寝苦しい真夏の夜に見た夢の話

実家の真っ暗な台所でガスレンジの紫色の炎の灯りだけを頼りに煮炊きをしていると、見知らぬ老婆が廊下から僕を見つめている。

老婆が言う。

102歳で大往生した祖母が、いよいよ危ない状態になってきていて、たぶん明け方までは持たないだろうと。

その老婆はいつの間にか台所に入ってきて、僕のほうに両手を差し出し、自分の両手を握れと促す。その時、この老婆は、なぜが顔面だけが中年の女性に若返っていた。

僕はこの人が濃い緑の生地に朱色の梅の花が染め抜かれている着物を着ていることに気づく。

ガスレンジの前から離れ、この女性に向かい合って立ち、両手を握る。この人も僕の両手を優しく握り返し、くるくるとよく動く目で諭すように語りかける。

祖母の最後の時間は、おじいさんとの思い出に浸る時間だけに使えるように注意しなければならない。だから、今からは祖母にテレビを見せてはいけないし、特にニュースを見せることだけは絶対に避けなければならない。

誰かの声が聞こえる。

この人は、祖母の二人目の奥さんの産婆さんだった人。

僕は、ああ、亡くなった祖母の最後の瞬間に、この人は戻ってきてくれたのだ、と思った。

再びこの人を見ると、その顔面はますます若返っていた。そして、また祖母の様子を見るために、そして、最後を看取るために奥の部屋に消えた。

僕は、この人の言いつけを家族に伝えようと2階に続く階段を上がった。2階の部屋には、子どものころの僕の家族が一つのベットの上でごろ寝している。

しかしその体の大きさは、実物の半分ほどしかない。

寝息を立てている「小さな家族」に声をかける。

おばあちゃんに、テレビを見せては…

そこまで言いかけて、目が覚める。

お盆も近い。

数年前、祖母が亡くなった時に、僕はマニラにいた。

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