初恋は男の人だった

初恋は男の人だった


 Aセクシャル(無性愛者)。

僕は異性に関わらず、同性にも恋愛感情が生まれることはない。

そのことは家族から教えてもらった。

小学生高学年の頃に、「好きな子は崇君(仮名)と真由ちゃん(同)」と

答えたそうだ。


 「男の子は女の子を好きになる」と中学の教科書に書いてあった。

僕は女の子も、男の子も同じくらい好きになる。でもセックスをしたい訳ではない。

一緒にいて楽しい人か、そうじゃない人かの感覚。

 中学3年生になると、周りの男友達には彼女という存在をつくるようになった。

友達のセックス話に付いていけず、アダルトビデオを携帯電話で見るようになった。

「女の子とこんなことをしないといけないのか」。周りにとっては普通の関係なのかもしれない。

 僕に告白してくれる女の子が何人かいて、断る理由も見付からなくて付き合った。

彼氏として何をするべきか。付き合った日を一カ月ごとに祝う、誕生日に遊ぶ、初詣に一緒に行く

、そんなことしか思いつかない。

 「キスは?」「もうやったの?」。友達からの質問に、携帯電話での動画を思い出す。


 「できない」

キスを、セックスを期待しているなら申し訳ないと別れることにした。

案外とあっさり。僕は彼氏として何もしてあげられなかったんだと思い知った。


 高校生になるとセックスは当たり前。周りの会話に合わせるために、何度もインターネット

でセックスの種類や感情を調べた。

 「いつか僕も誰かと裸になって、こんなことするのかな」

そう思った時、僕が一番に気掛かりになったのが裸を見せること。

何もよりも恥ずかしいことで、億劫になった。


 「どうせ見せるなら、男の人がいい」

携帯電話で、ゲイの出会い系サイトを見るようになった。

投稿されている自己紹介を熟読して、この人なら危なくないだろうと、最初はお茶くらいで

という気持ちで、顔の見えない人と会うことになった。


 春の行楽日和。車で迎えに来てくれてドライブ。朝から海を見たり

動物園にいったりして、普通の日曜日を過ごしていた。

 夜、家の近くまで送ってもらった時、帰ろうと思った矢先

突然体を引き寄せられ、抱きしめられ、キスをされた。

急に携帯で見た動画が頭をよぎり、「ごめんなさい」と車から走って逃げた。


 怖くなって、冷静になった時。もう付き合うとか、体の関係を知るとか

どうでもよくなった。それから高校、専門学校に進んで、社会人になった。


 24歳。結婚して、子どもに恵まれていく友達が増えていく。

僕は何も生むことはできない人間だ。自分を悲観的に思うようなった。

幸い、ポジティブな性格。何も生まないなら、それだけの経験はしたいと

後悔を覚悟して、再びゲイの出会い系サイトを利用するようになった。

 セックスをするなら落ち着いた大人な人がいいと、14歳年上の男性、和人さん(仮名)とメールをし始めた。 


 1カ月後。「仕事帰りに会おう」と誘われた。前の人は会うまで1週間だっただけに、もう会う気はないのではと薄々思っていた。セックスを知る日が来たかと、鼓動が早くなった。

 当日、会ってみるとメール通り大人な人だった。緊張している僕に話を振ってくれたり

缶コーヒーを買ってくれたり、思いのほか楽しかった。

そして帰り際、「今度は晩ご飯いこうなー」。

 襲ってこない。覚悟したはずの緊張の糸が切れたように、唖然とした。

ご飯に行った日もそうだった。たらふく食べて、仕事の愚痴とか、何気ない日常生活を話して帰った。


 2カ月が経とうとした頃、僕は仕事でいつもより朝が早い日があって、仕事場に近い和人さんの家に泊まることになった。

 お風呂を借りて、宅配ピザを食べて、友達の家に来ている感覚だ。

「おやすみー」と明かりが消えた。僕が携帯電話を触っていると「寝れへんのか」と

僕の布団に入ってきた。僕の体に腕を回してきた時、何も分からない僕にでも「セックスが始まるな」と覚悟をした。和人さんの体の温かさ、寝息が僕の鼓動を早くさせた。「どうしてこんなにドキドキ」しているんだ。

 ふと気付くと和人さんは本当に寝ている。腕を回して。ものすごく子ども扱いを受けていると少し照れてしまった。


 この人なら体を見せてもいい。そう思うようになっていた。

和人さんは経営者。忙しい人なのに毎日メールをしてくれる。

それから会う日は泊まるようなって、6回目の時、いつも通り僕と寝ている時

僕の頭を触りながら「怖くないか」と問いかけてきた。

「なにが?」。知らず知らず、僕は和人さんに何をされてもいいと覚悟ができたいた。


 「これから怖いことするで」。そう言って、電気を消して僕の体中を触り始めた。

僕はどうしたらいいか分からず、服を脱がされ、舐められ、、ことが進む。

  どうしてかすごく前のドキドキに嬉しさが交わるように。


 それから、僕は和人さんに無性に会いたくなって、自分から会いたいとメールするようになった。

気付けば年末。お互い忘年会やあいさつ周りで多忙の時期。

 毎日メールしていたのに、1日、2日と途切れるようなった時、ものすごく不安になって

5時間、2時間置きにメールしている自分がいた。

 「会いたい。会いたい。少しだけでも会いたい」


 12月30日、メールは5日も途切れていた。

僕は焦っていた。もう会えないんじゃないか、新しい人ができたんじゃないか

と、胸が苦しい。

この思いから脱したくて色々考えた末にでたのが、もう会わなければこんな思いはしないという答え。

 「少しだけでも会ってほしい。最後に少しだけ」とメールをした。


 1時間、2時間…刻々と時間は過ぎ、日付が変わり、きょう、大晦日になった。

「あかんかったか」と落胆した時、携帯電話が鳴った。

6日ぶりのメール。

 「最近忙しくてな。ごめん。一人で騒ぎ過ぎ。全然最後じゃないな。来年ゆっくり会おうな」


 このメールを見た時、涙があふれるとともに、自分のことしか考えていなかった自分に腹が立った。あんなにメールを連投したのに、怒っていなかった。また会えることに、焦っていた心も治まった。

「来年、約束していた店に連れて行ってくださいね!よいお年を」と返信して、晴れた気持ちで今、大晦日を過ごしている。

 それぞれの生活がある。三が日、新年会など、新年は忙しくてすぐには会えないだろう。

それでも、会える日を楽しみ、ことしの最後も笑って過ごせた。

 

 僕にとってはこれが初恋なんだと思う。

会いたいと気持ちが馳せること、メールが続かないと不安になること、自分のことしか考えられなくなること、それが僕が和人さんに教えてもらった感情。本当に出会えてよかった。

 男に恋をしたということは、僕はゲイだったのか。でも和人さん以外の人に、体を見られたくないし、抱き合うことは考えられない。

 和人さんが好き。それだけでいい。誰かを大切にしたいと思う気持ちを芽生えさせてくれただけで、救われた。性癖なんてもうどうでもいいことだ。


 僕が恋を知るまでの24年間。ことし一番、一世一代の出来事をどこかに残したくて、STORYS.JPのスペースをお借りしました。

 来年になるのが待ち遠しい大晦日になりました。2014年、ありがとう!


 




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