ザクザクの髪とみえちゃん

ザクザクザクっ。

黒いものがハラハラと落ちていく。どんどん積み重なって、床が真っ黒になった。

それは、私の髪の毛だった。


ほーら、もうすっきりした。

彼女は私の肩にぽんと手をおいた。

閉じていた目を開いたら、そこにあるのは、五分刈りのの私だった。

なんで、こんなことになったのか。


さかのぼること1時間前。幼稚園から帰っていつもの駄菓子屋にお菓子を買いに行くところだった。

私はお気に入りのピンクのワンピースを着ていた。


近所の女の子が、向こう側から歩いてきた。

私は、背中を丸くして、下を向いて歩いた。いつも「あけみのあほ!」とからかう女の子だ。

彼女がとても苦手だった。大きな声を出されるのが怖かったからだ。


知らないふりをする知恵もない。

「あ、みえちゃん。」私は小さな声でぼそっと言った。

ーいつもの「あほ!」がくる。

そう身構えていたら、彼女は意外なことを言った。

「あけみちゃん、あそぼう!」


私は嬉しかった。彼女から誘われたことはそれまでなかった。もう仲間はずれにするのではなくて、遊んでくれるんだと。

しぼんでいた心に光がさした。

「うん!」


私は、そう言った。その後何が起こるかもわからずに。

みえちゃんの家に行った。玄関にリカちゃん人形が置いていた。

でもかなり変だった。なぜなら髪の毛がおかっぱ頭になっていたからだ。

まゆげよりもかなり上の前髪。かなりマヌケな感じがした。


「あけみちゃん。」

私がふりむくと「ザクッ」と音がした。

「えっ」

ハラハラっと髪の毛が落ちていく。

彼女は大きなハサミで私の髪の毛をザクザクと切り刻み始めたのだ。


私の髪の毛は当時胸のあたりまであり、日本人形みたいだと近所のおばちゃんたちにも好評だった。

その髪の毛がいまザクザク切られているのだ。


「こんなに髪の毛いらないでしょう。」

どんどん髪の毛は切られていき、あっというまの私の髪の毛は、ところどころ、じゃがいもに毛がはえたような感じになった。


しかし、私は抵抗をしなかった。


私というおもちゃで遊ぶのに飽きたのか、

「もう帰っていいよ」と彼女は言った。玄関は毛だらけになっていたが私は帰った。


母は、私の姿を見て、「どうしたん!!」と大きな声をあげ、

帽子をかぶせてすぐに美容院に連れて行った。


「なんであんたはイヤって言わへんのや!」とめちゃくちゃ怒られた。

今なら、なんで言わなかったのかわかる。


私は彼女を怖かったからイヤって言わなかったのではない。

はじめて彼女と仲良くなれるという期待を持ったからだ。


みえちゃんの髪はくせっ毛だった。「くるくるパーマ」と近所の男の子にからかわれているのを嫌がっていた。彼女の心にも痛みがあったのだ。

その痛みをどうしたらいいのかわからなかったから、

私の真っ直ぐな髪の毛を壊す方法を選んだだけだ。



しかし、最近美容院に言ってびっくりしたことがある。

「あけみさんは、くせっ毛ですねぇ。」美容師さんが言った。

「えっ。」

私は、びっくりした。今でも自慢のさらさら黒髪だと思っていたからだ。


「あけみさんの髪は中がくせっ毛でうねってるんですが、髪の毛の量が多く、外側がまっすぐだから、中の髪の毛がおとなしくしているだけなんです。」


なあんだ、私もくせっ毛だったのか。

もし、タイムマシンがあるならば、みえちゃんに言ってあげたい。

「私も中はくりくりくせっ毛なんだよ」と。


人は持っているように見えて持っていないし、

持っていないように見えて実は持っていて、

見た目には難しい。


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