台湾に出向時代

12年程前。日本からから台湾へ出向して、現地に12店舗あった『xtime』という家電量販店の運営を指揮してた。
既にセブンイレブンやローソン、ファミマ等の日式(北京語で日本式の意味)コンビニがすっかり根づいていて、アニメや漫画、ゲームにジャニーズ、J-POPコンテンツも大人気だった台湾。一見、日本とほとんど変わらないかと思えたけど、いざ運営する店舗の様子を見てみたら大きな違いに驚いた。
日本ではお客様が来店したら「いらっしゃいませ(歓迎光臨)」と言う事が当たり前だったけど、現地では素知らぬ顔。指摘をしたら「自分の仕事はレストランの給仕じゃない。いらっしゃいませと言うのは恥ずかしいし嫌だ」との返答。
お昼や休憩時の飲食を店頭ショーケースの上で接客しながら食べる。
ちょっと汚れているから、とアルバイトの子に掃除を頼んでも「自分の仕事は掃除屋ではない」と断られる、etc...。
初めての海外仕事だったので、これが文化の違いか!とカルチャーショックを受け、どうしたものかと頭を悩ませた。
当時、伊勢丹、三越、高島屋といった日式デパートは、接客も丁寧、店内も清潔、綺麗だったので台湾でも人気を博していた。日本の接客は過剰と言われるが、気持ちの良いものはどこの国の人でも気持ちの良いものなのだ。方向は間違っていない。
アルバイトですら店内のあらゆる所に気を配り、進んで仕事を見つける、という最近では社畜乙とか言われてしまう日本人らしい仕事への取り組み方も僕は好きだったので、何とか台湾でも導入できないかと接客マニュアルの作成や、朝礼、ルール作り等を行っていった。
そんなある日、台北の三越デパート近くに新店舗をOPENする話が出てきた。
「どうしたら話題になるか」という会議で、僕が提案したのは「行列を作らせよう」というものだった。
当時、ソニーのPlayStation2がアジア圏でも正式に発売され話題になっていた。このPlayStation2を「当日来店した方の中から抽選で1名にNT1円で販売しよう」と提案した。
しかし、日本ではよく見られた行列という行為は、台湾では見られないものだったらしい。出るわ出るわ反対の意見。「台湾は暑い国だから、そもそも外を歩かない。歩かないのに並ぶわけがない」、「たった1名だけが買えるものに行列が出来るわけがない」、etc...。
僕はグループ会社である『xtime』の董事長(会長みたいなもの)に呼ばれて、台湾に出向していたんだけれど、総経理(社長)や総経理グループの経理(役員)連中からはものすごく嫌われていた。会議でも総経理に対して、それはおかしいとか、間違っているとか平気で言っていたので、「董事長の威を借りてる日本から来た若造」と思われていたんだろう。今ではFoursquareで”9週連続バーです!”と言われたりするけれど、当時はお酒はあまり好きではなかったので、総経理達との飲みにケーションが足りなかったのも原因だと後から思った。
そんなわけで、まわりから反対されようが嫌われようが何も気にならなかった僕は、最終的には「やってみなければわからない」と押し切って、そのOPENイベントを決行した。
Open当日。押し切った手前、人が並ばなかったら恥ずかしいなと多少思ったが、それよりも”台湾の人だって並ぶんじゃないか?”の問題の回答を見ることが楽しみだった。
そうして台北駅からほど近い、三越の脇を抜けて新店舗の前に行ってみると・・・行列はあった。詳しい人数は覚えていないけれど、最初3、40人程くらいだったと思う。見ているうちにも歩いている人や、近隣のお店の人まで顔を出してきて、なんだなんだと騒ぎ出した。あっという間に100人くらいの行列が出来上がっていた。
地元のケーブルTV局も来て、取材も行われた。
急遽作った「PS2、抽選で1名1元!」の看板を持って社員が客寄せしていた。会議の席で上司の経理に合わせて「絶対成功しない」といってた社員だ。そいつが笑顔でレポーターのインタビューに答えていた。
お前最後まで反対してたじゃねーか、と思ったがまあ良かった。異国の地での初の試みは期待通りの結果を残した。
このxtimeが今では台湾国内No.1の家電量販店に成長して・・・となっていれば格好良いんだけれど、数年後、事業も縮小し他の会社に買収されてしまった。台北の店も僕が帰国する直前くらいに売上が伸びず閉店してしまった。
それでもこの件をきっかけに、おもしろいことや気持ちのよいことは文化によって多少違いはあるけれど、お客さんは素直であることがわかった。それと、先入観は恐ろしいな、ということ。今までこうだったからこうなんだ、なんてそれこそ「やってみなければわからない」んだなとわかった。

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