失敗してもよい所



季節は初夏。


まだ涼しいキャンプ場。





私はキャンプリーダーで、他のリーダーや子どもたちと共に、ワークに取り組んでいた。




ワークは、枝にぶら下がったロープを使って、ブロック塀を敷き詰めてできた島に飛び移るというもの。


全員が島に飛び移れたら成功なのだが、飛び移るほど島の残りのスペースは限られてくる。誰かが島から落ちてしまうともう一度最初からやり直さなければならない。失敗は2回まで。


チームワークや協調性、いろんなものが試される。




私のグループは1回目はすぐに失敗してしまい、そして2回目。


みんな結構うまくいっていたが、あと何人かのところで、一人の女の子が失敗してしまう。

彼女がしりもちをついた瞬間、呻きと叫びの入り交じったような声が口々に漏れた。




ワークは本来はこれで終了なのだが、ひとりのリーダーがもう一度だけ挑戦したいと言いだし、他の子どもたちも次々に賛同して、特別にもう一回だけやらせてもらえることになった。




そして、3回目は、何とか成功。


子どもも私たちリーダーもあらん限り歓声を上げた。




その後の、ふりかえりのことだ。 




こどもたちは、未だ興奮が収まらない様子で、落ち着かない様子だった。ふりかえりなんて早く終わってもっと遊ぼうよという子どもの雰囲気に押されて、私は早くふりかえりを閉じようかと思っていた。



すると、突然、2回目でしりもちをついた女の子が泣き出したのだった。



堰を切ったような激しい泣き声に、子どもたちのほとんどが静かになった。

近くのリーダーがすぐに肩を抱いて側に寄った。


私はどうしたのだろう、よっぽど失敗したのが悔しかったのかなと思った。




少し迷ったが、私はその女の子に、「いま、どんな気持ち?」と声をかけてみた。

女の子の肩を抱いていたリーダーに体を起こされて、小学生の彼女は声を震わせながら確かにこう言ったのだ。




「…学校では失敗できない…」





私は彼女を見つめた。他の子どもたちもリーダーもみんな彼女を見ていた。




「先生も学年の子も許してくれない…でも…ここはみんなが支えてくれる…助けてくれる…それが…嬉しかった」




私は少し呆気にとられて、でも体が震えるような衝撃を感じて、彼女の顔を見つめた。

彼女は、心からまっすぐに、そこにいた。  


傍の女の子が「私も失敗できないよ」と言い出した。


次々に「私も」「僕も」と声が挙がった。



私は彼女に「良かったね」といった。


言えて良かったね。出せて良かったね。通じて良かったね。


そして、心の中でこう思ったのだった。


「ありがとう」


小さいころの私が言えなかったことを、言ってくれて。 




著者のMiyoshi Hirofumiさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。