【襟裳の森の物語】第六夜

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〔合唱組曲『襟裳の森の物語』第四章〕

 前二章にわたり,人間の愚かさ,取り返しの付かない絶望を次々に重ねてきた合唱だったが,それはこの第四章の輪郭をくっきりと示すためだった。前章が終わり,悲痛なほどの,耳の奥が闇に引っ張られて痛くなるほどの静寂が会場を包んだと思った次の瞬間,

「わー!」

という子どもたちの明るい叫び声が,雰囲気を一気に変えていった。

 今までとは打って変わって明るいピアノ伴奏が始まる。ピアノは今までの,伴奏に徹した,和音の響きあいを重視したものとは違い,新たな歌い手である子どもたちがメロディーを“聴き失わない”ように,明るいメロディーの一部を奏していく。子どもたちはニコニコと笑いながら,体を左右に揺すっている。子どもたちの服装は,一様に緑系の色だった。樹を表しているのだった。


第4章『樹を植えよう』

  樹を植えよう 樹を植えよう 山に樹を植えよう 浜辺にも植えよう

  食べられない海藻が 草たちの寝床さ 海藻を広げて 風に飛ばないように

  草たちよ根付け 一本一本育て

  樹を植えよう 樹を植えよう

  やっと芽生えた草たちの 間に植えよう 黒松の苗を

  樹を植えよう 樹を植えよう

  カシワカシワシラカバ カエデカエデアオダモ 育て育て


 前半で子どもたちによって伝えられたメッセージは,後半合唱団によって豊かに繰り返された。第四章は今までの曲とは違い,最後までインテンポで明るく,一気に歌い上げられた。

 終了と同時に,客席からは思わず発せられたのであろう拍手が聞こえてきた。その拍手がなり終わらぬうちに,美しい三拍子のメロディーが奏される。序章と対をなす,終章である。

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