夢の中の夢

夢の中で、

さらに夢をみる、

そんな夢をみたという話。

母と僕は、

築50年は経っているであろう、

ボロアパートに住んでいた。

居間に陽の光は全く届かず、

四畳半の狭い和室には、

畳の湿気た臭いが充満し、

蛍光灯の冷めた明かりが辺りを照らしていた。

僕は居間で横になって、

テレビを眺めていた。

休日をただただボーッと過ごしているのか、

それとも、

定職に就かずに暇を持て余しているのか。

前者であってほしいと客観視している僕が、

居間で横になっている僕を眺めている。

母が仕事から帰ってきた。

僕に向かって特に声をかけるでもなく、

母は着ていたジャケットを脱いで、

エプロンを腰に巻き、

台所に立った。

黙々と料理をする母の姿が気になり、

居間で横になっている僕は、

台所の方へ顔を向けた。

次第に、

母の手料理の香りが、

畳の湿気た臭いより勝ってくる。

僕は立ち上がった。

それを背中で気づいた母が、

まな板に視線を落としたまま、

声をかけてきた。

「もう少ししたらできるけぇね」

なんとなく申し訳なく感じた僕は、

暑かったのか寒かったかのかわからないけど、

着ていたカーディガンを脱いで、

椅子にかけた。

シャツの袖をめくって、

母の横に立った。

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