フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第10話

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憎悪と嫉妬

《これまでのあらすじ》初めて読む方へ

普通の大学生だった篠田桃子は借金返済をきっかけにショークラブ『パテオ』で働くことに。徐々に仕事に慣れ指名も取れるようになった桃子の内に少しずつ野心が芽生え始めていた。そんな中、イズミというホステスの指名客、飯島が桃子を指名してくる。戸惑う桃子だが…


夜の世界の暗黙のルールの1つに「人の客を横取りしない」というのがある。


初日、玲子が溜息まじりにフッと笑って言った。

「でもね〜、ここだけの話そんなの上辺だけ。店にとっちゃお客の希望通りにするのが第一だから。でも、それを表向き許すとそれこそ、そこら中で客とホステスの三角関係トラブルだらけになっちゃうでしょ。だから、極力やめておいた方がいいかもね」



それは、この世界に足を踏み入れたばかりの私だって分かる。

自分がやられたくないことは

他人にもしません

そういう話でしょ。


でも…今のこの状況は…


私は離れた席で客にしな垂れかかっているイズミを見た。

客の手を取って手相を見てワザとらしく驚いている。

腹の出たオヤジは、まんざらでもなさそうにヘラヘラ笑っている。



カランという音で私はハッと振り返った。

隣で飯島が自ら氷をグラスに入れていた。


「ゴメンなさい。私やります」


飯島は微笑してウイスキーをグラスに注いでいる。

「いいよ。どうしたの。何か考え事?」


「いえ、あの」


私は俯いてもう一度チラとイズミを見た。


「イズミか、ほら、あんなに愛想振りまいちゃってねえ」


飯島は忌々しそうにウイスキーを喉に流し込む。


「僕は今日杏ちゃんに会いに来たんだよ。だからそんな顔しないで」


私素直にハイと答えた。


飯島からに指名はこれで3回目だ。

でもイズミの出勤している日と重なったのは今日が初めてだった。


飯島が大学の同僚の失敗談をして私が笑った時


イズミがこちらを見た気がした。


私は内心ドキドキしながらも顔に貼り付けたような微笑みを

絶えず飯島に向けていた。



この頃から私に対する嫌がらせのような事が始まった。


端から見れば私のこの行動と態度は生意気で無知に見えただろう。


今まで私に関心を向けなかった者までが

目障りそうな視線を向けてくるようになった。


更衣室で時には嫌味や皮肉飛んでくることもあった。

「誰かさんって指名取りたくて必死らしいよ。私の客も狙われそう」

「ネコは可愛いけど、ドロボウ猫はタチ悪いよね」


イズミが言っているのではない。取り巻きのような仲間のホステスたちだ。

だから反論する事ができない。

したところでしらばっくれられるだけだ。


それはだんだんエスカレートしていった。

言葉だけじゃおさまらないらしく


カバンの紐が切られていたり

靴も何足も隠され買い直す羽目になった。


ある日、ロッカーを開けるとキラキラした魚の鱗みたいなのが

バラバラと足元に落ちてきた。

衣装はボロボロになっていた。

スパンコールがほとんど剥がされていたのだ。


入って来た数人のホステスたちが、私の方を見て

「えーーっ。どうしたのお?!かわいそう〜!!」

下手な芝居をしていた。

後に続いてきたイズミが言った。

「よっぽど誰かに恨まれるようなことでもしたんじゃない?」



私は悲惨になった衣装を着て更衣室を出た。

ショーメンバーが揃って幕が上がる段階で

佐々木が、おやおやという顔でおかしそうに私を見た。

たまたま居合わせた玲子も私を見ていた。

「どうしたの?それ。」


ホステスたちが皆、私と玲子を見ている。


「今日来て見たらこうなってました」


「その格好で本気で出る気でいたの?」


玲子は誰にやられたのか聞かなかった。


私はうまく答えられずにうなだれていた。


「みんなも忘れないでちょうだい。私たちはお客様に夢を与える仕事をしてるの。

特にショーはその花形、お客様に時間を忘れるくらい夢中になってもらわなきゃダメ。

そのくらい提供してなんぼよ。」


玲子は改めてボロをまとった私を見た。


「その格好で夢が与えられると思うの?」


私は首を横に振った。


「誰がやったのかは聞かない。でもショーを台無しにする人は

私が許さないから。」


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