グローバリゼーションとはつまり、共通の基準による価値観の統合なのではないかという話

前話: 「アンパンマンのマーチ」とマックス・ウェーバーが見た神なき世界の話

グローバリゼーションの進行による格差の拡大についてのニュースを見るにつけ、これは本当に「機会の平等」の結果なのか?と考え込んでしまう。

グローバリゼーションとはつまり、共通の基準による価値観の統合を指すことが多いのではないかと思う。かつてはグローバルスタンダードと呼ばれた工業製品の規格やコンピューターのOSが世間を賑わせたし、あるいは、共通の会計基準と課税基準によって出現する巨大貿易圏、最近はちょっと雲行きが怪しくなってきたTTPもこの類だろう。

さらに、人権、民主主義といったイデオロギーは、これらに先んじて共通の基準として普及が試みられた(が成功している気配はない)。

教育分野においても、特定の能力観をもとに共通の評価基準を世界的に運用していこうという動きがある。このような共通の基準は、果たして「機会の平等」を実現すると考えられるのか?あるいは、他に先んじていち早くそれを示した者のさらなる強大化を招くのか?

政治、経済、教育の分野における共通の基準を考えるとき、それは、残念ながら「機会の平等」を促進しているというよりも、そのような基準を示した者のさらなる強大化を招いていることのほうが多いような気がする。

話は変わるが、歴史上、初めて中華を制覇したのは、秦(転じてChinaの語源となった)という国であった。この国の強さの源泉は厳罰をもとにした法治主義(それは現代の法治主義とはかなり異なり、性悪説をもとにしており、徳治主義の対極をなすものではあるが)による国家機構の整備と、黒一色で統一された兵団の強さであった。

ちなみに、秦の兵団の強さの源泉は、厳罰による法治という共通ルールの適用もさることながら、秦が中華の西方に位置し、西戎と呼ばれた騎馬民族との戦いに明け暮れ、その戦法に通じていたことであるとも言われている。だから、法治という共通基準の適用による強さを根本的に支えていたのはこの(一種の文化とも言える)軍事技術面での交雑性であった。

とにかく、秦による中華の統一が後の中国を形作ったと言われ、この統一がなかったら、現在においても中国はヨーロッパのような中規模国が並存する一地域であったとも言われている。

歴史の授業では十把一絡げにされてしまう黄河文明と長江文明は実質的には異なる文明圏であったと言われているし、そもそも、ヨーロッパがすっぽり入ってしまうだけの広さがある地域がひとつの国であることのほうが不自然なのである。

しかし、その不自然なことを秦は、強大な軍事力とあらゆる基準の統一によってやってのけた。

その秦がまず行ったことは、度量衡の統一だった。穀物を量る升や分銅の重さを全国共通とし、各地から遺漏なく租税を取り立てた。これによって、これまでの規模とは桁外れの富が帝国の都である咸陽に流れ込むことになった。この有り余る富によって、巨大な宮殿、皇帝の墳墓、そしてあの有名な兵馬俑と長城が造営された。

そして、なによりもこの帝国の支配を有効に機能せしめたのは漢字の統一であった。(春秋)戦国時代には国ごとにばらばらであった全国の漢字の字体を秦は篆書に統一した。これはすぐに隷書に取って替わるわけだが、とにかく、この漢字の字体の統一が法治国家である秦の法の運用を中華全体に行渡らせ、租税を効率的に徴収し、皇帝の勅を津々浦々に知らしめることになった。

度量衡の統一と漢字の統一。この2つの基準の統一によって、中華は一つの世界になり、と同時に過酷な収奪の歴史が始まった。中華の統一は為政者には莫大な富をもたらした(皇帝一人が持つ富と、それ以外の臣民が持つ富の計量的な比較ができたら、現在の状況とぜひ比較してみたい)。しかし、収奪される民衆にとって中華の統一は本当に必要不可欠の事業であったのか?基準、あるいは価値観の統一とは、究極的には一体誰のためだろうか。

プロテスタンティズムが生み出した資本の自己増殖運動は、その投資地、あるいは消費地となる市場を求め続け、次々と世界を呑み込んでゆく。その効率化のための基準の統一がグローバリゼーションの正体だとすれば、「世界の最富裕層1%の保有資産が残る99%の総資産額を上回る」という現象も納得できる。

共通の価値基準を持たないがゆえに、両者を比べようもない。そのことによって世界の平等は担保されると言った人類学者はこの世を去ってしまったし、そのような世界の平等(あるいはこれ自体も幻想であったかもしれないが)もまた消え去ってしまった。

そのような世界で、大いに惑う。

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