50代半ば過ぎで歯列矯正はするべきか

自分の歯並びの悪さにコンプレックスを持っている人が多いと言われている。欧米では、エグゼクティブになる為には歯科矯正が必須との極論がビジネス書に実しやかに書かれている。

共に40代の二人の女性部下が時をほぼ同じくして歯科矯正を始めた。歯に針金を掛けてその位置を徐々に動かしていくやつだ。昔、永久歯が生え揃った中学生が、ニーと笑うとロボットの様な金属が口の中から出現して驚いたやつだ。

自身も下の前歯がネズミの前歯の様に飛び出しているのがずっと気になっていたのだが、流石に年も50代半ばを過ぎたので、もういいかという一種諦めの境地にいたのだが、この様に少し下の世代が歯科矯正を行っているのを見てしまうと、心が騒いでしまう。

特に、一人は矯正器を歯の後ろに付けているためにちょっと見には矯正をしている事が分からない。

(この歳で歯科矯正をしていると知られるのも嫌だからな)

但し、聞いてみると口の中の違和感が通常の物より大きく、慣れるまでは喋るのも結構大変で、歯磨きも念入りにする必要があるそうで、そう簡単な事では無い様だ。

実際、喋り方が赤ちゃんみたいに舌ったらずになっている。特に英語の発音が微妙。


3ヶ月に一回、クリーニングと検診に行っている歯科医院で思い切って聞いてみた。

「先生。この歳でなんですけど。歯科矯正なんてできますかね?」

「できる事はできますけど。2つよく考えて頂く必要があります。」と、先生。

「何ですか?」

「一つは費用。大体、七十万円位掛かりますが保険が効きません。」

「でも医療費控除は使えるのですよね?」

「そうですね。確定申告をしていただければ。」

成る程。節税効果を考えると結構費用は少なくなる。

「もう一つは時間です。」

そう言えばうちの会社の子も1年以上掛かると言っていた。

「先生、どれ位の時間が掛かるのですか?1年ぐらい?」

「うーん。高齢の男性の場合、もう少し時間が掛かりますね。2年位は見ておいてもらわないと。

それに、」

(あれ2つじゃなかったっけ! まだあるの)

「歯をちゃんと並べる為に何本か歯を抜いてスペースを作る必要や、今付けているブリッジも全部外してやり直す必要も有ります。」

こうなると矯正というより、大工事。

先生が、「よく考えてみて下さい。」と、言った時には殆ど諦めていた。

(まあ良いか。ビジュアルで勝負しているわけでは無いし)

この様にして本プロジェクトは陽の目を見る事なく自然消滅しました。


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