【第19話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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【第19話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
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確かに無所属で選挙に打って出るのはお金がかかるのだろう、それはなんとなくわかる。

それにしても後味が悪い。

兄が掲げた政策には子育て支援という文字が躍っていたが、あまりの茶番に笑う気にもなれなかった。

やっと両親の一件も落ち着き、子供たちも新しい環境や学校にも慣れてきて、生活のリズムもそれなりに整いつつあったのに、新たな物事は予想だにしないところから降ってわいた。

最悪の事態を想定し、事前に回避策を考え生きる。

しかし、現実に起こる最悪の事態というものは、考えているほど甘くはない。

血を分けた唯一の兄に、家を出て行けと言われている。

出て行かないならば力ずくで追い出す、とまで言われれば考えないわけにはいかない。

この最悪のパターンは想定外だったけど、これは僕の想像力の無さが原因だろうか。

子供たちはここでの生活や学校生活にも慣れて、行動範囲も交友関係も広くなっていき、のびのびと楽しんで生活しているように見えた。

子供たちにも今までそれなりに苦労を強いただろうに、一切の弱音を吐かずに僕についてきてくれたわけで、それはそれで子供たちの成長を頼もしく思えたものだった。

この子たちのためにも、この暮らしを死守しなければいけないと思うのだが、果たしてそれは可能なのだろうか。

ここでの生活に基盤らしきものが出来つつある今日この頃、今更またここを出て環境が変わって生活しなければいけないということは、金銭的にも精神的にもかなりしんどいものがあり、できることならこのまま何事もなく、当たり前のようにここで暮らしていけないだろうかと思った。

それが、僕にとっても子供たちにとってもベストな選択であるように思えたのだけれども、そうなった時のために準備だけはしておかなければいけなかったし、今自分がどういう状況に置かれているのかという客観的な判断も必要だった。

まったく気は進まなかったけど、弁護士に相談してみることにした。

なぜこんなことになってしまったのか、なぜ兄に家を追い出されなければいけないのか、なぜそのためにこの忙しい合間を縫って弁護士に相談しに行かなければいけないのか、ことごとく納得がいかなかったけど、まずは専門家の意見を聞いてからだというわけで、なけなしの五千円を支払って、弁護士の元に相談しに行ったのだった。

水戸のとある弁護士事務所に向かい、担当の女性弁護士に事の顛末を伝えた。

20代後半に見える女性弁護士に、自分なりに伝えられるすべてのことを伝えた。ここにきてきれいごとを言っても仕方がないし、時間も30分しか与えられていなかった。

まるで他人事と言った雰囲気のその弁護士の態度は、5000円の対価だろうか。

向かい合って座る殺風景な小部屋が、さらに憂鬱な気分にさせた。

それでも、実の兄に家を追い出されそうになっていることや、家の名義は兄が所有していることなどを含めその女性弁護士に説明した結果、彼女はこう言った。

「その家に今現在お住いなんですよね」

「はいそうです」

「家賃は払っていますか?」

「は・・?家賃・・・だって、実家ですよ?」

「でも名義はお兄様ですよね」

「そうですね・・・でもそれには今話したように事情があって・・・」

言うが早いか、その女性弁護士は言葉を遮った。

「名義がお兄様である以上、家賃も払わずに住んでいる場合、名義人のお兄様が出ていけと言うのであれば、法的には出ていかざるを得ません」

身もふたもないとはまさにこのことである。なけなしの五千円と貴重な時間は泡と消えた。

そうか、法的に守られることは無いのか。

全く納得いかないが、これが法という物なのだろう。だとするならば、やらねばならないことがたくさんありすぎる。

万事休すか。

いや待て、子供たちのためにもここで諦めるわけにはいかない。

諦めるわけには・・・・いかないよな。

そうだ、ここで僕が諦めたら、子供たちの人生はどうなる。

分かっていることは、立ち止まってはいられないということと、どんなことがあっても子供たちを育てて生きていかなければいけないということ。

そしてもう一つ。

いよいよ頼るべき人がこの世に誰もいなくなってしまったということだ。

やはりどう考えても変わりなくこのままここに3人で暮らしていくのがベストだと思われたが、力ずくで追い出すということが意味する問題は大きい。

それは、こちらの意思に関係なくある日突然この家を追われるということなのだろうから、そうなった時の僕たち家族の損害は計り知れない。

万が一、いや、今となっては万が一より遥かに高い確率で訪れるであろう強制退去の瞬間に際しての対策を練る必要は、急務だった。

法的に僕に勝ち目がないことははっきりしたわけで、兄が力ずくの暴挙に出れば、僕たちがこの家に住み続けていける可能性はゼロに近い。だとしたら早急に引っ越し先を探さねばならず、そのためには当然仕事や学校その土地土地の気候や環境なども考慮せねばならないし、何しろ僕一人で転居するのとはわけが違う。まだ幼い子供2人を連れて行かなければならないのだから。

まさか幼子を2人連れて、ホームレスになるわけにはいかない。

そのためにどうしてもクリアしなければならないハードルは、お金だった。

転居するにもそれなりのお金はかかるし、これからは本当の借家暮らしになるわけで、仕事もままならないのに家賃を支払っていけるのかという現実的な問題もある。

考えただけで、すでにすっかり気が滅入ってしまった。

この諍いの果てに、何を生むのだろうか。どうせ、何も生みはしない。

本当にやらなければいけないのかという迷いと、これからどうなってしまうのかという相変わらずの未来への恐怖でうんざりいていた。

兄が出馬する選挙は地元の県議会議員選挙で、当選した後のことも考え、転居するにしても県内は気持ち的にしっくりこなかった。

転居とは言えば聞こえがいいが、事実上追い出されるに等しい。どうせなら遠くに引っ越さねばなるまいと、何となく考えていた。

なんだろう、この敗北感は。

僕は新たな転居先を探すべく、日本全国、果ては海外までも候補に入れ、いわゆる移住先を探すことにした。

何となく、ネットで海外の求人を見てみる。

海外など行ったことも無かったし英語もしゃべれない。それでも海外移住を検討するわけだから、それだけ状況は緊迫している。

遠くに引っ越すというイメージだけで海外まで視野を広げるのだから、もうどうかしているのだが、仕方がない。

たまたま調理師の資格を有していることもあり、海外で調理師として働き口がないか探してみると、ネット上の求人だけでかなりの数のものがあることに気が付いた。

何の知識もなかったが、百聞は一見に如かず、とりあえず気になったところに片っ端から履歴書を送ってみることにした。どうなるかはそれからでも遅くはない。どうせ返信など来るはずもないと思っていた。

ネット上で履歴書も送付することができ、それからしばし放置していると、1件の求人先の企業から返信があったのだった。

メールを読み進めてみると、

「近々ボスが日本に行きますので、その時にお会いしたいと申しておりますが、東京まで来れますか」

と書かれている。

深く考えずに履歴書を送ってみたけど、まさかこんなことになるとは。

僕に会いたいと言ってきてくれた企業はオーストラリアゴールドコーストを拠点に展開している、某有名回転ずしチェーンだった。

その回転ずしチェーンが、このたび超高級志向の鉄板焼き店をゴールドコーストに新規オープンさせるとのことで、そこの新規スタッフ募集の求人だったのだ。

父子家庭になる前は東京の高級焼き肉店で修業していたこともあり、鉄板焼きということや新規オープンといったことも相まって、軽い気持ちで応募してみたのだった。

東京で面接ということであれば行くしかなかろう、こうなったら乗りかかった舟だ。すぐさまメールに返信し面接のアポを取り付けた。

面接は日比谷の超高級ホテルのラウンジで、ボスと呼ばれる人とランチを食べながら行われた。パソコンでワンクリックしただけで、なぜか日比谷のホテルでランチをご馳走になっている。

人生とはあらゆる側面があるものだ。

40分程度で面接は終わり、ランチをごちそうしてくれた上に電車代だということで5000円が支給された。海外で大成功している日本人、といったものを絵にかいたような貫録で、何をどうしたらこんな人生を送れるのだろうと、住む世界の違いに唖然としたものだが「私も日本にいた時は貧乏でね、仕事に行く電車賃すら困っていました。オーストラリアに行ったのも半分騙されたようなもので」とそのボスは言っていた。

なるほど、本当にそうなのだとしたら、僕にもいつか必ずチャンスがやってくると、訳の分からない希望を思い描いてみたりした。

面接ではあったが、こんなことでもなければ絶対に会って話など聞くことが出来ないだろう成功者の方とお話をすることができ、それはそれで貴重な経験が出来た。

後日面接結果がメールにて送られてきて、あっさり合格ということになってしまった。

ビザの手配等々あるからこれとこれを用意して、書類にどうのこうのと書かれていたが、やはり丁重にお断りすることにした。ボスに気に入ってもらいオーストラリアで働こうと言ってもらったけど、いろいろな話を聞くうちに今の僕にはやはり無理だろうという結論に至った。

それはやはり海外ということもあるし、子供たちのことあるし、言葉の壁や生活環境など総合的に判断した結果で、当たり前といえば当たり前なのだが。

この一連の経験は僕にとっては貴重なものとなった。それは、何の気なしに送った1通の履歴書が人生をほんのわずかではあるが動かしてくれたからだ。海外で働くなど考えたことも無かったのに。

自分が行動すれば何かが変わる、きっと人生はそんな些細なことの積み重ねで成り立っているのかもしれないと思えたりもした。いつか僕も、この父子家庭としての何年かを懐かしくそして楽しく思い出せるように、大成功してやろうと、いや、そうならなくてはいけないと心に誓ったのだった。

後日僕の新たな就職先になるはずだった鉄板焼き店のオープン当日のセレモニーが現地のテレビで取材されていたのを、日本のテレビで見る機会があった。

カメラが何台もありオーストラリアのセレブが多数来賓として招かれていて、面接のときに会ったボスがタキシード姿で映っていた。

やはりそれは、今の僕が住む世界ではないような気がしたのだけれど、なぜか誇らしい気持ちでその番組を見たのだった。

海外移住という甘い夢がついえた後は、現実路線で国内での移住先候補を探さねばならない。

ネットで日本全国の情報を集めて回った。

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