運命の出会いはミクシィ理科実験日記事件。こうして私の婚活は終わった【完全読み切り】

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運命の出会いはミクシィ理科実験日記事件。こうして私の婚活は終わった


30歳の7月。近鉄電車に揺られていた。左手にはボストンバッグ、背中にはリュックを背負っていた。両方の中身はミニチュアダックスだった。

今日から母子家庭よ、しゅわっち!みやび!


二匹の犬に話しかけた。実家に帰る途中だった。実家に着いて、荷物を見た時に、がくぜんとした。

あれ???犬以外持って帰ってきていない!後日着払いで山のように荷物が送られてきた。


実家に帰った時、

近所の人
あらお里帰り?


なんて近所の人に挨拶をされるのがほんとーに辛かった。デブのせいで、本当に出産のお里帰りに間違えられたのだ。

ああ、なんという悲劇!しかし、1ヶ月、2ヶ月たっても、我が実家からはオギャーとももれ聞こえることもない。相変わらず私はデブのまま。

近所の人が

ああ・・・


と気づいていく。哀れみの視線に、胸が痛くなっていく。


3ヶ月もしないうちに、逃げるように実家を出て、歩いて20分ほどのところで、犬2匹とバツイチ女の借家ぐらしが始まった。そこは、自治会も機能していて小さい子どもを持つママさんたちと60歳以上の世帯が入り混じった住宅地だった。


本当は引きこもっていたいけど、犬たちの散歩は欠かせない。どうしても近所の人たちとの交流を避けられない。


また噂されるのも嫌なので、どうしようかと考えた。

思いついたのが、ご近所周りのときに

私バツイチなんです。まだ全然立ち直れなくて。


と追い詰められて精神的にやばそうな人を演じることだった。作戦は見事に成功した。近所の人たちは、本当に死人が出たらやばいと思ったのか、私の目の前でヒソヒソ話す人は誰もいなかった。


プライベートは本当に暇になった。週末は、両親の趣味の畑で麦わら帽子をかぶりながら、一日中雑草を抜いていた。

なんで私ばっかり!!!みんなうまくやってるのに!!!


結婚に失敗した恥ずかしさやら、怒りを全て雑草に向けていた。秋ごろには、雑草で堆肥まで作っていた。



当時、流行していたミクシィも退会をした。離婚してから更新もできなかった。友だちにバレたくなかった。ましてや雑草抜いて堆肥作るのが趣味になっていることなんて死んでも知られたくなかった!


とかいいながら1ヶ月もしないうちにまたミクシィを再開した。

ミクシィには、Facebookグループみたいなミクシィグループっていうのがあった。私は現代アートのイベント情報をそこで集めていた。やめてしまったせいで、若手アーティストが公園で作品を売るみたいなイベント情報が入らなくなってしまった。趣味が雑草抜きと堆肥作りだけになってしまう!!いくら30過ぎてもこれじゃあまりにも隠居生活すぎる!!それで、ミクシィに入り直した。名前も本名ではなくニックネームにした。ああ、友だちに見つかりませんように!!!


しばらくすると、グループの中で出会ったこともないアーティスト志望のマイミク(Facebookフレンドみたいなやつ)がどんどん増えてきて、彼らからひたすら営業のメッセージばっかり来るようになった頃、今の夫とミクシィで出会った。


マイミクの中のすっごく変な人が(もはやみんな変だったけど格別に)、

変な人
日展で受賞するには、女の子はパンツを脱いでいるんだ。


みたいなこと日記に書いていた。

なんだ!これは女性差別じゃないか



バンバンその人にコメントして議論になった。そんな時に、ふっと見つけたのが、コメントの文末に必ずひよこの絵文字をつける人。


しかも結構よく読むと結構キツイことをはっきりと書いてある。でも文末にひよこの絵文字つけるだけでコメントがほんわかしちゃっていたの。なんかズルいって思って引っかかった。しかも名前がまたゆるくて「ひよこさん」でひよこのあみぐるみがアイコンになっている。


ひよこさんのページを見に行った。

自己紹介欄に

ひよこさん
ボタンインコ2羽、熱帯魚とごゆるりと生活中


って書いてあった。日記はお弁当だったり、朝市だったり、パン教室の話だったりして、とにかく女子力が高い。

 でも男だった。

あ、おかまの人かなぁ。私の友達にもわりといるし、仲良くなれそう


と思って、マイミク申請をした。それが彼との出会いだった。


そしたら、彼のほうからすぐにメッセージが来た。

なんか君と私は合いそうな気がします


すかさず私も返信をした。

私も、なんだか合うような気がします


って言ってみた。言ったって何も失わないし、別に愛の告白をしているわけでもない。かなりテキトーだった。


で、5日後私は大阪から東京まで新幹線に乗って、会いに行った。たまたま青山で経営者仲間との集まりがあったからだ。防犯ブザーは3個ぐらい用意した。面識のない人に密室に連れて行かれないように、ネットで注意事項なども山ほどプリントアウトして事前準備した。そんなに心配なら合わなきゃいいのに、好奇心に負けてしまうのだ。すっごい興味があるから止められない!!


2009年9月9日。9が3つもそろっているからサンキューの日って私は勝手に呼んでいる。しかしこのサンキューの日が運命の出会いになるなんて想像もつかなかった。


ひよこさんは、もっと小柄な人を想像していたけれど実際は170センチ以上あって、細身でスタイルもよかった。少し茶髪でデザイナーTシャツにぴったりしたジーパンをはいていた。表情は基本的に喜怒哀楽が顔に出てこない。ニコニコもしてないけど、ブスッともしておらず、ミクシィのほんわかした雰囲気は同じだった。


最初に行ったのは、青山ぼこいっていう和食屋さん。お店の中は木造っぽい雰囲気だった。私たちはカウンターに座った。目の前のガラスケースにポテトサラダとかお豆腐とか並んでいた。こんなにおしゃれな和食は見たことがなかった。

えんりょせずに片っ端からバクバク食べた。さっきパーティで食べてきたばっかりなのに。こんなことしているから痩せない・・・。


この後とんでもない事件が起こった。

今日はね、ビートルズのリマスター版のCDの発売日なんだ。渋谷のタワレコで予約しているから一緒に来てくれる?


と突然いわれたことから始まった。


私は渋谷のタワレコがどこにあるのかもわからないし、一気に警戒した。

私、自分のホテルはちゃんととっていますので、そちらに送り届けてくれるならば大丈夫です


ときっぱり言った。

誘惑にはのらないわよっ!防犯ブザーも3個もあるんだからっ!!


タワレコまでタクシーで移動。その間全く私に触れてこなかった。心配したようなことは全く起こらず。

ひ、ひよこさんごめんなさい


と心のなかでボソっと謝った。


到着した瞬間、彼はタクシーからさっさと出て行って、足早に消えていった。

私はぽっつーんと一人取り残された。

タクシー運転手
お客さん、料金!!


って言われて悲しく一人でお金を払った。しくしく。

まさか、これなんか新手のいたずら?!と肩を落として、タクシーを降りた。

気がついたら、渋谷の大通りで、デブが一人取り残されている状況に。


あわてて私もタワレコに飛んで入った。ビートルズのコーナーにはいない。他のコーナーも探しまわったけど見つからない。デブが一人タワレコを駆け巡る。

ハァハァいいながらレジの方を見たら、見つけた!本当にビートルズのCDを持って平然と並んでいた!!

よくもタクシー代を払わせて置き去りに!!!ムキー!!


ひよこさん、私タクシーのお金払ったんだけど?
ごめん!!ビートルズが楽しみすぎて、すっかり明美ちゃんの存在を忘れてしまっていた!


す、すごい。初デートの相手の存在忘れてしまうのか。


聴くところによると、音楽の仕事をしているという。

だから、音楽になると集中してよくわからなくなることがあるらしい。

そういえば、彼の仕事は何なのかよく知らない。

ハッとして、もう一度、防犯ブザーの場所を確認した。


タワレコの帰り、ちゃんと彼は私を宿泊先のホテルに送り届けてくれた。

ロビーの前でとんでもないことがわかった。

ひよこさん、なんか聞くのすっかり忘れたんだけど
何?
お仕事っていったい何をしているんですか。
ああ、ミュージシャンの映像編集やってる。松任谷由実とかサザンオールスターズとかMr.Childrenのミリオン曲もやったよ。



うげげげげげっ!なんか堆肥のバツイチ女がすごい男とデートしてしまってるよ。ああ、一生懸命可愛いメイクとか太って見えない服とか考えてたけど、全部無駄な抵抗じゃねーか!!毎日この人芸能人見てるよ。

って、絶望しているのが多分ひよこさんに伝わったと思う。


君って、なんだか土偶みたいだから一緒にいたら幸せになれそう
それは、ほめてんのかっ!


思わず、敬語も吹っ飛んだ。

たしかに、土偶は彼の世界にはいないだろう。

そんなこんなでデートは無事に幕を閉じた。


大阪に帰ってきたら、プリズムが届いていた。理科実験サイトで購入したものだ。なんで、こんなもの買ったのかというと、事情がある。


ひよこさんの存在を知る数日前、

同級生の男友達に人生相談をした。

なんかもう自分は誰にも愛されないんじゃないかって死にたくなってきた。


こんなとき、男友達に慰められるのも悪くないと思っていたら、とんでもない回答が返ってきた。


男友達
虹を作ってみてよ
はぁぁぁぁ?
男友達
虹を作ったらね、わかるから。
どうやって虹を作るの?
男友達
そんなの自分で調べるんだよ。



ちゃんとアドバイスしろよ!って思ったが、これぐらいわけのわからないことをしたほうが気分転換にもなる。それに本当に何かが見えるかもしれない。

グーグルでさっそく虹の作り方を検索した。

おっ、プリズムとスクリーンが必要なのか。楽天市場ですぐに注文をした。


信じられないことに、本当にこの時の行動が結婚に直結することとなるのだ。


「虹を作ってみました」というタイトルで日記を書いた。

いつもコメントをくれるマイミク(Facebookフレンドのミクシィ版)たちも「この人大丈夫かっ」って困惑していた。部屋を真っ暗にして、プリズムに懐中電灯を当てて、虹をスクリーンに映すのだ。バツイチ30過ぎの女がひとりで暗闇で引きこもってやばすぎる!


だんだん恥ずかしくなってきて、

もうこの日記消そう


と思った時、運命が訪れた。それは、マイミクからの一通のメッセージだった。

そのプリズムどこで売っているの?俺も虹を作ってみるよ。


私でも理解不能な虹を作る行為を理解しようとしてくれる人がいたのだ。それがひよこさんであり、今の夫だった。彼もまたプリズムで虹を作って日記に書いた。すごく愛を感じた。同時に恋に落ちた。


私たちは、これをきっかけに急速に交流を深めていった。こうして男友達に言われるがままに実行にうつした理科実験をきっかけにして私の婚活は終わった。


交際が始まってしばらくしてから、男友達に聞いた。

ねぇ、なんであの時『虹を作ってみてよ』なんて言ったの?
あー、あれねー・・・。特に意味はないよ。なんてアドバイスしたらいいかわからなかったし。余計なこと言って、明美ちゃん死んだら最悪だし。


ゲゲッ。こいつテキトーに答えたんかぃ!

しかしこのテキトーのおかげで、婚活を卒業させてもらった。

運命とは、こんなふうにかなり無駄に見えるところにポロッと落ちているものなのかもしれない。


8月10日に出版が決まりました「となりの婚活女子は、今日も迷走中」(大西明美著、かんき出版)

Amazonでのページも出来まして、いよいよ船出ですm(_ _)mm(_ _)m

http://www.amazon.co.jp/dp/4761271973







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