【第4話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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【第4話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
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笑って乗り越えた先にもう一つ重要なことがあるとしたら、それは「信じる」ということ。

子供たちを育てるにあたって、何よりもまず信じることがすべてであり、その根底が崩れたら、たった一人の父子家庭生活などやっていられない。

子供たちは僕に育てられるようになり、それはそれは様々な弊害があったに違いない。今まで当たり前のようにしていたことが、ある日突然できなくなる。今まで信じていたものが、ある日突然信じられなくなる。

これは、慣れるまでにかなりの葛藤があるのだ。

大人の僕でさえ、これらを受け入れるまでに相当な時間を要するわけだから、子供たちはなおさらだろう。子供たちの面倒をみられるのはこの世に僕しかいないのだから、子供たちには常に、日常的に「我慢」を強いることになる。

当然、我慢の先には不満がある。

日常の些細なことで言うと、たとえば家に帰ってきても誰もいなかったり、欲しいものが買ってもらえなかったり、一人で寝なければいけなかったり、どんなに理不尽だと感じることでも僕の言うことを聞かなければいけなかったり、片親だという世間的な負い目をただひたすらに耐えなければいけなかったり。誰からも助けてもらえない状況である以上、子供たちも、僕以外の誰からも守られることはない。

今日より明日が素晴らしい。

今日がだめでも、明日は大丈夫。

今がつまらなくても、いつかきっと、必ずいいことある。

そう信じて生きていけるように。

信じなければ、先へは進めない。

そのうち必ずいいことあるから、大きくなっても、どこへ行っても、必ず生きて帰ってこい。

そんな未来を信じなければ、生きていくことさえとてつもなく不安になってしまうのだった。

父子家庭になり、どうしても避けて通れないのは貧困だ。

民主党政権が誕生し、父子家庭にもスポットが当たるのはまだはるか先のことで、父子家庭になった当初、それはそれはひどいものだった。

子供が小さい時はどうしたって子供をみていてくれる人、環境、そういったものが必要になる。

母子家庭の現状は知らない。

幼い子供2人を育てながら仕事をするということは、至難の業だ。現実問題として、自分以外に子供たちの面倒をみてくれる人、せめて、自分が働きに出ている間だけでもいい。それがなければ、ほぼ不可能と言っていいだろう。

ディズニーのお土産の缶の中に貯めていた小銭の2万円が全財産で、早急に金を稼ぐ必要があったが、はたして、どうやって金を稼げばいいのかは、全くわからなかった。仕事に出るにしても、子供たちをあずける場所もない。両親も、実家もない。

かといってこの状況に甘んじるわけにもいかず、藁にも縋る思いで行政に相談することにした。

これだけ困ってるんだ、何らかの打開策が見つかるに違いない、そうであってほしいと、いや、そうであるべきだと考えた。

上の子が小学校、下の子が幼稚園に行っているわずかな時間を使って、水戸の市役所に足を運んだ。

2階にある児童福祉課にはたくさんの人が働いていた。

働いているというだけで僕よりも恵まれているような気がして、父子家庭になってからというものずっと感じていた疎外感が、一層強く感じられた。

「すいません・・・」

近くにいた女性に声をかけてみる。

「あの・・・父子家庭の支援についてちょっとお話を伺いたいのですが」

面倒くさそうに「少々お待ちください」と言ったので、近くの椅子に腰をおろした。数分待たされたあと、担当だという初老の男性が別室に案内してくれた。

「えっと・・・どういったご用件で」

そんなことを、その初老の男性は言ったと思う。

白いワイシャツにくすんだ色のベストを合わせ、黒縁の眼鏡をかけている。

公務員のお手本のような人だ。

特に興味があるようなそぶりも無く「どういったご用件」という言葉だけで、この話し合いが良い方向に進むといった前向きな感情を、すでに失った。

「あの・・・父子家庭になったしまったんですけど、何か行政としての支援策などありましたら、教えていただきたいと思いまして伺いました」

間違った申し出ではないだろう。

「あのね・・・せっかく来ていただいて申し訳ないんだけど、父子家庭に支援はないんです」

「・・・は?ない?・・・とは・・・」

「そういった法律がないんですよ」

「そういった法律とは?」

「国はね、男が、父親が子供を引き取って育てるということを、そもそも想定していないんですよ。子供は母親が引き取って育てるもので、父親が引き取って育てるものではありませんから」

と。

だから父子家庭には一切の支援はない、さらにはその担当者は「男なんだから、働けるでしょ、どこかに子供あずけて働いたらいいんじゃないですか」と言った。

それからも何やら語り掛けていたが、もう耳には入らなかった。

ぼんやりしながら断片的に聞こえてきた話で、親に頼めとか、別れた奥さんに協力してもらえとか、適切なアドバイスとしては程遠い意見に、うんざりした。

どうなっているんだこの国は、一体全体。国が想定してない?知るかよそんなこと。頼るべき両親もいない、子供をあずけるところも無い。別れた奥さんに頼めるくらいなら、こんなところにのこのこ来るはずもない。

そういえば離婚調停の際、調停員に説得された。

「男一人で子供を育てるのは無理だ。母親に引き取ってもらえるよう頼んでみなさい」

なるほどこういうことなのか、世の中っていうやつは。

今頃になって、ようやくその意味に気が付いた。

男が子供を育てられるような社会の仕組みがないわけだ。

僕は市役所からの帰り、本当に声を上げて泣いた。いい年した大人が帰りの車の中で一人、声を上げて泣いた。

あの日のことは、今も忘れられない。

お前らの世話にはならない、一生ならない。

どんなことがあっても、絶対にならない。

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