第百八章 リケジョのタイムマシーン

第百八章

「リケジョのタイムマシーン」


「リケちゃん、どうしてy=x のまわりに回転すると置き換えて微分するの?」

「それはね」

(チッ、自分で調べろよ、そんなこと。私の時間を奪うんじゃねぇ)

『あーぁ、アホばっか。はやく大学に行ってバカから離れたい』

「やりまくりのアイドルに騙されるアホ男たちとおさらばしたい」

  リケジョは、自分の生まれたド田舎の故郷が嫌いだった。早くこの町を出ることばかり考えていた。特に、組とか寄り合いとか封建時代の生き残りのような因習は生理的に合わない。

  高校の仮装にも負けるような、地元のお祭りもあえりえないと思っていた。近所のおばさんやおじさんが自分を変人と思っていることも知っていた。もう我慢の限界だった。

(アチャー、この頃から私は高慢チキだったわけね)

「リケちゃんは、やっぱり頼りになる。なんて、親切でいい人なんだろう」


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「なんで、あんなキモイものを愛おしく思うのだろう?」

 リケジョは理解できなかった。しかし、彼女の脳内でささやく声が聞こえるのだ。

「大丈夫」

 細菌に感染するのではないかと理性が語るが、神の声のような囁きがつぶやく。

「問題ない」

 ありえない。これは、一体どういうことだ。自分の中に自分で制御できない仕組みが組み込まれているらしい。しかし、これは、自分の中の他人のようなもの。全面的に降伏するわけにはいかない。

  これから大学院の入試もあるし、留学するかもしれない。結婚なんて出来るわけがない。何のために京都大学に合格したんだ。女子で二浪なんてありえないだろう。それだけの犠牲を払ったのに、いまさら生き方を変えられない。

(結局、私は女子度が低かったんだ)

「私の言うことを聞いておけばいいのに」

「ダメだ。この女子は自分の理性を信じすぎている」


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「大学院の入試は、英語の得点で合否が左右されるので頑張りなさい」

「はい、教授」

(なんて理学部なのに、英語の得点で合否が決まるんだ。おかしいだろ!)

  日本は、どこもかしこも男社会だから女であることのハンディはハンパじゃない。いいかげんにして欲しい。どいつもこいつも私の尻か胸しか見ていないエロおやじだらけではないか。

「ちょっと触らせてやれば合格させてくれるかな」

(男の中にもマシなのがいることを、この頃は分かってなかった)

「リケさん、ユウシュウダカラワガクニキテモライタイ」

「先生、この子を先生みたいに京都大学に合格させたいんですが」

「分かりました。頑張らせてもらいます」

(ケッ、おまえの遺伝子では無理に決まっているだろうが)

「では、健一くん、この微分方程式を解いてみて」

(ここは、夕飯が豪華だから今晩の夕食代がウク。本当に助かる)

「ダメねぇ。ここが違っているでしょう」

  京都大学は関西では絶対的なブランドだから、家庭教師代は高いし、いくらでも募集はあるし、おいしい仕事。楽だもんね。

(やっぱり、アホはいつの時代もアホだな)

「リケ先生は人を差別しないし、今までで一番いい先生だと思う」 


「リケちゃん、よければボクと、つ、つきあってもらえないかな」

「ごめんなさい。鈴木くんのことは好きだけど、私は仕事が軌道にのるまでね」

(ふざけんじゃねぇよ。私は自分より賢くて出世しそうな男しか相手にしねぇよ)

  でもね、リケちゃんより賢い子は周囲にいない。このままでは、大学院から研究職。リケちゃんより出世しそうな男って、すべての男の中の1%もいないよね。どうするんだろう。

  そういえば、

「精子バンクから賢い人の精子をもらう」

 と言っていたのは本気なのかな。

(あの頃が華だったのかも。私も対象外にされてたのに)

「どうだった?やっぱ、ダメか」

「うん、見事にフラれた」

「やっぱ、お前はタイプじゃないんだ。よし」


「はい。そのとおりです」

「ならば、なぜこの固体を優遇しないのでしょうか」

「それは、周囲の人間を不愉快にさせるからです」

「不愉快?それは地球人の感覚器官を刺激するという意味ですか?」

「そのとおりです」

 「この固体は地球の科学を進展させる固体です」

「ならば、その感覚器官を削除すればいいのではないですか」

「そうなのですが・・・」

「司令官、やはり地球人は銀河にとって有害無益だと思われます」


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 私の母は若い頃に離婚したために、私が医学部に行きたいと言ったら黙って親戚にお金を借りたり、生命保険を解約したり、お金を用意するのに本当に苦労をかけてしまいました。

 だから、私は母の期待に応えるためにも絶対に「合格」するしかなかった。アホな男子の相手をしている余裕などあるはずもなく、クラブや生徒会活動をする余裕もなかった。

  高校時代はひたすら勉強。それ以外は考えられなかった。クラスメートが自分をどう見ているかなど、どうでもよかった。入試での合格。それ以外は、本当にどうでもよかったんです。貧乏生活から脱出する。

  また、貧乏生活にもどりそうな男子とつきあえるわけがない。母を楽にしてやりたいんです。

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