祖父が教えてくれたこと

結婚式を5ヶ月後に控えた1993年9月のことでした。
仕事を終えて自宅に戻ると電話が鳴っていました。
玄関でバッグを放り投げ、スーツを着たまま電話に出ました。
電話の主は、札幌に住む当時80代後半の祖父でした。
「淳か?おじいちゃんだ。」
「うん。おじいちゃん元気?」
「ああ。結婚式の招待状ありがとう。結婚するんだね。おめでとう。」
「ありがとう」
「せっかく招待してくれたんだが、最近足が悪くなって、2月だと雪が多くて、残念だけどおじいちゃん行けそうにないんだ。」
”そんなこと”はわかっていました。
祖父と同居している伯父から、足が弱くなったと聞かされてから、もう何年も経っていたからです。
はじめから祖父が来られないことはわかっていて、報告のつもりで招待状を出したのです。
「え?ホント?残念。」
それでも、とぼけて確かに今初めて知ったかのような返事をしました。
すると、祖父が続けて言ったのです。
「ああ、おじいちゃんも残念だ。だから、結婚式の日に電報を送ろうと思って文章を考えたんだ。今、読んでみるから聞いていておくれ。」
そして、受話器からはしばしの沈黙とカサカサという紙の音。
(もう電報の用意まで・・・)
5ヵ月後に配達される電報の原稿を、電話の向こうで祖父がゆっくりと読み始めた頃、私は受話器を持ったまま座り込んで泣いていました。
当時の私は、社会人4年目。
仕事も一通り覚え、仕事を通して社会人としての自信も芽生え始めていました。
そしていつの間にか、「一人で育った」ような錯覚に陥っていたのだと思います。
あの電話をもらうまでは。

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