事故直後、まず疑われたのが自殺だ。これは僕の一連の行動(ふらつく足取りで、電車にぶつかる)が地下鉄駅の監視カメラに撮られていたからで、その映像を見れば、誰でも飛び込み自殺と考えるのが妥当だろう。本当はただ酔っぱらって、足もとがおぼつかなかっただけなのだが。もちろん、僕は自殺などまったく考えていなかった。が、今になって考えてみると真相はよく分からないな。自分で気がついていなかっただけで、無意識に希死念慮を抱えていたのかもしれないし…。


話がそれた。戻そう。さて、こういった人身事故が起こった場合、警察はまずそれが「自殺」によるものなのか、「他殺」によるものなのかを検証するようだ。そしてもしも「他殺」の可能性がある場合、それは「刑事事件」ということになり、本格的な捜査が始まる。


では具体的にはどう動くのか。自分の場合を例に挙げて、説明してみたい。


まずは警察から家族に連絡がいく(僕の場合、独身でひとり暮らしだったから、刑事は実家へ聞き込みに行った)。そして、「最近の様子はどうだったか?」「悩んでいる様子はなかったか?」等を聞いたらしい。もちろん、僕はいたって正常だ(酒は飲みすぎていたと思うけど)。だから家族もそのように答えた。そして刑事の訪問はたった一度きり。おそらく、それ以上の情報は聞き出せないと思ったのだろう。物品が押収されることもなかったし、もちろん家宅捜索されることもなかった。


だが、なぜ「悩んでいたか」なんて質問をするのだろう。これは回復してから知ったことだが、聞いた話によると、作家やライターなど、文章に関わる人間は自殺者が多いのだそうだ。もちろん明治時代や大正、昭和初期の作家、たとえば太宰治や芥川龍之介にはそんなイメージがある。文筆業者と自殺。たしかにむすびつきやすいイメージだ。が、警察が想像だけで動くはずはない。おそらく、そこには確固たるデータが存在するのだろう。そしてしばらくして、捜査は無事に終了。結局、僕は単なる事故だった、という判定を受けたのだった。


最後に「事故の後始末」について書いておきたい。


前述のように賠償金の問題は発生しなかった。高額の手術費で借金を背負い込むようなこともなかった。が、人からはやたらと怒られた。命を粗末にしてはいけないという人もいたし、酔っぱらって電車にぶつかるなんて、人間失格だとあきれ果てる人もいた。なかには、世間に迷惑をかけやがって、と病院で怒鳴り散らす人もいた。もちろん会社のプロジェクトチームからは外されることになったが、これはまあ、当然のことだろう。


が、なかには笑ってくれる人たちもいた。事故の話や臨死体験を興味深そうに聞いてくれた人たちがいた。お見舞いにきてくれて、何も言わずにただ笑って、僕の話を聞いてくれた。理由は何だろう。あえて聞くようなことはしたくないけれど、僕はこの人たちに対して一生頭が上がらないな。

【おわり】

読んでよかった

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