フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第3話

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第3話   桃子 19歳 女子大生   転落の予兆


《これまでのあらすじ》

桃子はどこにでもいる普通の女子大生。複雑な家庭状況で育ったものの、現在は一人暮らしし、わがままではあるが恋人もいる。絵に描いたような平凡な学生生活にそれなりに満足していた。

ところが、ある日を境に彼女の人生はとんでもないことになる。ことの起こりは携帯電話と財布の紛失だった。仕送り金を失いパニックになった桃子は勘違いから風俗店のアルバイトの面接に行って大変な目にあう。意気消沈していた桃子だが幸運にも自分の携帯電話を拾ってくれた女性がいた。桃子は返してもらう約束をし安心して眠りについたのだった。



神様はなぜ特定の人間にだけ試練を与えるのだろう


生涯、波風が一切ない穏やかで順風満帆な渡航なんていうのはありえないにしても

荒波にもがき手足をバタバタしては次の嵐に怯える渡航

私の人生の渡航は、まさに後者だった

どうして神様は私を後者へと導かれたのだ!?こんなにも平凡な私に!


私がこういう話をすると

夫は呆れた顔で笑う

「また、そんなこと言って。本当に桃子は大げさな表現するね」

その優しい表情に私はホッとするとともに

何かこれからよからぬことが再び私を待ち受けているのではないかと恐ろしくなるのだ


あの日の嵐の前の一抹の恐れのように



一夜明け、私は学校へ行った。

朝から煎餅の残りと飴玉一つしかいに入れてない。

本当はお腹が空いて授業どころではなかったけれど

出席日数のために出るべきだと思った。


昼休み、クラスメートたちに食堂へ行こうと誘われたがうまく断った。

由美は空腹を紛らわすために持ってきた水筒を見て

「学校に水筒持ってくる人初めて見た〜」

と言ってから、少し離れたところで私の方を見てクスッと笑った。

相変わらずイヤミな子だ。

ちょっと顔が可愛いくて実家が裕福だからって、いつだって上から目線なんだから。


私は午後の授業が終わるとサッサと学校を後にした。


部屋の中では大人しく時間が過ぎるのを待った。

そして私の落し物を見つけてくれた女性のことを想像していた。

声の感じは若そうだけどハキハキした印象だった。

会ったらまずは、ちゃんとお礼言わなきゃな。

時計を見るとそろそろ5時だ。

約束の7時まで2時間あまり。

女性の指定した駅はここから片道300円かかるが

家中の小銭をかき集めたら奇跡的にちょうど300円あった。



約束の時間になり鞄を持って家を出た。

少しだけ眩暈がしたが、もう少しの辛抱と自分に言い聞かせた。

もうすぐ携帯電話と財布…お金が戻りさえすれば

これで今まで通りだ。

電車に乗り、その駅が近づいてくると自然と鼓動が大きくなった。


女性の指定してきた駅前のカフェには7時前に着いた。

カフェの前なのか、それとも中で待つと言ったのか明確ではないが

いずれにしろお金がないから前に立って待つより他ない。

しばらく立ちすくんでいたら足がフラフラしそうだった。

昨晩からロクに食べなかったせいだろう。

駅の時計を見ると既に7時を5分ほど過ぎていた。

だんだん不安になってきた?

本当に来てくれるんだろうか?  急用でもできたのか?

その時、すぐ後ろの窓ガラスをコツコツと叩く音がして振り返った。

ガラス越しにサングラスをした明るい髪の女性が笑っている。


女性は既にカフェの中で待っていたそうだ。

予め伝えておいた服装を見て私と分かったらしい。

私はまず先に拾ってくれたお礼を言った。

そして勧められるがままに女性の前に腰を下ろした。

目の前の女性は想像通り若そうだけど大人の雰囲気たっぷりに見えた。

髪は丁寧に巻かれてカールしていた。

茶髪なのにこれほどツヤのある髪を見るのは初めてだった。

派手なアクセサリーや服装だが決して下品さがなかった。

彼女は絶えず口元に微笑を浮かべていた。


「あなたも何か頼めば?」

     

    彼女がメニューを渡してきた。

「大丈夫です。喉乾いてないから」

 

「でも座った以上何も頼まないわけにはいかないじゃない。ほら」


「お金持ってないんですよ」


「え、そうなの。じゃ、いいよ。ここ私が払うから」


「ダ、ダメです!拾ってもらった上にそんな」


「いいって。気にしないで。ね、あなた学生さん?」


   私は頷いた。

   彼女は笑って「まさか高校生じゃないよね?」

   と言いサングラスを外した。

   私は思わずハッとした。

    厚化粧だが、とても美しい顔立ちだったからだ。



彼女が私のために頼んだアイスココアが運ばれてきた。

私は、頂きますと言いストローに唇を当てた。

ヒンヤリと甘くて濃厚で最高に美味しかった。

体に染み渡るようだった。

このままだと一気に飲み干しそうで、一度唇を離した。

微笑んで見ている彼女と視線が合い、思わず私は目を逸らし顔を赤らめた。


「災難だったね。ハイこれ」

顔を上げると彼女の手に恋しくてたまらなかった私の携帯電話があった。

でも反射的に私は顔を上げた。

「あの財布は?」


「え?お財布?」


彼女は不思議そうな顔をした。

その表情だけで嫌な予感がマックスになった。


「財布です。赤い財布。二つ折りの。その上に重ねるようにして携帯電話が置きっぱなしになっていたはずなんですけど」

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