ハンドボール 第七回

前話: ハンドボール 第六回

2回戦、苦手なY中相手に(自分で言ってしまうけど)活躍し、それなりに貢献し(これも自分で言ってしまうけど)、チームのキーマンになってた僕。

「この点差を守っていけば」、とかは思わず、「更に点差開けてもっと活躍してやる」と意気込んでいました。


休憩しながら、ブロックでボコボコになった腕を冷やします。

前半、ほとんどキーパーまでシュート届いてませんからね。ほとんど僕が止めてます。そのぐらいドンピシャな作戦だったんですよ。


先生も仲間も「イケる」と感じてたと思います。ウチの誰もが「勝てる」と。僕も後半は更に止めてやると息巻いてました。後半が始まり、前半と同じように動き回り、相手のシュートチャンスを潰します。


そしてシュートを決めて、声を出し、お互いがお互いに声を掛け合い、注意をし合って、チームが最高の状態で盛り上がってます。今まで試合中にオドオドしてた僕はもう、そこにはいません。(偉そうに)仲間に注意してる僕がいました。


後半入って5分過ぎぐらいでしょうか、相手チームのセンターが同じように切り込んできたので思い切り前に詰めたら相手チームの選手も僕も衝撃で倒れました。


「やった、相手のチャージでこちらのボールだ」


と思ったんですが、その反則を知らせる笛のあとに続いた審判の声に自分の耳を疑いました。


「8番、失格!!」


僕は「え?」って感じで状況がよく飲み込めてない。

僕の感覚では今のは相手のチャージであって、こっちのボールになったと思ってただけに余計に状況が飲み込めない。


仲間も相手チームですらも状況が飲み込めない。


審判が何を言っているのかわからない僕はボールを持ったまま、ただ呆然と立ち尽くしてました。


「え?シッカクって? 失格? 誰が? しっかくって? 何を言ってるんだ・・・?」


とパニックに。


すると、僕が状況をわかってない、と気づいた先生から

「ムツ、いいからこっち戻ってこい!!」

と呼ばれ、ボールを置いてベンチへ。

僕の変わりに控えの人間がコートに入りました。


状況がわからない僕は先生に「しっかくってなんですか?」と聞いてみると、先生はこちらに顔は向けないものの、穏やかに、


「ハンドボールってのは3回退場すると失格になって、その大会にはもう出られないんだ。」


と告げられ、状況を把握した僕はその場に膝から崩れ落ちました。


取り返しのつかない大失態と、悔しさ、もうコートに戻れない悲しさ、そしてチームのみんなへの多大な迷惑・・・自分を責める気持ちや感情が一斉に溢れ、涙がとめどなく溢れてきました。


すぐさま立って、先生に、「すいませんでした。僕のせいで、僕が、僕が・・・」

もう、言葉になりません。


とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいで、何を謝っていいのか分からないけど、自分がいなくなったことでチームがピンチになってるのは前半の退場時でわかる。とにかく謝って済む問題じゃないけど、謝らずにはいられない。


「すいません、すいません。いったい僕はどうすればいいですか(どうすれば許してもらえますか)?」


と謝り続ける僕。


どんな罵声も怒号も蹴りも、どんな罰も受けるつもりで覚悟してました。


すると先生は穏やかに笑いながら


「ムツよ、お前は今までの3年間で一番いい動きをして、文句のない、いいプレーをしていた。失格には驚いたけどな(笑)怒ることなんて何もないよ。 お前は頑張った、よくやったよ。今、お前がするべきことは謝ることでも泣くことでもなくて、今コートにいるアイツらを応援することちゃうか?」


と僕に向かって話してくれました。


先生からこんな温かい言葉をもらったのは初めてでした。


そして近くにいてこの光景を見ていた、普段は僕をバカにしてる後輩達も


「そうだよ、先輩。先輩の今日の前半のスコア知ってる?チームで一番点を取ってるし、一番シュート止めてるんだよ。今までで一番すごい試合だったよ。マジ俺ら感動したって、すげーよ!!」


と、後輩も涙流しながら声をかけてくれました。

キツイ、厳しい一言だったら良かったんですけどね、こんな言葉をかけられると却って涙止まんないです。


僕は涙を拭き、精一杯声を出して応援を続けました。


声が掠れて出なくなるぐらいに必死に。注意を呼びかけ、盛り上げ、応援し、声を出し続けます。


しかし、僕がいなくなったことによって、今までブロックしてた部分からシュートを入れられるようになり点差は縮まり、遂に逆転。


自分があそこにいれば、あんなシュート入れさせないのに・・・と点を入れられるたびに、胸が痛みます。


仲間も頑張って取られた点を取り返しには行きますが、キャプテンと僕がいないという時点でロングシュートを打てる人間がいない、攻撃が単調になりどうしても点が入りづらくなってきてます。



笛が鳴りました。

2点差で僕らが負けました。


またその点差の少なさからも「僕が失格になってなければ・・・」と胸が痛みます。

ベンチに戻ってくる仲間に大声で謝ります。申し訳ない気持ちで涙が溢れました。


「ごめん、俺が抜けたから・・・、俺のせいで・・・」


「バーカ、お前の責任じゃねぇよ。お前、めちゃめちゃ活躍したじゃねぇか。大体、今までのお前に比べたら上出来だよ。気にすんな。しゃーないわ。」


とあっさり。


一緒に闘ってきた人間だからてっきり文句の一つでも出るかと思ったんだけど、仲間から出てきた言葉はあっさりとこんな感じ。ちょっと拍子抜けしちゃいました。


僕らの夏は終わりました。

辛く苦しい3年間でしたが、迷惑かけながらもとてもいい思い出と財産をもらった中学の部活でした。

試合を終えたあとに撮った記念写真はすぐ出せる場所にしまってあり、たま~にその写真見てます。


そして「ハンドボール部でよかったな」と思います。

初めは「なんとなく」でやってた部活だったけど、仲間に恵まれて、厳しかったけど「恩師」と呼べる先生に出会い、「自信」をもらいました。


なんだかんだ言って一番楽しかったし、強烈な印象の残ってる思い出です。そして息子に自慢できる数少ない思い出です。

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