熱っちいのは嫌だ!

これは祖父が亡くなった際に地元の新聞に載った記事の見出し。生前の写真まで一緒に載っている。

「新潟県XX郡XX村のXXXXおじいちゃん(実名です)86歳で亡くなったが遺言により土葬に付されることとなった。」

その知らせを受けたうちの父母、妹と私は直ぐに父の実家に駆けつけた。

田舎の家らしい薄暗い仏壇のある部屋に、おじいちゃんの遺体は安置されていた。

うちの一族の宗教は禅宗の一種らしく「導師」様と呼ばれる僧侶が葬式を執り行う。

遺体の安置された仏間に座布団が並べられ近所の方々、親戚が並んでいた。


父の父。私が小さい時には夏休みにここを訪ねて来て数週間、従兄弟連中と過ごした。

また祖父は新年に成田山新勝寺にお参りしたいと言うので、その時はうちに泊まっていた。

小学校に入る頃から田舎への足は遠のきがちだったが、それでも2年に一回程は、成田山詣で上京する度に我が家に泊まっていった。

大学に入学した後、本家の従兄弟が祖父、父と佐渡島へ旅行に行こうとの提案。

新潟からジェットフォイルに乗って佐渡島へ渡り、タクシーで島を一周した。

宿は従兄弟の友人が島で網元をやっており、そちらにお世話になり、翌朝は魚釣りにも連れて行って貰った。

思い出してみると祖父と旅行に行くのはまだ小さかった時に箱根に行って以来であった。

色褪せた白黒写真にまだ小さかった私と若かった祖父が坂を登っている写真が残っていた。

佐渡島へ行った時はもう80歳を上回っていたかと思うが、毎朝起きると布袋様の様に袋を肩に掛けて山道を登って行く。そんな朝から何事?と、思いついて行くと15分ほど歩いた所に池が有り何匹いるのか分からない程の鯉を養殖していた。

これらは食用で黒い鯉。収穫の際には大きなダンプカーがやって来て大きな網で鯉をすくって水を入れた荷台に移して行った。


話しを葬儀に戻すと「熱っついのは嫌だ」とは本当に祖父の遺言。

「死んでまで火に焼かれるなんてまっぴらだ。俺が死んだら山に埋めてくれ。」

新聞記事はさらに続く。

「土葬は同村でも10年ぶり。」

(そうか他にも土葬にした人が居たんだ。よかった。)

少し安心した、祖父が我儘で変人と思われずに済む。

(しかし待てよ。10年前と言うと。。。)

何と! 父の弟。叔父さんが亡くなった時だ。

どうやら我儘なのは我が家の伝統の様。


しかし珍しい習慣との事で地元のテレビ局も取材に訪れた。

白装束をした親族が二本の木で支えられた棺桶を担いで山に向かう。先頭には導師様。鐘をチーン!と鳴らしながら進む。

山の中腹にある一族の墓。自分の土地だから土葬の許可も下りたそう。

大きな穴が掘られておりそこに棺桶を安置すると埋め戻し。

その上で更に土を高く盛る。これは遺体・棺桶が腐敗して土が落ちた時の備え。

そして周りに竹を割って弓状にした物を差す。狼弾きと言って昔は狼が遺体を食べに来るのを防ぐ為と言われたが、その効果の程は分からない。

そうして全てが完了すると一族で川沿いの料理屋へ。

大きな建物で葬儀や結婚式などの行事に使われるらしい。

部屋に入ってビックリ‼️

壁際にズーッと御膳と座布団が敷かれているのであるが反対側の人の顔が良く見えない程遠く。

ざっと100名くらいいるだろうか。

子供、孫、親戚とその子供、孫。

こうしてみると祖父の偉大さがまざまざと分かる。例え「熱っいのは嫌だ」と我儘を言って亡くなったおじいさんと世間で言われようと、この一族の長であったのだから。


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