ニューヨーク高校の寮暮らし
初めての2人部屋は、色んなことを共有する場だった
15年間日本生まれ、日本育ちだったけど、思い立って海外の学校に進学することにした。
高校はマンハッタンから1時間くらい離れた郊外の、ニューヨーク。
9月の入学式を前に、8月2週目の入寮日。
名簿順に2人ずつ割り振られた小さな部屋。シャワー・トイレ・洗濯機は1フロアで共有。
ドキドキしながら係りのお姉さんに案内してもらうと、まだ私のルームメイトは着いていないようだった。部屋には日本から送ったダンボール箱が積まれている。
部屋は何畳くらいだろうか。1人用のベッド・机・クローゼットスペースが少し、左右線対称にあるだけ。
暑さ真っ只中の部屋はクーラーがなく、窓とドアを全開にして扇風機を回す。
まだ見ぬ相方の方を見ると、同じくダンボール箱が積まれている。
ダンボール箱を見ると、送り元は上海(シャンハイ)。名前はAnnaと書いてある。
やばい。
ルームメイトは中国人か。日本語通じないのか。
私の英語力でうまくやっていけるだろうか…?
軽い絶望の中で、ナイスチューミーチュー に続く自己紹介文を必死に考えているうちに、ルームメイトがお母さんとともに登場。
「初めまして。あんなです」
あ、よかった日本人だった(笑)
そんなサプライズから、寮生活がスタート。
ところが数日経って、私はもうこの子との暮らしはやっていけない、と思った。
彼女は典型的な一人っ子で、海外生活を数年してきたせいか、結構強い子だった。
と感じた。その時は。
あんなは頭の回転が速くて、情報通で、ファッショナブルで、乙女な一面があって、若干ミーハーで、
対する私はのろくて、情報にも疎くて、ぽっちゃりした芋くさい子で、海外のことをよく知らなかった。
私は早寝早起きしかできないけど、彼女は夜更かししてドラマや映画を観て、休日は昼まで寝ている。
私は昔からやっていたゴルフしかできないけど、彼女はテニスやラクロスにソフトボールと、とてもアクティブ。
とにかく私の真逆な性格と言っても過言ではなかった。
しかし、数ヶ月も経つと、凸凹を補っているというか、上手く共生できていると思えるようになった。
特に海外という特殊な環境も手伝って、学校もクラブ活動も寮も一緒だと、長所も短所もよく見える。
そして、少なくとも1年はルームメイトを変えるチャンスはやってこない。
ここで生き抜くためには、この相方と一緒にやっていくしかない。お互いに受け入れざるを得ない。
そう覚悟を決めると、彼女の自分と違う所が、面白く、頼もしく見えてくるのだ。
あんなはパソコンに強くて、メールの開設すらお手上げ状態だった私に、嫌な顔1つせず色々教えてくれる。
一緒に買い物に行くと、ショッピングモールの見取り図を最初に見て、「この店とこの店に何を買いに行く」と効率的にテキパキと私を引っ張ってくれる。
でも例えば何かハプニングがあると、彼女は若干パニックになるのだけど、そういう時に肝が座っている私は落ち着いて行動できる。
また私は授業のノートを綺麗に取ることだけは長けていたので、宿題を助け合ったりできる。
寮生活では、ちょっとしたいさかいや、気まずい出来事もある。
そんな時はお隣さんの部屋に遊びに行った。
部屋を出て数歩いけば、他の友達がいる。
これも寮ならではの楽しいところだった。
友達にルームメイトとどうよ?と聞くと、どこも大なり小なり不満やトラブルはあるようだった。
「部屋の掃除をしてくれない」とか「夜遅くまで彼氏と電話してるとか」そんな具合。
そうやって自分とあんなとの関係を客観的に見られたり、他人との関係性を学べたりした。
1人になる時間がなくて息がつまる、と最初は思ったけど、意外と慣れるし、たまに1人の時間があると逆に寂しくなったりする。
若い私たちは、「おやすみ。電気消すね〜」と言ってからも、部活のこと、家族のこと、恋愛のこと、あれこれよく語り合った。
互いの意見に「なるほど、わかるわ」と言ったり、「へぇ〜そういう考え方もあるのか」と感心したりした。
そうやって、気づかないうちに、1日、1日、絆は少しずつ深まっていった。
結局あんなとは、3回ルームメイト変更の機会があったけど、4年間ルームメイトとして過ごすことになる。
「ルームメイト」は、友達とはちょっと違う、良い所も悪い所もまるごと全部わかってる、家族のような存在。
私は今またアメリカに来て、2人のルームメイトとアパートをシェアしている。
高校の時に、誰かと一緒に住むことに味を占めてしまったのかもしれない。
暮らしをシェアするということは、人生をほんのちょっとシェアすることだと思う。
私の人生、あの2人部屋なしでは語れない。一期一会の人生で、4年間をあんなと共に成長してきた実感がある。
そんなわけで改めて、ありがとう あんな。
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