自分で本を出してみてわかった、現代の出版ビジネスの限界~とあるデジタルマーケッターによる分析~


※これは出版社や書店に対する否定ではなく、そもそもこれから出版というビジネスがどうなっていくべきかを考えていく材料の1つになればと思い書きました。また、より具体的には出版の中でも「書店販売」という部分について勝手に分析しました。



ちなみに2014年現在、全国に書店数は14000店舗ほどあるらしいですが1999年には22000店舗たったようです。かなりの減少ですね。それにも関わらず、印刷されている数量は増えて続けているんだとか。


そうすると何が起きるか?


書店に並びきらない本が印刷され続けることで、最悪、店舗に並ぶこともなく返本されることを意味しています。しかし出版社は印刷した時点で売上となるので(返本の結果、返金が必要となっても)印刷部数を減らせないという現実もあるのだとか。(ちなみにWikipediaによれば返本率は40%とのこと)


そうすると、書店側は「買ってよかったと思われるニッチな本」を並べるよりも、「とにかく刺激的で勢いで売れる本」を並べざるを得ないことになり、結果的に中長期的には顧客の書店と書籍に対する満足度を下げることにもなりかねません。




しかし店舗数が減ってきたとはいえ、1店舗につき1冊ずつ売れるだけで全店舗では14000冊売れる計算であり、まだまだAmazonや楽天での販売数よりも影響力は大きく、よって、書店を利用しない書籍販売も現実的ではありません。


さて、そんな制約条件もある中、素人の私が出版をすることになりました。


結果からいうと惨敗。いえ、それは言い過ぎかもしれませんが、思うほど販売を伸ばせませんでした。

私は、本業では主にWeb関連の仕事をしており、直近では2年間、デジタルマーケティングを担当していました。その経験からも、この書店販売というビジネスについて考察をしてみました。



1.本とは、中身がよくわからない状況で対価(お金)を支払うビジネスである。

何をアタリマエのことを言ってるんだ・・・と思うかもしれませんが・・・


いわゆるマーケティング用語でいうところの「AIDMA」では、本のような、数百円から高くも1000円台の商材においては、認知(A)し、興味(I)をもち、欲しい(D)と思い、記憶して(M)レジへGO!な商材です。極端に言えば、喉が渇いたな-、あ、コンビニがある、ジュース買おう、まあどれでもいいや、に近いとも言えます。


今買おうとしている本はどういう内容なのか?本当に欲しいものなのか?似た他の商品はないのか?といったプロセスは基本的にはあまり存在せず「欲しいから買うのだ!」という事が多いのではないでしょうか。雑誌を購入するイメージをしてもらえると近いかもしれません。必ずしも指名買いの人ばかりではないですよね?



しかし、これまではそういう売り方で売れていたものの状況が次々に変わってきています。


例えば音楽CDであれば、iTunesになったことで事前に自宅にいながらにして多くの曲が試聴ができたり、ゲームにいたってはもっと進んでいて、まず無料で遊んで試した上で、納得したら初めてお財布の口をあけるという具合です。ファミ通のレビューだけで5000円も1万円もするゲームソフトが売れていた時代は遠くになりにけり。



Amazonであれば試し読みができる本もあることはあります。


対して、書店でも同様に立ち読みをすればよいかもしれませんが、必ずしもそんな時間があまりなかったり、欲しい本の前が埋まっていて立ち読みできないかもしれません。ビジネスマンならそんな商品を比較検討する時間も惜しいですしね。


とすると、私のような無名の本が、他の本よりも書店で手にとってもらうには、「よくわからない(中身を確認できない)けど、なんとなく買ってみようかな」と思ってもらうしかありません。


もちろん、そこを見越して今回の本は出版社のがんばりもあって、大きい本屋で目立つ場所に平積みや、面だし(表向きに並んでいる状態)をしてもらえ、帯にも「堀江貴文」「LINE」「ライブドア」といったちょっと気になるキーワードを入れました。(LINEの年内上場見送りは、想定外でした苦笑)




つまりは、指名買いのケース以外では、とにかく手にとってもらい速やかに購入してもらうことが成功の鉄則の1つであり、しかし、それをやり過ぎることで「期待はずれだった」ということになってしまうという、非常に顧客満足を上げるのが難しいチャネルということがわかりました。

もしこれがネットであれば、例えばホリエモンブログでの書評を読んでから購入を決めるかもしれませんし、Amazon、楽天であれば、レビューを参考にすることもできるでしょう。いわゆる「AISAS」による「検索」や「共有」によるメリットが得られるわけです。



2.本とは、ユーザー(購入者)の状況にあわせて柔軟にマッチングできないビジネスである。


書店に並ぶ本がいったい誰にどのように見えているのか?知る方法はないでしょう。手にとってレジに行った人がいつどんな属性の人だったのか?手には取ったがパラパラ読んで買わずに戻した人がいたらどうして戻したのか?それらは全くわかりません。



恐らく、その日に売れた冊数くらいしか書店は把握できないでしょうし、もし仮に、把握できたとしてもそれらを毎日処理して翌日の配置に反映させることは労力的に現実的ではないでしょう。


もしこれがデジタル技術を導入することで解決できるとしたら?


自分の本に興味を持ちそうなお客さんが入ってきたらその導線上(目のつくところに)に本を配置するということが、リマーケティング広告や、インタレストマッチ広告のようにできたら?

また、顧客の属性ごとにクラスタ分けをし、A属性には、入り口から、ビジネス書、クルマの本、小説、B属性には、入り口から、漫画、文庫、スポーツ・・・みたいなのをいわゆるABテストでぶつけてみて、購入率に応じてチューニングをしていけたら?



ネット上で普通に行われているようなことがもしもできれば、もっと書店というチャネルを有効に活かせるように思います。


海外の大型店舗では、ユーザの属性を登録したスマホに対してRFIDタグ(ICチップ)や、店内につけられたセンサーによって、どういう人がいつどの道を通ってどの商品をカートに入れてレジ向かったかをビッグデータとして収集し、分析することで、棚に並べる商品の最適化や、興味を持ちそうな商品の通知(リアルタイムデジタルチラシ?)などもあるそうなので、書店にもそういう機能が将来、やってくるのかもしれません。



※米国のウォルマートは在庫管理にRFIDを導入して話題になりました。

3.本とは、少なくとも出版社と書店にとっては、本の売上だけで勝負するビジネスである。


これも、何を言ってるのか、、、という感じですが。例えば、本にも書きましたが、アーティストが公式のプロモ動画を無料でYoutubeなどで配信し、そこではマネタイズできなくても、後からライブやグッズで回収できるのであれば、それでよい、というモデルです。


とにかく、まず本が売れなければ、話にならない、という今のビジネスモデルではなく、例えば、本(著者)を認知してもらうことに価値を置くことで、それに繋がる別のポイントでマネタイズできれば、本自体の販売数だけに躍起になる必要はなくなります。

現状、どうしても初版部数を元に何色使えるか、何ページ使えるか、紙質はどれくらい良い物を使えるか、ということが決められてしまいます。それを「出版すること」で別のところから価値を還元することができれば、もっとビジネスとしてバリエーションをもたせた販売方法ができるはずです。


すぐに思いつくところでは、本の帯を広告枠にすることで、売れた部数に応じて広告料が出版社(著者)に入るようにするとか。また、貨幣経済から評価経済へ移行していることを思えば、著者のtwitterフォロワー数を100人増やしてくれた人は本が1冊無料でもらえるとかもありでしょう。


”今の、既存のルールや枠組みからすると、そんなことは無理だよ”、と言われる話かもしれませんが、こうしている間にも角川とドワンゴが統合したり、Youtubeで宣伝動画で大金を手にするユーチューバーなる人達が現れたり、どんどん既存のモデルが破壊されています。



デジタルと比べると、ずっと歴史の長い「出版」と「書店」というビジネス。

それらはデジタルにはない良さも多分にあり、自分も本を選んで買って読むのは好きです。


だからこそ、ビジネスとして成り立たないからといって、ありきたりな内容の薄い本ばかりになったり、若者から受け入れられなくなるのは違うと思い、今回、自分の出版を機に思うところをまとめてみました。

1冊の本との出会いから人生が変わるなんてこともあります。

そして、そこにデジタル技術が生きればいいな、なんて思います。


おしまい。



(おまけ)今、私個人としてできることといったら、この自宅で印刷した手書きPOPを、自力で書店をめぐって設置をお願いするくらいが精一杯でした。


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