香港の学生たちの思いは無力なのか。 大学新聞部で出会った二人の書き手による香港の現在。

自分が無力であることを承知のうえで、どうしても気になっていることがある。中国共産党に反抗して立ち上がった台湾と香港の学生たちのことだ。世間の関心はイスラム国による人質事件に移ってはいるけれど・・・。


大学時代に僕は新聞部に所属していた。当時の学生運動の影響で、左翼系の色合いが濃い新聞だった。そこで様々な政治党派の活動家やノンセクト系の学生と出会い、デモにも参加した。そんな昔の記憶が、ニュースで流れる台湾と香港の学生たちの熱気であぶり出されてくる。


台湾では2014年3月、中国とのサービス貿易協定に反対する学生と市民が立法院を占拠した。今のところ小康状態が続いているようだが、結局は中国共産党に敗北するのではないかと予測する向きが多い。


その後、台湾の動きは香港に飛び火し、2014年10月にいわゆる普通選挙に反対する学生たちが幹線道路を占拠する。しかし12月には香港警察がデモ隊を強制排除し、79日間に及んだ学生たちの反乱は完全に終結した。


この香港の学生たちのことを、当時大学新聞部の仲間だった二人が文章につづっている。一人は共同通信編集委員の石山永一郎氏、もう一人が旅作家の下川裕治氏だ。同時代を生きてきた二人の書き手が、同じ時期に香港に入り、それぞれの思いを記している。


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石山氏は「祈りよ力に」という連載コラムを書き続けている。アジアで起こっている悲惨な戦いのなかで、祈ることを拠り所に生きている人々を描いている。その香港編では、「純情なる抵抗(石山氏)」を続ける多くの学生の声を集めている。たとえばこんな声だ。


「ママはしょっちゅう『政治にはかかわるな』と言っていたね。(中略)ママが文化大革命の時に紅衛兵にさせられて、それからは学校で勉強ができなくなったことも知っている。(中略)でも、我慢できないの。もう私が育った香港じゃない」(エンゼル、女)


石山氏はクリスチャンだが、祈ることだけで平和が実現するなどとはもちろん考えていない。複雑な国際政治の力学のなかで、あるいは中国共産党という得体の知れない怪物を前にして、金と軍事のリアリズムを解った上でなお「祈る」人々を書き続けている。


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旅作家の下川氏は、一般的には「貧乏旅行」や「バックパッカー」の元祖のように言われている。デビュー作は「12万円で世界を歩く」であり、その後40年間、特に東南アジアを同じスタイルで旅をし、書き続けている。


彼のブログのタイトル「たそがれ色のオデッセイ」は、学生新聞に書いていたコラムと同じものだ。そのなかの「いつも涙の香港人たち」で、路上に佇んで香港の未来に思いを馳せている。彼は旅行ガイドブックや関連書籍を事前にはいっさい読まない。先に情報に触れてしまうと、自分が驚かなくなって原稿が書けないのだ、と言っていた。今回もきっとそうだったのだろう。


下川氏のスタンスは、学生時代とまったく変わっていない。異国の地で生身の自分が何を感じるか、そしてそう感じるのは何故か。常に自分自身を起点にルポを書き続けている。そして、歳を重ねるなかで自分たちが忘れてきたもの、いつの間にか日本人が失ったものを、ていねいに掬い取ろうとしている。


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中国共産党への支配に反対して立ち上がった台湾と香港の学生たち。その思いは力によって今のところねじ伏せられたように見える。しかし中国共産党の一部指導者が、世界の金融資本と結託して実は自国民から収奪を繰り返していることを多くの国民が知ったとき、何かが動くのではないか。学生たちの思いの種火が、いずれ時代を動かす原動力として大きく燃え広がるのではないか、と夢想してみる。


二人の書き手の記事に触れて、改めて自分の心のなかにある何かを問い直してみている。

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