母親から聞いた、ちょっと驚く不思議な話
久しぶりに母親に会って、いろいろ話をしたときのことだ。
親というのは、なぜあんなに子供の時の話を何度も何度も飽きずにするのだろう。
母親となればなおさら。私が生まれた時の話から幼稚園のときに好きだった男の子の話や小学校の時の恥ずかしい話など、今までの人生で何度も聞いた話を、また繰り返す。
自分が話したことを覚えていないのか?それとも、何度も言うほど大切な話なのか?
これは、自分が親になって子供が話せるような年齢にならないとわからないな。
両親が離婚している私の家では、母親と会っている事は家族には内緒だ。
頭が固く、B型ー(マイナス)男性の典型的である父親が知ったら、母親の家に怒鳴り込んで、そして私をバコバコと殴るだろう。(B型男性の性格には「+(プラス)」と「-(マイナス)」があると思っている)
安易に想像がつく。
けして父親はDVだとか、そういうことじゃない。単に、手の早い、話しの苦手な昔の人間なのだ。
母親にもそうだった。
気にいらないことがあったら夜食のお皿をひっくり返し、大きな声で怒っていた父親に対して、泣きながら抵抗している母の姿を何度か見たことがある。殴られていたのかどうかは知らないけれど、私から見ても警察沙汰になるほどのことではないと記憶している。
そんな父親に、そのうち母親は愛想を尽かして離婚するだろうと思っていたが、「そのうち」はほんとにすぐ訪れて、やがて私は父子家庭になった。
幸い家には叔母がいたので、私は苦労することなく貧乏に困ることもなく、勝手気ままに大人になることができた。
離婚するときに父親に言われたのは「お母さんには絶対会わせたらへんからな」。
なんか理不尽だな、と思いながらもそんなに母親と離れることに抵抗がなかった小学5年生の私は、いーですよ、と答えた。
頭の横に、灰皿が飛んできた。
時は流れて、あるひょんな出来事からコッソリ母親に会うようになっていた私は、いつの間にか母親と居酒屋でお酒を飲むような年齢になっていた。
「あんたはちっちゃい時はこうやったで。」
「あんたはちっちゃい時はこんなことしてたで。」
知ってる人の話なら興味も湧くが、幼いころの自分=今の自分からすれば知らない子供、の話を楽しそうに話されても、なんだかこっちは全然楽しくない。
自分のことと言われても、自分とは「大人になった今の自分」なんだから、なんだか変な感じがする。
でも、そのあと母親がふと話し始めたのは、非常に私の興味を掴んで離さない不思議な話だった。
「あんたはほんまに男の子みたいなところあるな。さっぱりしてると言うかなんというか(笑)
あんたが生まれる前、お母さん流産してるねん。
子宮外妊娠で、手術して取るしかなかってん。
その手術した日が、4年前の4月9日やねん。しかも昼の3時くらい。」
4月9日。
それは数十年前、私が生まれた日だ。
これには、正直驚いた。
4年後の全く同じ日に、私は同じ女性から生まれてきたのだ。
そして母親は言った。
「すごいやろ?だからあんたの身体には二人分入ってるねんで。」
確かに、今まで大雑把な性格の中に、自己中心的な勝手で手に負えない考えや感情が、突如として出てくるときがあった。
まさにそれは自分の父親ように、気にいらないことがあると無性にイラッとしたり大声で怒鳴りたくなったりするようなB型-(マイナス)男性の性格そのものにも思えた。
人前ではもちろん出さないが、稀に自分でも理解できないような「めっちゃ怒ってる人」が突如出てきそうになるときがあって、正直ヒヤヒヤするときがあった。
いやな事があると、物を無性に投げたい気になるような考えがよぎる時もあった。
自分でもコントロールできそうにない、強い存在感を持った「めっちゃ怒ってる人」が頭の端っこに出てくるときがあった。
でもそれれは、気持ちじゃなくいつも頭の隅っこで起きる。
物を投げたいという気持ちになるんじゃなくて、頭の端っこで思う。
殴ったろかという気持ちになるんじゃなくて、頭の隅っこで思う。
お父さんみたいやな、いややな、と思う事があった。自分の心の中で。自分の中だけで。
物に当たってはいけない、人に当たってはいけないと教えられてきた「私」は、たぶんこの「めっちゃ怒ってる人」が表に堂々と出てくることはなかったと思う。
たぶん。
なるほどな、あれはそいつが原因か。
こじつけだとはわかってる。
でもなんとなく納得がいった。
実際に母子手帳には、確か産まれた時間がお昼の1時半くらいと書かれていた気がする。
3時くらいと言ったのは、関西人ならではの「ちょっと話を盛った」のだろう。母親らしい。
そして母親は続けた。
「だからあんたは二人分幸せなれる力あるねんで。」
うまくまとめたな、おかん。
私がいろいろ頭の中で、お兄ちゃんとケンカしてきた事も知らずに。
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