第四十五章 隠れ家

第四十五章

「隠れ家

 私は才能に欠けている。だから、人の3倍はやらないと塾講師などできないと思ってきた。今は京都大学の英作文の添削を毎日大量にやらせてもらっている。北海道から九州まで通信生がいてくれる。

 京大受験生ほどになると、三単現のSや複数のSといった初歩的なミスはあまり見られない。問題は「ランナーが走っている」のような微妙なミスになってくる。違和感というヤツだ。

 だから、1回目のときはざっと読んで違和感のある場所に線を引いておく。すぐに違和感の理由が分かるものはよいが、なぜか説明ができないものは放置しておく。すると、2回目を読む頃に理由が分かる。人間の脳は考えていると無意識のうちに解答を探すらしい。

 そして、3回目でアドバイスを添えてメールにして送信しておく。この過程で一番重要なのは清書をしている時間だと思う人がいる。見た目、仕事してますから。しかし、私にとって一番大切な時間は1回目と2回目の間の買い物や運動や事務処理をしている時間。あるいは、寝転がってゴロゴロしている時間。

 これは、遊んでいるようにしか見えない時間だけれど一番ひらめきが起こりやすい時間でもある。モヤモヤしていたものが一気に晴れ渡るような感覚だ。これは、数学でも同じことだ。教材の開発や、ブログ、広報、なんでも同じことでアイディアが最重要。そのブラブラを邪魔する人がいる。

 それは、アホ無しで訪問してくる人、電話営業、近所の悪ガキの無断侵入などなど。ひらめきそうな時に、突然電話とか家の周囲に無断侵入して騒ぎ始める悪ガキは営業妨害で訴えたいくらいだ。

 しかし、私は無駄な時間とエネルギーを費やすのは嫌なので複数の「隠れ家」を持っている。誰にも邪魔をされない場所だ。そこでなら、誰にも邪魔をされずに思索に入れる。

 頭の中で考えていることは他人には理解されない。実は、そこが一番大切なのだけれど理解者は極少数。業者はもちろん、家族でも理解されない。1分1秒を大切にしてギリギリに自分を追い詰めて、そこから生まれるものがある。

 しかし、99%の人はそういう生活態度を「変」「厳しすぎ」「オタク」と受け取り理解しない。そこから生まれる発明品や理論の利益は享受して楽しむくせに、生み出す人は罵る。

 受験勉強をしていると、その雛形は中学生や高校生にも見られる。本当に優秀な子は教師を越えている。四日市高校を落ちた教師が、四日市高校受験生を指導し、英検2級の先生が、英検準1級の生徒を指導している。そういう分かりやすい例もあるが、それだけではない。

 本当に優秀な生徒は1分1秒を惜しんで勉強している。クラブや寝る時間さえ削ってギリギリの状態で勉強している子も多い。そんな生徒に

「クラブは強制だ」

 と言い、

「班を組んで分からない子に教えてやりなさい。助け合いは大切だ」

 と言う。これは、頑張っている子を教師の補助教師として使っているにすぎない。手抜きだ。寝る時間を削って、サボっている子の勉強を助けてやれ。ライバルの手助けをしろ。「敵に塩を送れ」と強要しているわけだ。

 頑張っている子ほど学校の教師への不信感は強い。だから、私の塾が彼らの「隠れ家」になる。ここなら、本音が言える。

「自分では絶対にできない量の宿題なんか出して」

「自分が受けたら落ちるくせに」

  私は学校が嫌いだけれど、教師が悪意でやっているとは思わない。ただ、左翼の先生方は頑張る子もサボる子もみんな同じ扱いを受けることを「平等」だと誤解されている人が多い。しかし、生徒はそれが愚かな妄想だと見抜いているのだ。

 だって、社会がそうなっていないのだもの。学校以外の世界に無知な教師の方たちより、よっぽど大人なんです。自分たちがこれから出ていく社会はジャングルであることを覚悟している。妄想を抱いたままでは生き残れないことくらい認識している。賢い子は特に。

 よく誤解されるけれど、教えるのが嫌だというのではない。彼ら、彼女らは「強制」が嫌いなんです。強制されたら

「おまえがオレを教えるのは当たり前!」

 という状態になる。人のあり方としておかしいという抗議なんです。ヤクザや暴走族の予備軍みたいな子には近寄りたくない。頑張っても分からない子には助けてやりたい。そういうことです。助けてやれば感謝もされる。

 しかし、日教組の教師の言うように強制させると道徳も礼儀も廃れてしまう。それは、頑張って働いている人の最低賃金より生活保護の方が高い金額を受け取れる大人社会の鏡なのだ。左翼が行き過ぎると、こういうことになる。

 働き者のアリさんより、享楽的なキリギリスさんが良い生活をするのは間違っているという抗議なのだ。私には全うな反応のように思える。まぁ、学校がダメな分だけ塾が繁盛するわけだから業界は喜んでいるけどね。

 

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