日本は戦争をする国になるのだろうか?という話
かつて「カミソリ」と呼ばれた後藤田正晴は、1987年のイラク・イラン戦争の際に中曽根首相が提案したペルシャ湾への掃海艇派遣を「蟻の一穴」であるとして拒否した。それから4年後の1991年、湾岸戦争終了後に海上自衛隊の掃海艇がペルシャ湾に派遣され、翌1992年にはいわゆるPKO協力法が施行された。
そして、20数年後の現在、集団的自衛権の見直しが閣議決定された。今後はこの閣議決定をもとに法的な整備が進められていくこととなる。
今後、日本は他国の戦争に巻き込まれる、あるいは他国に戦争を仕掛けるような国になるのだろうか。現政権が想定している戦争には以下のケースがあるだろうと思う。
① 領土紛争にかかわるもの
② ミサイル防衛にかかわるもの
③ 海外の邦人保護にかかわるもの
④ 中東からの石油輸入のためのシーレーン防護にかかわるもの
個人的には①から③までのケースで実際に武力衝突が起こる可能性は低いと見ている。危険なのは④を名目とする石油利権保護のための派兵だろうと思う。石油の安定的確保は経済成長に欠かせない要素であるということが派兵の理由となり得る。イラクの不安定化が進む中、自国の兵力だけでこの地域の覇権を支えきれない米国は日本にも派兵を要請してくる可能性は十分ある。
ご存知の通り湾岸戦争の際にも前例はあり、当時の海部政権は130億ドルの経済支援と戦後の掃海艇派遣で米国の要請に応えようとした。そして、またおそらくは米国の要請によって集団的自衛権の見直しが決定された。
つまりこれは、今後も日本という国が日米安保条約を軸にアメリカの同盟国としての役割をアジア地域で担っていくことを宣言したということだろう。TTPについてもこの文脈で交渉に参加したと考えて間違いない。とにかく現政権はこの選択がベストでないにしてもベターであると判断した。
では、これが仕方のない選択だとしたら他にどんな選択があるだろうと考えた。
① 全方位外交
日米安保条約を堅持しつつも、周辺の国家とも友好関係を維持する「全方位外交」。かつて小沢一郎が「正三角形」、あるいは鳩山由紀夫が「友愛の海」と形容した政治方針。その後、小沢も鳩山も失脚する。
② 対米従属から対中従属へ
日米安保条約を破棄し、日中安保条約?のようなものを締結する。在日米軍は撤退し変わりに在日中軍が国内に駐留する。あるいはそこまで行かなくても、中国海軍の艦艇の補給や整備を国内の港湾で行う。
③ 中立国家宣言
韓国が提案しているような、スイス型の中立国となる。韓国と日本が同時に中立国化し、周辺国による覇権主義から距離を置く。一種の鎖国主義。
これまでもたびたび日本は①を試みたあが、そのたびに失敗してきた。田中角栄は日中国交正常化を強行したがゆえにロッキード事件で失脚した。②については思い切ってそれもありだろうかとも思っているが、一回戦争やって負けない限りは実現しそうもない。
個人的には③がいいのではないかと思っている。石油に頼らなくてもよい自然エネルギー開発を進めて、一時的には経済的な苦境に立ったとしても、持続可能な社会の実現をめざして価値観やライフスタイルの転換を進めていくべきだろう。
しかし、これを実現する過程においては景気の大幅な後退による大量の失業者、治安の悪化、国外への移民の増加による更なる人口減少が待ち受けている。このすさまじいインパクトを現政権は現在の国力では吸収しきれないと判断したのだろうか。もちろん自らの利権の確保も重要な課題となっているのだろうが。
そこで結局、現在の方向性で食い延ばせるだけ食い延ばそうというの消去法的な選択によって集団的自衛権の見直しという運びになったのかもしれない。そこには、私たちは世界の国々とどのような関係を築いていくのか、どのような国であり続けたいのかというグランドデザインがない。
では、どうしたらいいのだろう?簡単に答えは見つからない。そこまで極端に考えなくても、とにかく個別の判断をしっかりしていけばよいのではという考えももちろんあるだろう。
でも僕は単純に集団的自衛権の見直しだけに反対してもそれが全ての問題の根本的な解決策になるとはどうしても思えない。かといってもちろん集団的自衛権の見直しに諸手を挙げて賛成しているわけではもちろんない。
集団的自衛権に反対ということはもちろん憲法改正にも反対。では、日米安保はどうするのか?これは破棄するのか?変わりにどこの国と同盟関係を結ぶのか?
元内務官僚で第二次安保条約反対闘争鎮圧の陣頭指揮を執った警察官僚出身の政治家でありながらも、自衛隊の海外派遣を「蟻の一穴」であるとして断固反対した後藤田は、あの世から今日の世界の様子をどのように眺めているだろうか。
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