エストニア人に会ってわかった、エストニア人の「可愛い」性格/僕は「ムーミン遺伝子」を発見した。

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エストニア人の性格を一言で表すと「可愛い」だと思う。

エストニア人の性格を一言で表すと「可愛い」だと思う。例えば、たまに物凄く性格がスローでゆっくりした人がいる。これは時間にルーズとかそういう意味のスローでは無くて、周囲で起こった事に対する反応がスローなのだ。5人に1人ぐらいのエストニア人はそのタイプである。例えば僕がそのタイプのエストニア人にプレゼントをあげるとする。すると受け取ってもずっと無表情のままなのだ。


あれ・・・プレゼント嬉しくなかったのかな・・・?


と、そんな無表情な顔を見たら僕だけでなく誰しも心配になるはずだ。しかしその数秒後、彼らは突然ニッコリと満面の笑みで笑い始めるのだ。頭で嬉しいと実際に思ってから数秒後に笑顔が追いつくのだ。つまり全員ではないが一部のエストニア人には感情表現にタイムラグがあるのだ。これはとても独特で面白かった。それまでそんな人には僕は会ったことがなかった。でもエストニアにはそんな人がたくさん居る。そのスローさこそがエストニア人たる所以なのだと思う。色んな所でそんなスローなエストニア人に会うことが出来た。僕は彼ら彼女らをとても可愛いと思う。


そしてその「可愛さ」はエストニアの警察官にですら見受けられたのだ。


タリンの警察署へ行った時のこと。

僕はエストニア発であり、世界初でもある電子住民サービス「e-residency」カードをネットから申し込み、警察署へカードを受け取りに行った。「e-residency」カードとは、「エストニアの電子住民」になれるカードで、僕はエストニアに来た記念に取得しただけだが、遠く離れた国にいてもオンライン上でエストニアでの起業の手続きが一部できたりなど、なんだか先進的なカードだ。これを所持していれば「エストニア人」では無いが「(サーバー上の)エストニア住民」を名乗ることが出来る。SFみたいだ。


そのカードを受け取るために、警察署へ入ると、発券された番号カードを渡された。自分の番号が表示されるまで椅子に座って周囲を観察していた。やはり警察署というだけあって、厳粛な空気が流れている。職員も客も誰も笑っていない。元社会主義国というのもあるのだろうか、想像していたより少し空気が重かった。

マナーが悪いと思われたらカードをもらえないかも・・・

せっかくお金も60ユーロも払ったのにもらえないのでは困る。僕はまるでこれから面接を受ける学生のようにキリッとした真剣な表情で番号が呼ばれるのを待つことにした。


ピコーン!とブザーがなり、僕はカウンターに向かった。カウンターで応対してくれたのは30代後半ぐらいの女性の警察官だ。彼女もやはりニコりともしなかった。

女性警官
・・・・・・・・・・・・・・・・・


こちらもかなり真摯な態度で挑むことにした。少しでも不真面目な空気を出せば却下されるかもしれない。


パスポートの確認が終わり、次にカードの設定が始まった。e-residency カードは専用のカードリーダーから読み取る。このカードリーダーは e-residency カードとセットになっており、USB経由でパソコンに挿すことで登録者が自分のパソコンから様々なサービスを受けられる仕組みだ。カードリーダーにはケーブルは無く、リーダーからUSB端子が飛び出していて機器をそのままパソコンのUSBコネクタに差し込む仕様になっていた。


彼女は卓上のパソコンにカードリーダーを差し込もうとした。でも中々USB端子がスムーズに入らなかったのだ。コネクタどうしの相性の問題で差し込むのが少し硬くて力が要るのかもしれなかった。彼女はカードリーダーをぐっと押し込んだ。それでも中々刺さらない。向きとかを間違ってるんじゃないのか? 壊れてるのかな? 理由はわからないが中々入らない。USBが硬いのかもしれない。彼女の顔も相変わらず硬かった。さらに彼女は力を強めた。とても力んだ顔をしている。


僕は心の中でカードリーダーを応援した。

頼む。早く入ってくれ!スムーズに入って手続きを素早くかつ穏便に終わらせてくれ!


端子がスベスベになってくれ!


すると激しい力で無理やり押し込まれたカードリーダーは、彼女の強靭な力のせいで押し出され最終的に宙を舞った。


カードリーダーが宙を待った。(卓上20cmほどの高さで。)


(僕は接続部分がスムーズになってほしいとは言ったが跳べとは言っていない。しかしカードリーダーは宙を舞った)


そしてその時、カード・リーダー氏の予想外の跳躍力により、終始一貫して無表情だった彼女からとうとうエストニア人としての可愛らしさが発現することとなったのだった!


女性警官
ウフッフッフッフフフ!


・・・・・・・・・?


女性警官
ウフッフッフッフフフハ・ハ・ハ!



それは笑い声だった。


彼女は笑っている! 予想外なカードリーダーの跳躍を見て彼女は笑い出したのだ。さっきまで厳粛な軍人のような顔をしていた彼女。それがまさか


女性警官
ウフッフッフッフフフハ・ハ・ハ!


と笑い始めるとは。

女性警官
ウフッフッフッフフフハ・ハ・ハ!


と笑い出した時の彼女の声はそれまでのものとは違い、とても柔らかく屈託のないものであった。まるで少女のようである。無垢な様子で口に両手をあてて笑い始める彼女。笑いが止まらない様子だ。仕事中にそんなに笑って人事評価的に大丈夫なのか心配になってくる。こんなに笑って上司に睨まれたり、市民に舐められたりしないのだろうか。そう思ってしまうほど屈託のなく・純粋な・あどけない笑顔だった。


その素朴さとは例えるならフローレンのようであった。フローレンとはトーベ・ヤンソン作の物語ムーミンに出てくる女の子のヒロインだ。フローレンはいつもぼくとつとしていてささやかに笑う。とても優しい女の子だ。ムーミンやフローレンスはエストニアのお隣・フィンランド生まれのキャラクターだ。フィンランドはエストニアの兄弟とも言われ、性格や文化や言語や遺伝子に至るまで似ていると言われている。ロシア革命以後にフィンランドは独立し、エストニアはソ連に再編入されたが、70年の隔絶の時を経て両国は今再び盛んに交流している。


ムーミンのスローさや、ぼくとつとした感じ、僕はそれらをまとめて「ムーミン遺伝子」と(勝手に)呼んでいる。これは生物学的な遺伝子のことではない。僕の中では「ムーミン遺伝子」は一般的にはミームと呼ばれる「文化的遺伝子」のことを指す。親から子へ生物学的に受け継がれる遺伝子とは違い、世代や国や地域や家族内で文化や振る舞いとして受け継がれるものを「文化的遺伝子」という。


僕の実際に体感した感じでは、むしろフィンランドは100年前のロシア革命以後の独立からの目覚ましい経済発展で完全に近代化していて、フィンランド人の感情の表出や反応に関して言えば完全に日本と同じ先進国の国民のものである。つまりフィンランド人は全体的にエストニア人と比べると動きがキビキビしているといえる。「ムーミン遺伝子」で言うと、近代化の課程でフィンランド人からはムーミン的なスローなおっとりさ加減は少し減少してしまったのだと言える。


ということは、ムーミンの遺伝子を文化的にも生物学的にも最も色濃く残しているのはむしろ本家フィンランドよりも、今なお近代化途上であるエストニアの方であると僕は考える。僕の体感的にもそう思う。


そんなムーミンやフローレンスを産んだフィンランドよりもムーミン遺伝子を受け継ぐ国、エストニア。


そして僕の前で無邪気に笑い続ける警察官の彼女にも、もちろんその遺伝子が受け継がれている。直接それを目撃した僕にはそれがよく分かる。


警察官という硬い職業をしていても遺伝子には抗えない。素朴に笑う彼女は実在するフローレンそのものなのだ。よく日本のネットなどでは、2次元の女の子のアニメキャラが現実に居ればいいのにという声を散見するが、それは不可能だ。虚構の存在はどこまで行っても虚構でしかない。妄想や現実逃避も甚だしい思考だ。そのように、エストニアに来る前は思っていた。


しかし、今ここでそんな甘い思考に対する訂正と謝罪をしなければならない。現実逃避も甚だしいのは僕の方であった。


ここエストニアには、現実に、フローレンや、ムーミンは、実在、する。


「ここエストニアには現実にフローレンやムーミンは実在する。」


このことだけはエストニアに居た者として強く伝えておきたい。


女性警官
ウフッフッフッフフフハ・ハ・ハ!


エストニアの第二の都市「タルトゥ」でカウチサーフィンをした時のホストファミリー


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