小さな花屋の小さな話 1

柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺。教科書で見たなぜか横向きの正岡子規が浮かんでくる。

この句が好きだ。て言うか、正岡子規の句はこれしか知らない。

語呂がいい、かきくで始まり、なり、なり、ほう、りゅう、と続く、韻を踏んでいる、最近のラッパーよりすごい、やるな正岡子規。

柿が美味い季節になった。熟しや干したものはダメで、少し固いぐらいがちょうどいい、今日の花市場で良いのが買えた。

花市場には、たまに季節の実が出荷される事がある、少々キズものだけど自分の腹を満たすには充分、値段もなんと、20個入りを500円で競り落とすことに成功、仕入れた花とともに店に持ち帰った。

花を店に並べ終えると、早速フローラルナイフで剥いて食べた。

固さといい、味といい、1個25円と思えない、うまい。

従業員の本田さんに2個あげて、残りを全部食べようと家に持ち帰った。仏壇に2個、残り17個と思っていたけど、近所に母がおすそ分けしたみたいで次の日には半分ぐらいになっていた。

とりあえず3個持って花屋を開店した。その日は本田さんが休みで暇だった。

僕の柿好きは生まれる前からで、母は僕が腹の中にいる時段ボールいっぱいの柿を食べ続けたと言うのだ。

なるほど納得、また今日も1個目を剥いて食べてると思い出した。同級生の由佳ちゃんも柿好きだということを、早速電話した。

「今日も店暇だから、柿食べに来んね、剥いてやるから。」

「うん、わかった、歯医者の帰りに寄る。」

そんな会話をし、しばらくすると由佳ちゃんがやって来た。

「おう、早かったね、チョット待って剥いて来るけん。」

「良かよ、自分で剥くから、上手に剥けんやろ。」と、女らしい一面を見せたけど、

「バカタレ、だてに花屋20年やっとらんぞ、フローラルナイフ使わせたら由佳ちゃんにも負けん、上手に剥いて来るけん。」断固拒否して、キレイに剥いて皿にならべ竹串を刺して出した。

「うまい、うまい、固さもちょうどいい。」喜んで食べてた、由佳ちゃんも固いぐらいが好きらしい、しばらく世間話をして、彼女は帰った。

「こんにちは。」池坊の先生が、教室で使う花選びに来られた。

「今日は、良いものが入荷しまして。」2個目の柿を出すと、

「あら、柿じゃないの。」

「先生柿は好きですか。剥いて差し上げましょうか。」

「以前は柿嫌いだったの、でも主人が好きだから好きになったの、いただこうかしら。」

また僕は同じように、1個を4分割して竹串を刺して出した。

「甘くて美味しいね。」値段の割には評判のいい柿だ。

「もう1個どうですか。」二つ目をおすすめしたところ、もうひとつも喜んで食べていただいた。

皿の上には四分の二個が残っている。

「先生、ご主人にお持ち帰りください。柿好きなんでしょ。」

「そうよ、喜ぶと思うわ。」ラップに包んで差し上げると、先生はそれをハンカチに包んでバックに入れた。

生け花教室に使う花を決めると、先生は帰られた。

しばらくすると、年に一回来るか来ないかという先ほどの先生のご主人が来店された。

大変無口な人で、あまり喋らず、店内を見て回り千円分ぐらいの花を購入し、帰られた。

おそらく先ほどの柿を花屋さんからもらったと聞き、お礼がてら1000円お金を使いに来られたのではないかと思う。

次の日もまた柿を持って花屋に出勤した。その日は二階の貸しスペースでアロマのセミナーが開催される。従業員の本田さんも出席する女性ばかり13人ほどの会だ。

午後三時になりおやつの時間という事で、また柿を剥き2個を16分割した。別にケチっているわけではない、もうひとつ持ってきてはいるけどたくさん出し過ぎてもいけない、これくらいが丁度いい。

二階に上がりどうぞと柿を差し出し、すぐその場を後にした。一階の電話が鳴っていたからだ。

「ありがとうございます、サンフラワーです。」

「雲仙観光タクシーですけど。」先日柿を食べてもらった由佳ちゃんのお母さんだった。

「今日のお通夜に生花スタンドの15000円を2本届けてくれる。」

届け先やその他の情報を聞いて電話を切った。

なるほどそういうことか、正岡子規。

柿食えば、金になるなり法隆寺かぁ〜。

池坊の先生のご主人は1000円使っていかれた、由佳ちゃんのお母さんは30000円注文してくれた、二個で50円の柿は31000円になった。

本当の意味はこういうことなのか、おそるべし正岡子規。

教科書では教えてくれない、もちろんテストにこういう答えを書いても✖️だろうけど、それじゃ二階に上げた50円分の柿は何になるんだろう。

答えは次の日フェイスブックに書かれていた。

「昨日は、花屋さんの二階という素晴らしい環境で、アロマのこと色々勉強できて楽しかった。それに店長さんの柿甘くて美味しかった。店長さんの優しさに惹かれました。」

ビンゴ‼︎僕のサプライズがバッチリ決まった。

まさか花屋のオヤジが柿を剥いて出してくるとは思わないだろう、意表を突いた作戦が功を奏した。

作戦成功の鐘が鳴った。

素晴らしきかな、正岡子規。


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