デキるヤツ?本社のクソ野郎の話。


出産後一年の育児休暇を取得したあと職場復帰したら自分の席はなくなっていた。

本社営業部から地下奥深い場所にある管理事務所への片道切符を突き付けられた時の話を書こうと思う。

管理事務所の対極にいるのが本社である。

自分が左遷されるまでいた場所。

本社があるキラキラしたビルの中はきびきび溌剌と歩くオフィスワーカーが集っている。

本社の営業部に在籍していた頃の自分は、社長クラスのテナントさんの方々と交渉したり、お酒付きのご接待をしてみたり、お店のvipカードを頂いたりしながら、テキパキと仕事をこなしているつもりになっていた。

「デキル自分!」と自分で自分に酔っていたのだろうから勘違いも甚だしく、恥をまき散らしていることに気がつきもせず、日々、自己満足の中で過ごしていたのだろうと今ならわかる。

穴があったら入りたい。穴がないなら掘ってでも封印してしまいたいほどダサイ勘違い女だった自分の黒歴史でもある。


自分の後任には、入社2年目の若い男性社員が決まっていた。
鼻持ちならないやつで、やたらと自信家で自己評価ばかりが高い嫌な男だった。

管理事務所に飛ばされた私をやたらと小さく見て、上から目線で見下しにかかっていた。

後任に引き継がなくてはならない仕事を渡したり、異動後もわからないことがあるとすぐ内線電話をかけてよこし、こんな風に言うのである。

「unimamさん!ちょっといーっすか?なんでこんな店辞めさせないんですかね?売り上げ悪いし、センスもないし、店長仕事できねーし!」

知らんがな!あんたが仕事できるんならもっと売り上げ上がるようにテナントにアドバイスしてやれ!センス云々いうならそのハイセンスな感覚で内装工事まで指示して付き合ってやれ!店長の無能さをぼやくぐらいならお前が店出て手伝ったるくらいの気合いみせてみー!ボケが!

とにかく毎日のようにそんなしょーもない連絡をよこし、いかに周りがダサイか無能かをぼやき、自分は忙しい忙しいと忙しい自慢ばかりしているヤツが自分の後任になったわけである。

その後も社内の顧客獲得セミナーだとか、自分啓発シュミレーションみたいな講習会があるたびに顔を合わせ、いつもいかに俺ができる人間か、前の女の担当とは違うねんぞ!ってのをこちら側に認識させようと躍起になっていらんことばっかり言ってこちらを威嚇してきていたのだから迷惑この上ない。

管理事務所に異動して1年が経過したころ、また本社でセミナーがあり、そいつと顔を合わせた。


「2人一組になってお互いにインタビューしあって自分で思う自分の持ち味を話し合いましょう!」などと講師が言い出した。嫌な予感がした。


「あなたとあなたで1組になって~」と前から順に講師が2人1組のコンビを指示していく。


「では、unimamさんとヤツさん!一緒にやってください!」


自分とそのいけすかないヤツに講師が言った。

だー!!!やっぱりこいつとやる羽目になったか!

ヤツはニヤニヤしながら、
「よろしくっす!unimamさん!」と明らかにやってやるぜ!宣言してきた。
はじめにインタビューする側にヤツが回った。

「えーまずーあなたは一番仕事でなにが楽しいですか?やりがいは?」
「効率よく仕事するのにどんな努力をしてますか?」

管理事務所に飛ばされた人間に対する嫌味ったらしい質問ばかりを本社目線で投げかけてきたのである。

「色々なお客様の声に真摯に耳を傾けることができ、テナントさんとの距離が近くなったことが一番楽しいです。特にクレーム対応には様々な対応術が求められるので大変難しい分、やりがいを感じます。」
といったような真面目くさった回答を繰り返してやった。

次はこちらがインタビューする番になった。
「あなたは会社に必要とされる自分であると思いますか?」
「あなたはテナントから愛されるデベロッパーだと思いますか?」

するとどうだろう。彼の顔はみるみる真っ赤になり怒りに震えだしたのだ。

「必要とされる人間かって!?当然でしょ!自分は会社にとって必要な人間です!」
「テナントから愛されるとかそんなこと今答える必要ありますかね!?」

プライドを傷つけられたとばかりに憤慨し、キレて自爆したのである。
周りのコンビは和やかに笑い声など交えてインタビューしたりされたりしているというのに、この不穏な彼のキレようで自分たちのコンビは悪目立ちした。

それから1週間ほどしてヤツから管理事務所に電話がかかってきた。

「unimamさん、悪いっすけどテナントの○○から電話ありましてね、水漏れして店ん中水浸しなんですって!このままじゃ営業できないからって電話こっちにあったんすけどね、オレ忙しくて忙しくて現場いけそうにないんで!unimamさん行って見てきてくれます?」

この言いぐさはなんや!我慢の限界がきてとにかく管理事務所来い!とだけ言って電話をたたき切った。

10分後、ふてぶてしい顔でふてくされて現れたヤツに、

「いいからさっさと現場いけ!」と一言いうと再び顔を真っ赤にしてキレた。

「だから!忙しいって言ってるでしょ!ここはヒマなんだからそんくらいの仕事しろよ!」とのたまりやがった!

「うるさーーーい!!!さっさと行け!営業やろあんた!店困ってるやろ!」と喚き返した。

返ってきた返事は。

「わっかりましたよ!!!で、その店の場所どこですか!?」

「店の場所も知らんクソがきが!ぼけ!」

地図をヤツの顔になげつけてやりました。

そのやり取りを管理事務所の外でそっと聞いていたテナントの社長さんがヤツと入れ替わりに事務所に入ってきた。

「unimamちゃんごきげんさーん!あれ誰や?」

「私の後任の営業ですよ!ヤツっていいますけど知りませんか?」

「えー!ワシ一回も見たことあらへんで!」

数年後、ヤツは管理事務所に異動する運命にあるのだが。

この話はまたの機会に。

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