あたたかさを表現することができる。


そして、人が生まれるというのは体力的にも精神的にも本当に大変なこと。

こんな風に名前も知らない人にあたたかく支えてもらったり、

いろんな人に守ってもらって初めて、1人の人が生まれることができる。

いま私たちは当たり前のように生まれて生きて生活しているけど、

自分がお腹にいた時のことを知らないだけで、実はそんな風に支えてくれた人がまわりにたくさんいたんじゃないか。

そんなことを思ったりした。


読んでよかった
このエントリーをはてなブックマークに追加
このストーリーをブログ等で紹介する

関根さん> ありがとうございます。そんな風に言っていただけて、ありがたいです!

とてもいいお話ありがとうございました。通勤電車での良い出会い、羨ましいです。私は1人目出産時に電車通勤でしたがそのような経験はありませんでした。私も8月に2人目出産予定で現在産休中です。お互い無事に元気な赤ちゃんを出産したいですね!

人間の優しさを改めて確認できました。

岩井さん>コメントありがとうございます。お二人目の出産との事、おめでとうございます!そろそろ赤ちゃんとの生活が始まっているでしょうか? 私の方も無事元気な男の子が生まれました。お互い育児楽しみましょう♪

山田さん>ふと、「うつくしいものを美しいと思える あなたの心が美しい」ということばを思い出しました。この話を読んでやさしさを感じられる方は、きっとその人の中にやさしさがある方なんだと思います(^^) 読んで下さってありがとうございます♪

とてもいい方と出会えたのですね!心があったまりました!

原さん>はい、ほんとうにすてきな方でした!私もあのオジサマのように人にやさしさを表現したいと思いました。

自分も過去、初めて妊娠した嫁さんから又は他人様から教わった事がたくさん有りました。そのとき、良心はみんな持っている事に気づかされました。ほっこりするお話合いありがとうございました!

素敵なお話ありがとうございます!

日本もこういう風潮が当たり前になるといいなぁ

高原 響

30代女性。さまざまなイベントをプロデュースしたり、就職活動生のサポートすることを仕事にしている。2014年7月~人生初の産休中。

高原 響さんが次に書こうと思っていること

|

高原 響

30代女性。さまざまなイベントをプロデュースしたり、就職活動生のサポートすることを仕事にしている。2014年7月~人生初の産休中。

高原 響

30代女性。さまざまなイベントをプロデュースしたり、就職活動生のサポートすることを仕事にしている。2014年7月~人生初の産休中。

高原 響さんの他のストーリー

  • マタニティマークの話。

  • 高原 響さんの読んでよかったストーリー

  • 就活中、運命は必ずしも実らないことを知った。けれど、幸運の掴み方を1つ知れた。