カリブ海にユタ文明の面影を見る。窓を開ければむせ返る様な熱気とどこまでも続く海。

成田を飛び立って米国本土の中継地で入国審査。再びチェックインして一路カンクーンへ向かう。空港を出た途端に眼鏡が曇る。初めて降り立つメキシコだ。

迎えが空港に来ているはずであるがタクシーの客引きばかりで中々見つからない。

仕方ないので客引きに怒っているだぞビームを撒き散らしながら先に進む。明らかにやる気のなさが他の連中と違う奴を発見。近づいて行って会社名を言うと、正にその名前を書いたプレートを持っている。車に乗り込み南に一路。カンクーンの市街地とは別のリビエラ・マヤを目指す。

時刻は午後10時を回っていたが大型トラックなどがひっきりなしに走っていた。10分程して街を抜けると道の両側は森。と言うかジャングル。途中、仰々しい造作のゲートがあるラグジュアリー・ホテルに通りかかると、そこだけが別世界。デズニーランドの建物をもっと派手にした感じ。

更に30分ほどした所で車はスピードを落とし反対車線を横切る。そこにはライトアップされた白い壁。

まるで要塞の様な壁に一箇所ゲートの降りている入り口が開いている。運転手がゲートの管理人に一言二言言うとゲートが上がり始めた。

ゲートの内側に入ってビックリ。そこは鬱蒼としたジャングル。そしてその中にはに車2台がすれ違うことが出来るくらいの道が続く。と、突然複数の人影。すわ襲撃か!ヘッドライトに照らされて映し出されたのは水着の上にパーカーを羽織った老夫妻。その後から同じ様な格好をした人達がワラワラと湧いてくる。


後で分かったのであるが、この人達は同じ敷地内にある、がバスで5分ぐらい掛かるプライベートビーチとプールから帰ってきた人達。リゾートでの時間をこんな夜まで満喫。

直ぐに車は木で作られた大きな御殿の様な建物の前で止まった。

ZENエリアと呼ばれるジャングルの中の建物。大きな御殿の様な建物はロビー。チェックインを終えると、メキシコ人らしいエキセントリックな表情の女性が上手な英語で宿泊するエリアへと案内してくれる。一体何と言ったら良いのだろうか。ジャングルの中のに高床式の屋根付き回廊を縦横に配置。そしておびただしい数の客室練がその回廊で繋がれている。

部屋のゾーンを示すプレートが無ければ間違いなく迷子になりそうだ。


ここはGrand Vesta Riviera Mayaというリゾートホテル。5つ星らしい。

広大なジャングルを切り開いたZENエリア、どうも禅から来ているらしい。カリブ海に面した海岸線には大人の雰囲気一杯のGrandクラスとファミリー向けのAmbassadorセクションが。全部で500室を超えるラグジュアリーホテルだ。

24時間ルームサービスを含むサービスを受け放題。この様な料金体系はオールインクルーシブと呼ばれる。ホテル内にある各種レストランもプレミアムワインなどのほんの一部の例外があるものの原則タダ。海外旅行で頭を悩ませるチップも不要。とは言え、ルームサービスを持って来て貰った時は心付けとして渡したが。


部屋に落ち着いたのはもう日にちが変わろうかという時間。流石に何かを食べようという気持ち起こらず、冷蔵庫の中の知らない銘柄のビールをあおって就寝。

うとうとしたまま知らない内に眠り込んでしまっていた。が、大きく開いたままの窓から明かりが漏れていて目が醒める。目に窓の外の緑が飛び込んで来る。濃い色の緑だ。

ふーと、惹かれる様に窓際まで行き窓を開ける。むーっと蒸し暑い空気が押し寄せて来る。

3月。そう先程までアメリカの乗継空港でコートの襟を立てて寒さを凌いでいたことを思い出す。

空気の湿気と熱気が脳を揺り起こす。

「そうだカリブ海にきているんだ。」

木々の間から見える空は藍色。こんな空の色は見た事がない。


と、感動していると急にお腹が鳴り出した。流石に半日以上食事をしていなかったのだから当たり前だ。ルームサービスのメニューから朝食を選び電話で注文。20分程して扉にノックがあり、開けると大きな車輪付きのティーワゴンの様な物から大きなトレー、コヒーポットなどを取り出したサービスマンが、「どちらに置きましょうか?」と尋ねる。

迷うことなく明るい陽が差し込むバルコニーに面したガラスの前にテーブルをセットしてもらった。

冷たく冷やされたフレッシュなオレンジジュース。クロワッサン、デニッシュなど数種類のパンとバター、ジャム。スクランブルエッグとカリカリに焼き上げられてベーコン。そしてフルーツの盛合。

最後にコヒーを飲みながら、先程のサービスマンはどうやってこの食事を運んで来たのだろうかと考えていた。

ロビーのある本館からはワゴンを引きずってだと10分は掛かりそう。それに木製の廊下、所々に段差や階段もある。

ふと時計を見ると8時を回っていた。いけないいけない、9時前には会議室に集まらなければいけなかった。


今回の旅行は勤める会社のアワードツアーと言って世界各地域から数名ずつ表彰された10数名が招待されたもの。各1名のゲストを同伴して良く大敵の人は奥様を帯同。私は妻が子供の定期試験とのことで唯一独り。日曜日の夜に現地入りして金曜日の早朝にカンクーンを飛立つという予定だが、初めの2日間の午前中はエグゼクティブを交えてのラウンド・テーブルと言って、各地域で抱えている問題や会社の現状、将来について議論をする堅いもの。日本人1人で長時間英語での議論はきついです。

午後はプライベートビーチでカクテルパティー、リーフまでボートで行ってのシュノーケリング。夜は一晩はプライベートビーチにテントとかがり火でディナーパティー。それ以外は、グループで好きなレストランで食事。大変、ゴージャスな気分を味わえる。

繰り返しになるがオールインクルーシブなので、どのレストランで何を食べても飲んでもみんな只。

もちろんその分ホテル代が半端無く高いのですが。

一生に一度の経験かもと思ったが、調べてみると国やホテルによってはリーズナブルなプランもある様です。季節によって金額もかなり変わるのでウェブ等で確認してみることをお勧めします。


時間的には厳しいのであるが、折角メキシコに来たのであるからマヤの遺跡に足を運びたいと思っていた。ところがマヤの遺跡と言っても複数あり大部分は1日がかり。但し、トウルム遺跡ならタクシーで45分位で行けるとホテルのコンセルジェルが教えてくれたので早起きをしてチャーターしたタクシーで一路南に向かった。

10分に一度ほど、街かリゾートホテルの巨大な入り口、ゲートに出会うが、その間は限りなきジャングル。

南に行くに従い視界が開けてきて、あの森の向こうにはきっと海が開けているはず。

タクシーのスピードがガクンと落ち交差点で左折レーンに移る。その先には幾つかの低層の建物と広い公園のようなものが見えて来た。左折して更に進むと先を遮るゲートが降りていてタクシーはそこまで。

タクシーの運転手と待ち合わせ場所を確認してゲートの横をすり抜けて行く。

何と団体さんばかり、その上、先ほどのゲートが上がったかと思うとトラクターに引かれた台車に観光客が鈴なり。陽の光がグイグイと攻めて来る。うーん。(あれに乗るべきだったかな?)と、少しだけ後悔しながらもデカイ外人と共にワシワシと進んで行く。

と言うと勇ましいがふと気がつくと胸に掛けていたはずのサングラスが無い。。。。。

タクシーの中にあってね、と祈りながら更に前進。

と、ありました。昔の建造物も模したのだろうなという建物が。ここで入場券を買います。

並んでいると前の外人がその前の外人に、「英語が分かるか? 4人集まるとガイド代が安くなるから一緒になれないか?」と誘っている。

こっちに来るとやだなぁと思い、そんな光線を発していたら心配するまでも無く声をかけらなかった。

ふーーーー。

チケットを購入し、団体客が何だかよくわからない植物の説明を聞いている側をすり抜けて前に進む。

石を積み上げた壁に幾つかの小さな入り口が作られており、そこをくぐり抜けると。

「わーあ‼︎」思わず声が漏れる。

平らな広場が目の前に広がり、その中に幾つかの石が積み上げられた様な遺跡が立ち上がっている。

想像したよりポツンポツンと位置している。

遺跡の前に立てられている看板を読むと、「ここはかつて何に使われていたらしい。」という説明がある。陽の光が熱く段々とクラクラとして来る。

奥まった方へ進むと海へとせり出した崖。その上に宮殿らしき建物の遺跡。

「あっ、教科書で見たことがある風景だ。」

海、宮殿をバックに自撮りを試みるが、自撮り棒が無いので顔が歪んで中々見苦しい。

青く澄んだ海に立ち上がった崖の上のマヤの宮殿、ここまでは完璧なのだが。


数々の遺跡を見るにつけ、この過酷な環境の中にこの様な大規模な建造物群を建てた人々の力に驚かされる。紀元前後からピラミッドに代表される石造りの建物をジャングルに構築。

高度な天文学の知識を持っていたことを示す暦や天文台の存在。

何と太陽の周期である一年を365.2421日と現在の計算による365.2422日と17秒しか違わない正確さで計算していた。

また、建物の設計にも暦の知識を生かし一年に二回、春分の日と秋分の日に、光の蛇が現れるピラミッドが建てられていた。

石碑に数多くの記録が残されていることも、その記述から多くの物語が推測された。

「マヤ人は宇宙人と親交があった。」という実しやかな説が言われる所以だ。

そんなマヤ文明のジャングルの中の都市も9世紀頃から急速に衰退、放棄されるようになった。

その理由も大きな謎になっている。

そして約500年前、カリブ海に現れたスペインの帆船船隊が、崖の上にそびえるマヤ遺跡を目にしたのが、ここトウルムであった。古代マヤ文明の最後の輝きでもある。

今はもう何も語らない石の遺構。その大きさがより「無常感」を高める。

日は益々高く刺す様になってきた。

「もう帰る時間だ。」

思いはこの同じジャングルにあるリゾートホテルのゴージャスで大きな建物に戻っていた。

「あと500年後の人々はジャングルを切り開いて作られたこの構築物についてどんな思いを抱くのだろうか?」

あたかもあのリゾートホテルがいつか放棄されるか日が来ることを想定した思いに、自分でも思わずドッキリとしてしまった。

顔を上げると紺色と言っても良い青い海。カリブ海。

そこから吹いてくる風を顔に感じながら私は遺跡の出口へと歩き出した。













著者のTachibana Toshiyukiさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。