求めよ、さらば与えられん(山上の垂訓)

求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。門を叩け、さらば開かれん

Ask,and it will be given to you. ただ、じっと待っているだけじゃ、何も好転しないぞ。新約聖書のマタイ伝に書いてある、山上の垂訓です。

   1974年の大学受験の5日前を迎えた。2階の勉強部屋で数学の勉強をしていたら、突然手足が震え始めて椅子からズリ落ちてしまった。そして、

「お父さん、ボク変だ」

  と叫んだ。二階に駆け上がって来た父は、ひっくり返った亀のように手足をバタバタしている私を見て

「お前、何をしてんだ」

  と言った。そして、近くの総合病院に担ぎ込まれた。病院の看護婦さんは、私の手足を押さえつけながら

「アレ?高木くん、どうしたの?」

  と言った。北勢中学校の体操部の先輩だった。

  診断は、神経衰弱。いわゆるノイローゼとのことだった。私は頭が狂うことを心配したが、医者が言うには

「そういう人もいるが、身体に症状が出る人もいる」

  とのことだった。

 数学を勉強しすぎたと思った。それで、以来25年ほど英語ばかり勉強して英語講師として、塾、予備校、専門学校で英語講師をしていた。こんな分かりやすい挫折はないよね。身体が数学を拒否してしまったのだから。少なくとも、私はそう信じていた。

    おかげさまで、英語講師として生きていけるのだから、それで十分だったし。高校時代に「おまえは文系」と担任にも言われ、模試の結果もそうだった。45歳だったし、父親として安定した仕事が必要だった。

どこから見ても、このまま老後に向かっていくのが賢い選択だった。

でもね、何か心にひっかかっていた。

    近所の書店にふらっと立ち寄った。高校生用の参考書の本棚に「オリジナル」が並んでいるのが見えた。高校時代の悪夢がよみがえった。そっと手に取ると、手が震えた。

    できるだけリラックスしたいので、いつもの喫茶店に立ち寄ってコーヒーを飲みながら開いて少し解いてみた。けっこう解けた。それから、オリジナルとノートを持って喫茶店で数学の問題を解くのが日課になった。

    2年ほど続けた。数学ⅠA,数学ⅡBをひととおりやった。それで、腕だめしをするために、Z会の京大即応(文系)をやり始めた。かなり難しかった。また、河合や駿台の京大模試も受け始めた。ひどい結果だった。3割ほどしか解けない。

    その後、和田秀樹さんの「新・受験技法」やエール出版の合格体験記などを見ながら「チェック&リピート」がいいみたいなので、最初からやり始めた。そして、「やっぱり、本当に受けてみないと分からないことがあるよね」と思い、京都大学を受けることにした。

    四日市高校に行って卒業証明書をもらい、テレメールで願書を取り寄せ、旅行代理店でホテルや新幹線の手配をしてもらった。数学のノートは100冊を越えていた。

京大受験は7回。その結果は、以下のようだった。

 

   平成18年、20年(文学部)  正解率の平均 33%

  平成21年、22年(教育学部) 正解率の平均 39%

  平成23年、25年(総合人間) 正解率の平均 64% 

 

  最初のころは、やっぱり3割ほどしか解けなかったが、最後は7割ほど取れるようになった。京都大学のボーダーラインは医学部以外65%程度なのでボーダーを越えたと判断した。地元でトップの四日市高校の京大受験生が来ても指導に困らなくなった。

 

2016年度(7名)
 京都大学「医学部」、京都大学「理学部」、大阪大学「人間科学部」、名古屋大学「経済学部」、名古屋市立大学「医学部」、神戸大学「経済学部」、御茶ノ水大学「理学部」

  19歳のころ、「おまえは文系だ」と言われた。模試の結果も、そうだった。でも、人は、そんなデータで判定できるものだろうか。

塾講師の立場から見ると、中学・高校時代に成績がよかった子は公認会計士、医者、研究者になって頑張っている現実を知っている。99%の確率で、私は学校を卒業したあとに使える人になれるのか、使えない人になるのか言い当てる自信がある。その有力なデータとして、学力が使えることも知っている。履歴書に学歴を書かせるのは、理解できる。

  しかし、1%の疑念が残る。

  人間は複雑だ。信念は科学にまさる。強く、強く願えば、科学的にみえるデータを裏切る成果を出すことができる。「コイツは使えない」と思うことがある。残念ながら、99%は予想が当たる。

  私は、裏切られることを願っている。1%の確率はけっこう大きいのだ。

 他人の評価が得られないと食っていけない場合もあるし、満足感が得られない場合もある。ただし、何の必要性もないけれど、「楽しそう」とか「アレ、心残りなんだよなぁ」というものがあるなら、チャレンジ自体が面白い経験だ。

叩くと、思わぬドアが開くかもしれない。

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