息子とセブ島のジプニーに乗ったときの話

早朝、ジープに乗りたいという息子にたたき起こされ、寝巻きのままジープに乗りジョリビーのホットケーキを食べに行く。

半年振りのいつもの街並、雑踏、排気ガス、人いきれ。

車の揺れに足がおぼつかない息子の手を、乗客が順繰り引いて、僕たちを一番奥の安全な席に座らせてくれる。これも変わらない心地よい心遣い(乗り物自体はまったく心地よくないのだけれども)。

しばらくすると、丸刈りの若い男性4名と、頭がぼさぼさ、シャツはよれよれのレゲエ風のアニキが乗り込んでくる。丸刈りの男性たちのきびきびとした動作と、レゲエ風アニキのよたよたした動きが対照的。

丸刈りの4名の男性たちはしばらくすると、「暑い、寒い、涼しい、危ない」などと、日本語の復習を始めた。色違いだがそろいのポロシャツにはGolden Gateway Manpowerという刺繍が入っている。どうやら、技能研修生の送り出し機関の研修生らしい。この会社は聞いたことがなかったので、多分新しい会社だと思う。

ここ最近の技能研修生制度の改正により、受け入れの門戸が広がったことからセブでも新たな送り出し機関の設立計画の話をこの滞在中に耳にしたので、この会社もそんな流れでできた機関かと思う。

この4人の中のリーダー格の男性が、日本語でいろいろとおしゃべりする息子の様子を見て、僕に声をかけた。

男:「息子さんは、日本生まれかい?」

ちょっと、質問がおかしいけど、いつものことなので会話を続ける。

僕:「うん、息子は日本生まれで、この週末だけセブに戻って来たんだ。」

男:「へえー、で顔立ちからすると、ママはセブアナ(セブの女性)じゃないよな?」

僕:「まあね」

4人の男性は、へえーと感心して僕の顔を見つめる。まるで、おまえうまくやったなと言わんばかりの表情だ。もう一人のレゲエ風のアニキは、ずっとぼーっとして虚空を見つめている。

男:「俺たち、再来月には日本に行く予定なんだ。俺は、まあ、家族がいるからそういうチャンスはないと思うけど、他のやつらは、まだチャンスがあるかもな。」

僕:「みんな、どれくらい日本に行くの?」

男:「一応、2年か3年と聞いているけど、希望すればもう少しいられるかも。でも、俺は娘が生まれたばかりだから、できるだけたくさん残業して、3年以内には帰りたいな。」

僕:「娘さんに会えなくなるのは、さびしいだろ?」

男:「まあ、それが人生さ、家族を食わせなきゃならないだろ。俺たちみんな訳アリでとにかく稼がなきゃ。」

僕:「で、このぼさぼさ頭のヤツは?」

男:「ああ、こいつか、俺のいとこなんだけど、毎日遊んでばかりでどうしようもないヤツだから、連れて来たんだ。今日ボスと面接だよ。」

僕:「でも、大丈夫かな?」

男:「ははは、まあ、神様次第さ。研修はすごく厳しくて、ブーツキャンプみたいだからいい訓練になるよ。それで、こいつも海外で数年働いてくれば一人前の男になるんじゃないかな。」

彼にとって、日本に出稼ぎに行くことは、家族を養うため、そして一人前の男になるための巡礼のようなものなのかもしれない。

州庁舎の近くでジープを降りる前、彼は息子の頭をなでながらこう言った。

Don't forget Cebuano pride and work hard for family like your father !

(セブ男の誇りを忘れるな、そして父ちゃんみたいに一生懸命働けよ!)

関東のどこかで働くことになるというこの男も再来月にはセブを発ち、次に生まれたばかりの娘に会えるのは、その子がちょうどうちの息子くらいになる頃かと思う。勝手な思い込みだが、息子に語りかけたこのことばは、まるで彼自身が自分に言い聞かせているかのようだった。

そして、レゲエ風アニキも彼に促されて、のそのそとジープを降りる。

みんなそれぞれに理由があって、精一杯生きている。

ジープの窓から空を見上げると、セブでも清々しい秋空が広がっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

マンゴストリートのジョリビーの前でジープを降りた。

ジョリビーで息子は甘い甘いパンケーキにメイプルシロップをたっぷりかけて頬張り、それをこれまた甘い甘いパイナップルジュースでおなかに流し込んだ。口の周りをシロップでべたべたにしながら息子は言った。

「ジョリビーおいしいね、やっぱり。」

少なくとも、この部分に関しては幸か不幸か我が息子は十分にCebuano pride を体に刻み込んでいるようだ。。。



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