父が暴れて、包丁を持ち出し、家の前にパトカーが五台止まった話。

機能不全家族だった

 普段の言動からして母への憎しみがつのっていることは明らかだった。「このクソ女!」と叫んでいたし、喧嘩もよくしていた。私と姉は、家族のいろいろな不和からつらい思いをすることを余儀なくされ、子供時代、青春時代を過ごさざるを得なかった。


 その日、父は酔っ払って帰ってきた。明らかに泥酔していた。

 「ふー!ふー!」とよく言葉にならないことを言っていた。だが、母に対して、とても敵意があることは分かった、かばんで叩こうとした。母が「やめて!」といったが、やめなかった。私はもはや、絶望的なこの家族関係は、もうどうにもなっていいという思いから傍観していた。

 父が包丁を持ち出してきた。母は洗面所に閉じこもった。父は「殺してやる!!」と怒鳴りながら、扉をけったり、包丁で扉を刺したりしていた。今でも扉の傷は残っている。

 こんな家族嫌だ。そう思い。どうなってもいいと思い、その場から逃げた。最寄りのネットカフェに行った。

 祖母から、電話があった。姉は全く帰ってこないのだが、偶然帰ってきていたようで、警察を呼んだようだった。私はそのままネットカフェに滞在した。


決着が着く

 パトカーが五台ほどやってきて、父は警察官を見ると、「お疲れ様です」といったそうだ。父の殺意は面子には勝てなかったようだ。一応取り調べということで、簡単に話を聞いて、開放されたらしい。

 母も、周りの住人にどう思われているかばかりを気にしていた。そういう家族だ。嫌だ。


 その日は、家に帰らずネットカフェで過ごした。精算の時私と母は手持ちのお金がなかったので、姉に払ってもらった。このような時も、お金を払わなければならないなんて、なんて冷たい社会なのだろうと。とても強く思った。


 父は落ち着いたようだった。しかし、またなにかやらかすかわからないということで、包丁は隠してしまった。その後数年間、皮を剥くような果物包丁で、料理をせざるを得なかった。


<了>


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