15の夜

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二十歳までに彼女ができなければ、成人式は風俗に行こうと、15の夜に思った。尾崎が盗んだバイクで走り出してる時、僕はこんなことを考えてママチャリを走らせてた。

誰のおかげか知らないが、小・中学校の義務教育では、全く女性に縁がない時代を過ごさせてもらった。たぶん、僕のおかげだろう。

まず、バレンタインデーが大嫌いだった。小5の時。前日から妙にそわそわした気持ちになって、好きな子から「もしかしたら、もしかしたら」という甘酸っぱい気持ちをかかえ、当日「あっ、今日はバレンタインですか?まあ、僕には関係ありませんけど」みたいな顔で登校する。こういう日があると、いちいち自分を偽らなくてはいけないので、いけない。さらに「全く、僕には関係ないので、先生、授業を進めていきましょうか」などと言う顔つきで「チョコ入ってるかも知れん」と机の中をさり気なくゴソゴソする。その答えを知るやいなや、さびしい気持ちにおちいるのだ。

勝手に期待して、勝手に自分を偽り、勝手に落胆する。勝手の三段活用。ならば「勝手にしやがれ!」と思い、学校などを休んだら「あいつ、絶対、バレンタインを意識してるんだぜ」と同級生に陰口を叩かれそうなので、絶対、休めない。第一、こんな理由で親も休ませてくれないだろう。とにかく、もてない男子ほど、この日を意識することはないと思う。

バレンタインデーが終われば、こんな気持ちも終わるはずなのだが、僕の場合はもっとタチが悪かった。当時、少年ジャンプに連載していた「アフタヌーン」を読んでいて「バレンタインデーにチョコは渡せなかったが、10日過ぎて、主人公の女の子がやっと渡せた」という物語があったのだ。それを読んで「なるほど、なるほど」と納得しなくていいのに、鵜呑みにしてしまった。なので、僕のドキドキは10日間の執行猶予がついてしまい、バレンタインデーから10日目が過ぎてやっと「やっぱり、もらえなかった」と感じる。女子とは、なかなか罪深いものだ。

そんな僕も中3の時に告白されたことがあった。自宅で受験勉強をしてると、母から「知らない人から電話よ」と言って、受話器を渡された。相手からは「同じ中学で一つ年下の女子です」と言われた。名前を言われても全然、知らなかった。用件を聞くと「好きです」と答えられた。これまでの生涯で、そんな四文字の言葉を自分が聞くとは本当に思ってなかったから、頭がおかしくなった。「ふえーふえー。ふー」と、その時の脳みその動きを擬音語にしたら、こんな感じの音が出ていたと思う。アドレナリンが「今日はみんなお祭りだよ」と言わんばかりに出てきて、手は汗だくになり、喉がカラカラに乾いた。そんな状態で出てきた第一声は「これって、もしかして、どっきり?」だった。「えっ!?」と、かなり相手も驚いていた。違うのか、やっぱり違うのか。これは鵜呑みにしていいのか。あまりにも女性に慣れていないので、どうしていいか分からなかった。「ちっ、違います」と相手側。「そっ、そうなんだ」と僕。10秒ほど、お互いに沈黙が流れる。「とっ、とりあえず、今は受験が終わるまで、あまりそういうことを考えられないから」と、いつの間にか口走っていた。「そうですか。わかりました」と言って、電話は切れた。その当時、僕には、こんなにでっかい幸せをいれる容器を持ち合わせていなかった。はっきりいって、ビビっていたのだ。電話が切れて、放心状態の僕に母は「スーパーで、ひき肉、買ってきて」と言ってきた。

盗んだバイクでもないし、行き先は駅前のスーパーだけれど、僕は一生懸命にママチャリをこいでいた15の夜だった。

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増山 友寛

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