ど素人 高田支配人の現場改革 5 予期せぬ事件

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・「ケンタッキーフライド事件」勃発

 

ところが、2週間ほど過ぎた頃だった。一つの問題が起きた。

これは、その後「ケンタッキーフライド事件」と営業マンたちのあいだで言い伝えられるようになった事件である。

 

 毎日 夜10時くらいに玄関を閉めようとすると、フロントで予約受付をいていた年配の女性職員が、最後までその日の申込書等の整理をしているので、本当に大変だ、頑張っているな、と思っていた。

 

 この日も 夜遅くまで営業をやって帰るときになり、ふと遅くまで頑張っているこの社員のことを思い出して帰り道にたまたま明かり点いていたケンタッキーフライドチキンで軽食にチキンを5ピースほど包んでもらった。そしてこの職員に持たせて帰らせた。

「いつも遅くまでありがとうございます。家で待っているご家族と一緒に食べてください」

高田はいい事をしたと思った。社員を激励したのだ。気分よくその日は帰途についた。

 

ところが 翌日 社内の雰囲気が朝からおかしかった。

年配の女性たちが朝礼に出てこないのだ。いるのだけれど、2階に引きこもって掃除をしているだけで 下に下りてこなかった。

K部長も朝から黙っていた。朝礼は簡単に終わって その後高田は厨房に呼び出され、年配の女性職員たちにいきなり囲まれた。

「支配人、貴方は私たちをどういう存在だと思っているんですか?」

「え?、、、、、、、」

「バンケットの仕事をこの年になって毎日やって行くって大変なんですよ。」

「フロントの仕事が、バンケットの仕事より大切だというんですか?」

「私たちが、どれだけ会社のために犠牲になって支えてきたのか分かっているんですか?」

 

いったい何が起こったのか、はじめは高田にはまったく理解が出来なかった。

いろいろ聞いてゆくうちに、どうやら昨日 フロントの女性職員に買ってあげたフライドチキンが問題の発端になっているらしかった。

 

「私たちにもフライドチキンがほしかった、ということですか?」

高田は、此処でさらに言ってはいけないフレーズをはいてしまい、火に油を注ぐこととなった。

此処での議論は午前中いっぱい続き、高田はとうとうこの日営業活動に出ることが出来なかった。それでも、延々と婦人たちの愚痴や不満を聞いているうちに、あることに気がついた。

此処で働いている婦人たちは、家で何らかの人には言えない事情を抱えていて、ある面、仕方なく働きに来ている、そして此処できつい仕事が終わってくたくたになって家に戻っても、そこで又家事や夫のお世話が続くというのだ。精一杯を通り越してぎりぎりの人生を送っている人たちだった。

 

高田がフライドチキンをプレゼントした婦人は此処の会社の専務の奥様で、他の年配の婦人たちからすると、セレブ階級なのだ。

だから高田は悪気無く善意でフライドチキンをあげたのだが、他の女性社員にとっては 自分たちを差別し、えこひいきし、苦労と汗と誠意を裏切りつばを吐きかけたことに等しい行為だったのだ。

だから彼女たちの怒りが止まなかったのだ。

 

その日の昼間に久しぶりに高田はA副社長に電話を入れた。

「すいません。大変な失敗をしてしまいました。」

「良かったな、早めに気がついて。」

「え、、、、、、」

「頭でっかちがそんなすぐに直ったら、哲学の偉大さが分からないだろう。

 この人は本当に自分たちのことをわかってくれる人なのだろうか、

 自分たちの味方なのか、単に会社の命令で自分の役割を果たす為にだけに来た人なのか、

 見られているんだよ。」

 

現場に入る意味も、営業に行ってお客様と会う意味も、同じだと指導を受け、

目から何か又剥がれ落ちた思いだった。

この事件を期に、聞くという作業に心が入りだした高田支配人は徐々にやる気と元気を取り戻していった。

 

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