Sさんのこと

Sさんのこと


 先日、Sさんからメールが来た。何年ぶりだろうか。もう社会人になっているはずだ。関西に行ったと噂で聞いたことがある。「あの金がもどってきた」とだけ書いてあった。相変わらずぶっきらぼうな子だ。(もう「子」ではないが)

 Sさんには口止めされていたが、もう時効だろう。地元の進学校に通う理系女子だった。彼女にある時、「Sさんも、もう17歳か」と言ったら「いや、18歳だよ」と言った。私の同級生にも1歳年上の子がいたから、何らかの事情で1年ダブリらしかった。

 彼女は、同級生に嫌われていた。「Sさん、きらい!」「Sさんは苦手だよ」という声をよく聞いた。彼女は「SMAPにキャァキャァ言っている女子のパンツの中はベトベトだよ。臭そう」と言ったりする女子だった。

「Sさん、顔面の配置は良いのだから口をひかえたら?」

 と言ったら、「別に誰にも好かれたくないし」という子だった。勉強はよくできた。私にいろいろ語る子だった。片親だったのかもしれない。母親の話はよく出てきたが、父親の話は聞いたことがなかった。私を父親に見立てていた可能性もある。

  塾講師としてみると、抜群にできるタイプではなかった。A子ちゃんとは比べ物にならなかった。http://storys.jp/story/18470?to=story&referral=profile&context=author_other

  しかし、それは練習不足という意味であって、頭の回転は速かった。特に数学のセンスは抜群だった。工学部をめざしていたから、私に求められたのは、主に英語の指導だった。たまに、眠そうにすることもある子だった。

  私の生徒の中には、log24+log36 を log60 と答える子もいるが、そんな時、Sさんは、「アホっちゃうの?」と言っていた。「そんな生徒に、なんでお金かけるかなぁ」とも言っていた。正論だけれど、普通の生徒はそんなことを口にしない。

  Sさんは、夏休み頃には驚異的に成績が上がってきて、志望校(旧帝のひとつ)に合格まちがいなしの状態になっていた。その頃には授業中に居眠りになることはなくなっていた。おかしな子だ。


「女性研究者」の画像検索結果 画像と文章は関係ありません。

 

 A子ちゃんのお陰で数学のプリントが充実していたので、片っ端からやってもらったら解けない問題がほとんどない。それで、不思議に思って「一体、これはどうやって勉強したわけ?」と尋ねたら「先生が言ったじゃん」と言う。

 私は見込みのありそうな生徒には同じことを言う。「オリジナル、チェック&リピート、1対1、赤本をそれぞれ2周やれば?」。Sさんは、そのとおりにやったらしい。しかし、実行するのは簡単なことではない。犠牲にするものもあるだろうし、強い意志がないと出来ないことだ。

 Sさんは、みんなから嫌われていることを自覚していた。周囲からは孤立しているようにも思えた。その時間とエネルギーを全て勉強に注いでいるようだった。英単語は6000語必要だと言ったら、その言葉どおりの勢いで語彙を増やしていた。

くせのある、個性的な子だった。

 それほど親しくもない私にメールを送信してきたのは、今も友人がいないのかもしれない。Sさんがぶっきらぼうな理由は、頭の回転の速すぎるせいだ。

 たとえば、「あぁ、これは五角形の対角線の問題を覚えている?」とヒントを言えば、「なるほど!」と言う子だった。ほとんどの子は、内角を求め、外角を求め、相似の三角形を見つけ、二次方程式を解いてもらう。それを、Sさんなら一発で理解した。


  受験直前の頃に、Sさんが言った。「内緒だよ。私、バイトしていたの」。だから、居眠りしていたのか。

 事情はよく分からないが、お母様はSさんから受け取ったお金を使えなかったのだろう。Sさんはそろそろ適齢期だから、とっておいたお金をそのままSさんに渡したらしい。

 塾講師をしていると、そういう優しい子たちにときどき出会う。ぶっきらぼうな話し方をしていても、賢い子は深いことが多い。素顔を見せないから、私はそういう子を侮らないように注意している。

そういう姿勢を、すぐに見抜くSさんだった。彼女は、決してクドクド説明しない。「ひとこと言って分からないヤツは永久に分からない」と、黙って去っていく。嫌われるのも、うなずける(笑)。厳しい生活環境にいたに違いない。

 彼女はバイトで貯めたお金をお母様に渡したらしい。「うちの母さん、いつも服がヨレヨレ」と、つぶやいたSさんの目には涙がいっぱいだったのを覚えている。私は気づかないフリをしておいた。

  彼女の秘密のバイトが学校の許可を得ていたものか。何をしていたのか、何も分からない。クラブの話を聞いたことがないから、学校の許可をとってクラブ活動の時間をバイトに当てていたのかもしれない。

  そんな全てのことを、たった一行で察しろというわけだ。相変わらずだね。それでは、私同様にバツイチだ。そんなことを理解する同年代の男性なんかいるわけない(笑)。

「自分より賢い、学歴の高い、収入の多い男性」なんて言っていたけど、自分が旧帝卒なのだから、出会って、求婚される確率は極限値ゼロ。もっとフリフリの可愛い服を着て、「イヤーン」とでも言えばいいのに、絶対にそれができないSさんなのだ。

 しかし、私は彼女の作った製品なら信用する。

 

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