08二度目のキッス、好きです【息子たちに 広升勲(デジタル版)】

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この話は、わたくしの父が1980年に自費出版で、自分と兄の二人に書いた本です。

五反田で起業し、36で書いた本を読んで育った、息子が奇しくも36歳に、

五反田にオフィスを構えるfreeeの本を書かせていただくという、偶然に五反田つながり 笑

そして、息子にもまた子供ができて、色々なものを伝えていければいいなと思っています。 息子 健生

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二度目のキッス、好きです


四十七年四月、母ちゃんは、短大を卒業して三鷹市中央保育園の保母になった。

その頃も一ヶ月に二~三回は本部に来ていた。

四十七年の秋、何月何日か、はっきりおぼえていないのだが、父さんは母ちゃんを送ってあげるよ、といって車で送って行った。

三鷹の母ちゃんのアパートがわからず途中道に迷った。

車の中で二人は歌をうたったり、父さんが演説の真似をしたり楽しかった。

道に迷って静かな所を通りがかったとき、車を止めた。キャアキャアにぎやかにしゃべっていた二人は急に静かになった。

「キッスしょうか」と父さんは言った。

母ちゃんは黙っていた。

キッスをした。

「品田さんは、ほんとにいい感じの女性だね」父さんは母ちゃんの耳もとでささやいた。

「広升さんが好きです」母ちゃんは言った。よくしゃべる母ちゃんが、ポツリたった一言そう言ってあとは何もいわなかった。

暗い夜道、人影も、車のライトの光もなくシーンと静まりかえっていた。

二人はズーット黙っていた。

彼女はぼくに好意以上のものを持っているなと感じた。

そのときも、父さんはまだ結婚をしたいと思っていなかった。だから、“清い関係でなければいけないな、これ以上深い関係になってはいけないな”と理性が働いた。

だから、そのときも、キッス以上のことはなかった。

それが母さんと二度目のキッスだった。



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