僕と君の別れを東京タワーが照らした



私はいつもここに立っている


毎日たくさんの人が行き交う。

朝には出勤を急ぐサラリーマン。昼にはランチに出るOL。

そして夜は、喧噪を楽しむ華やかな若者達。


今日もまた、眩しい夜がやってきた。


ここは、わたしの居場所


わたしの定位置がここになったのは、ちょうど1年前くらい。

留学から帰ってきたばかりの彼が、わたしを選んでくれた時はとても嬉しかった。

彼の手の中はとても居心地がいい。どこに行くにもいつも一緒。今日は、珍しく六本木へ行くみたいで、当然わたしもついていく。


今日も彼はわたしをなでる。

だけど最近、少し彼は冷たくなった気がする。


僕は、六本木に向かっていた


表参道のオフィスで作業をして、夜の飲み会の為にタクシーで六本木に向かう。

表参道とか六本木とか、やばい今僕めっちゃ東京人。なんて考えながら、車通りの多い窓の外を眺める。

東京は、せまくて、広い。たくさんの人生が、夜の街を歩く。


六本木に着いて、タクシーを降りる。

コンビニでお金を降ろし、横断歩道を渡っていると東京タワーがきれいに見えた。

慣れない夜の街で、僕らを照らしていた。

やっぱりスカイツリーより東京タワーだよね。

友人とそんなことを話していた。

写真でも撮っておこうか。その時、なんだかわからない違和感が僕を襲った。


気づけば、僕は一人になっていた。


一台のタクシーが交差点に止まった


大きな荷物を抱えて、男3人組が降りてくる。

にやにやして、これからパーティーか?


その中の一人の男が私を見ている。

そして私も、彼が大事なものを失う瞬間を見ていた。

あーあ、言わんこっちゃない。都会に浮かれて、大事にしないから。


私は今日も、東京の夜を照らしている。


それは突然だった


急に、わたしは一人だった。

わたしが一人になったことに、彼も気づいていない。


たくさんの人が通り過ぎる。誰もわたしなんて気にかけず、夜の街を楽しんでいる。

彼は、わたしがいなくても平気なんだろうか。困らないのだろうか。

もう一度、彼になでてもらえるのだろうか。


わたしと彼のつながりは、人ごみに埋もれて簡単に見えなくなった。

わたしは、ゆっくりと目を閉じる。


一人のわたしを、東京タワーだけが照らしていた。


彼女がいなくなっていた


いつの間にか、彼女は僕の手からすり落ちていた。

確かに最近放置気味だったけど、まさかいなくなるなんて。僕は全く予見できなかった。

冗談じゃない。彼女がいないと、僕はなにもできない。

パソコンで彼女とのコンタクトを試みる。

くそっ。電源切れてる。


飲み会が終わって、僕は夜の街を走った。

彼女を探した。


彼女が、僕の手に戻ってくることはない。


もうすぐ日付が変わる


さきほどの彼が、店から出て走っているのが見えた。

なにもそこまで必死にならなくても…。

あー、そこにいるんだけどなぁ。行っちゃったよ…。


今日も、私はたくさんの人生を照らす。


2日後、僕は恵比寿にいた


店員さんが僕に聞く。「保険はつけますか?」

僕は、はい。と答える。


友人が僕に言った。

「どうやったら携帯失くせんの?」


頼むから、今更出てくるなよ。

僕はもう、機種変しちゃったんだから。





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