ピンポン

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僕は卓球が好きだ。


あの音、ピンポン。軽快で愉快な、情熱と可能性に満ちたあの音が好きだ。

1人で戦うから好きだ。試合は僕の戦略で動いていく。

こっそり練習していたサーブで、相手を翻弄するのが好きだ。

コーチが繰り出す意味不明なサーブに翻弄されるのが好きだ。

下手な人も上手な人も、誰もがオリジナルのサーブを持っているのが好きだ。


試合前、ラケット交換するときに、相手のラケットがヤスリで削られているのを見ると、少しビビると同時に、相手のこだわりを感じて、ワクワクするあの瞬間が好きだ。


鬼みたいな顔したコーチと、鬼だった先輩についていったあの1年間が好きだ。

同学年で19人もいたあの卓球部が好きだ。皆ヘタクソ。僕もヘタクソ。そんな僕らが3年になった時に、あの部長についていった1年間が好きだ。

対外試合をする時、ベンチに入れないやつら全員で2階席から必死に応援していたあの時間が好きだ。

汗でだらだらになりながら、皆で色を塗った「必勝」うちわをやたらめったら叩きながら、ひたすらに応援した。変わった応援スタイルは、地域で有名になって、他県の強豪校にもその勢いを恐れられていたと聞いた。あの日の自分たちは誇らしかった。あの頃の熱さが好きだ。


練習するときは、かご山盛りに卓球の玉を入れて、脇においてばんばん練習する。

もりもりに盛られたオレンジ色の玉。そのふくらみが好きだ。可能性の塊に見える。穏やかな曲線の連続が、闘争心を刺激する。かごにゴロゴロと盛るのが好きなのだ。


僕は卓球が好きだ。

誰もいない体育館で、夜1人素振りをしていた、あの窓ガラスにうつった自分が好きだ。

努力する自分が好きだった。努力をしていたら自分のことが好きになった。

懐かしい。僕の原点だ。卓球が僕に努力を教えてくれた。


僕は卓球が好きだ。

卓球台は、温泉にあっても居酒屋にあっても体育館にあっても、おお卓球台がある、となる。たぶん誰が見てもなる。あの感じが好きだ。卓球は誰もが楽しめる。人に近い感じが好きだ。

しゃもじが進化したような、丸みのあるラケットが好きだ。誰でも持てるようなあの形が、どこか愛らしい。


僕は卓球が好きだ。

仕事が忙しくて一度も試合を見に来られなかったけど、
ラバーを買ってくれた、両親のあの日の顔が好きだ。

「あれだけ頑張ってたのに、一度も試合を見てあげられなかったね」と言っていた母の言葉が今でもたまに思い出される。

僕は卓球が好きだ。

ああ 卓球がしたい と今でも思うことがある。

散歩中、誰も見てないと素振りすることもある。


チャンピョンになりたい。もう叶う事はないけど、あの頃の気持ちを想像すると今でも胸が騒ぐ。

布団にもぐって、決勝で戦う自分を夢想するとワクワクが止まらず眠れなくなることがあった。

場内アナウンスで自分の名前が呼ばれ、スポットライトを浴び、会場の全員が自分の試合に注目する。

一心不乱にオレンジの玉を追いかける。いつものラケットを使って力一杯打ち込んだ玉が気持ちのいい音と共に相手のコートを割って駆け抜けていく。僕は振り返り、ベンチと二階席にいる仲間と共に咆哮を上げる。


目を開ければ、レギュラーの座もとれないヘタクソな自分が、ただ布団にうずくまっているだけなのだけど、あの頃、卓球は僕にとっての全てだった。


僕は卓球が好きだ。


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