【第12話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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【第12話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
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仕事も出来ず、社会との接点もない30歳を過ぎた男にとってそれは恐怖でしかない。

さらに僕には、自分の人生を賭けてでも育てなければならない子供たちがいる。

明日という確実な未来でさえ、信用できなくなっていた。

明日など、本当にやってくるのだろうか。

本当は子供と海を見ながら、お弁当など食べている場合ではない。

主な収入といえばオークションで不用品並びに売れ筋の商品を仕入れての転売で、今日売れなかったら明日食べる金もないという惨状。

とても心中穏やかではいられない。

明日生きていけるかどうかなんて、この世のどこにもそんな保障などない。

明日どころか、わずか数時間先の未来でさえ思い描くことができなくなっていた。

いつしか、この生活から逃げたしたいという気持ちが、感情の大部分を占めるようになった。

やることが多すぎる。

「もうやめたい」

1日に何度も思った。

社会からひとり取り残されているのではないかという焦りと、やらねばならぬことが山積みされた日常の中で、僕にはさらにやることがあった。

母が死んで葬儀も終わりひと段落したのもつかの間、今度は父の介護が待っていた。

父は今時珍しい大正生まれで、50歳を過ぎてからの子だったから、すでに80歳をひとつふたつ超えている。

教師をしていた父は、僕が小学校の低学年のころ定年退職をしたため、働いている父の姿をほぼ記憶にはとどめていない。

退職し、家にいるようになった父は人が変わったように酒を飲み、度を越えていくにつれ酒が手放せなくなって、中学に入るころにはもうすでに立派なアルコール中毒者になっていた。

記憶の中の父は朝からウイスキーを飲み、完全に目の座った顔で酒臭い息を吐きながら、中学生の僕の事などまるで眼中にないかのように、飲み続けている。

とにかくこれが毎朝で、早朝7時には完全に出来上がっているのだからたまったものではない。

学校から帰ってくれば、酩酊状態にさらに拍車がかかっている。出来上がっているなんてものではない、呂律の回らない口で何やらわめきながら、家の中でも近所でも暴れまわっている。

思春期真っただ中、普通の人からしたらおじいちゃんでもおかしくない年老いた父が、もうそれだけでも十分思春期には痛打なのだが、それだけにはとどまらず朝から人が変わったように酒を飲み、母親と言い争いをしている。

まともな精神状態では、とても暮らせない。

それでも高校までは何とか出ねばと、すべての感情を無にして生活し、家を出たのが18歳のころ。

それからは何があっても父に会うことはなく、その後の父の生活も知らない。

僕にとっての父とは、そんな人だった。

80歳を過ぎてとうとう焼きが回ったのか、認知症も患い近くの老人福祉施設に入所することになるのだった。

家で面倒見るには、誰の手にも余ってしまう。だからと言って、そうですかさようならというわけにもいかない。

「実家に住んでるんだから、親父のことも見てやれよな・・・」

と兄弟からも言われ、兄が入所の手続きをすませると、後はよろしくと人ごとのように父を託された。

父が入所するまで、老人介護施設というものに足を踏み入れたことがなかった僕は、その雰囲気に多少戸惑った。

僕の知っている父は、群れるのを嫌う性格だったと記憶している。

父は果たしてここでうまくやっていけるのだろうか。

初めて父を老人介護施設に連れて行ったときにまず思ったし、父も決してそこに入所したいという積極的な意思表示をしたわけでもない。

他に打つ手も無いわけで、なんとかかんとか父を説得し入所させ、たまに顔を出すという生活に落ち着いたのだった。

このころ父は認知症が進行し、僕が誰かさえわからない状態。何度も何度も同じことを説明して、ようやく理解したようなしないような。

母の具合が悪くなって入退院を繰り返していたころ、一人で生活させるわけにはいかないだろうと、父を老人介護施設に入所させたわけなのだが、母が死んで父の介護だけが残ったのだった。

母が死んだことも父には言わなかった。

言っても理解できないだろうと思った半面、しっかり理解してしまっても困るというこちら側の思惑もあり、父の中では何事もないことにしていた。

なるべく父のところに顔を出すようにした。僅かな時間でも、行けるときは行って顔を見せた。

それは、父がこのまま僕のことをすっかり忘れ去ってしまうというのも、それはそれで寂しかったし、すっかり毒が抜けておとなしくなった父を見て、なんだか変な感情が自分のなかに芽生えていたのだった。

酒に溺れる前の父は、とにかく優しかった。

教師をしているというだけあってしつけには厳しかったが、その反面、普段は優しかった。

僕の中に残るもっとも古い記憶の中の父は、あぐらをかいた足の中に小さかった僕を入れ、ビールを飲みながら頭を撫でている。

優しい父が、小さいころは大好きだった。

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