貧乏こそ神 我が母まいくばあの話(第3回)

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『他人の車に乗る』

 

勘違いの王道を行くまいくばあは、僕が大学生の頃下宿に遊びに来て、違う学生の部屋で湯を沸かしお菓子を用意して僕を待ったことがあった。※次章『気がつけよ!』に収録。

行くべきところはここだと考えて決める前に、本能的に自分の行くべき場所が頭の  3

の中に設定されるのだろうか。(惜しむらくはその本能が「まちがった本能」であることだが)

 

さて、ヤツはよく「他人の車」に乗る。それもいつだってためらうことなく乗り込んでいく。いつぞやは職場の仲間と出かけて休憩後、仲間たちがいくら探してもまいくばあが見あたらない。はたと思いついた友人が片っぱしから他の車を探していくとよく似た車に乗っていた。昔のこと、ドライバーが鍵をせず外出したらしい。本人にしてみれば「みんな遅い!」と思っていたらしい。

つい先日、家族で外食へ行った時のこと。ヤツは慌てものなので支払いをしている間にさっさと外に出て行く。僕は妻に「まいく、外へ行ったで」と言うと、妻も「了解」の如く追っていけば、ほら思った通り、やはり他の車のドアに手をかけていた。

さらにある時にはスーパーの駐車場で他人の車に「堂々」と乗り込んだ。運転席で家族を待っていた人がビックリして「あのー、どなたですか?」

これほど堂々と間違えば、間違われた方が恐縮するというもの。ちなみに「認知症」の気はまったくナシであります。なんせ、あれいくらこれいくらということと、あのときいくら使った、あの人にいくら借りているなどのおカネの記憶とその合計額などの計算能力、さらには「こうしておいてくれ」という依頼は完璧に覚え、「あの人はこうだ」、「あの時はこうだった」という記憶力は鮮明。かかりつけの医者にも「あんたはボケん」と折り紙をつけられているほどです。

異常な方向音痴と、他人の車に乗るという行為はヤツの永遠のナゾであります。

●まいくばあの「かんちがい」

他人のクルマに乗っても、まちがったら教えてくれるよ。

 

 

 

 

 

『たなごころ』

 

たなごころとは手のひらのこと。

小さいころ母の手のひらで頬を包んでもらったことがありますか。残念ながら僕にはその覚えはないのですが、我が母まいくばあのたなごころはある種別格のものであります。もはやそれは手のひらを超えた物体と化しております。まさに極めつけ。 

墓参りに行きました。しかし墓石を磨くためのスポンジを忘れたのです。ヤツは平然と自分の手のひらでそれを磨きはじめた。シャーシャーと音がして、墓石の汚れがきれいに落ちていく。そう、鍛えに鍛えたまいくばあの手のひらは、そうじ道具にもなる万能の  4

ツールでした。見ればその表面は硬く逞しく太く短くも、そこを押してみるとプニュっとやわらかい。見るほどに役に立ちそうな手相であります。昔の人ゆえの和裁、洋裁、農作業、さらに製材所の職工、ブロック職工、果ては型枠大工までこなしてきた熟練の手でもあります。手ひとつで何でもできる人間の力がみなぎっています。ここに「料理」と入らないのがつらいところ(泣)ですが。

「姉ちゃんの手は神の手だね」という叔母の声もあります。まいくばあが妹の肩を揉んであげると、その心地よさは「神の手」といわれるくらい気持ちがいいらしい。僕にはこれまた覚えはないのですが。

●まいくばあの「ちょっとだけ自慢」

この手はごっついし、みっともないけど役に立つぞ。

 

 

 

 

 

『叙情』

 

以前僕の奥さんが両親の法事のため断続的に留守にしていた。母がその代わりの家事やネコの世話などをしてくれていた。奥さんが帰ってきて炊事など台所仕事をしているのを見てひとこと。「やっぱり女がおると台所が活き活きするねえ」

「どうして?」と聞くと、「湯沸かしの湯気とか水の音とかね、ええもんじゃ」

こんな慌て者の母でもそういう叙情はもちあわせているらしい。まっ、なんやかんや言ってもとてもいいやつです。

 

 

 

 

 

『失礼します』

 

まいくばあの家は築十年でまだ新しい。そこへ一人で住んでいる。

実は妹の夫、タケシくんが五十才の若さで亡くなったのだが、母は、大酒飲みでだらしなくも性格が実直でやさしくて働き者の彼をとても可愛がっていた。そんな彼は実の親以上にまいくばあを慕っていたのだった。タケシくんの死後、妹はその遺産でまいくばあのための家を建ててくれたのだ。(それまでは借家暮らしだった)

一階がまいくばあの部屋。二階は妹が将来帰郷して暮らすためのものだ。       5

まいくさんはとても感謝して、はじめて建築予定地に連れて行った時には歩きながら「わし信じられん」とポロッと涙をこぼしていたものだった。

さて、義理堅いまいくばあにとって二階が娘兼家主の部屋となれば、あるじもいないのに毎日掃除をしてピカピカにして、その誰もいない二階に上がるとき必ずこう言うのだ。

「失礼します!」

いちいち言わなくてもいいのにね。

その家にはまいくばあの表札と、タケシくんの表札が並んでかけられている。

●まいくばあの「ありがとう」

酒飲みじゃったが、やさしいいい子じゃった。ありがとう。

 

 

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前沢 しんじ

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