フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第25話

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壊れた想い

《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

普通の大学生だった桃子は、あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている。野心に目覚めた桃子は少しずつ頭角を表し店の売れっ子へと上りつめていく。そんな中、ある晩の出来事はきっかけで桃子は大嫌いだったはずのチーフマネージャーのー佐々木への想いをハッキリと自覚するのだった。そして佐々木も桃子に特別な想いを抱いているようにも思えたが、そんな矢先…




私が更衣室の鏡に向かって座っていると

ちょうどショーが終わったらしくルイとアヤが入ってきた。


2人は店の売れっ子ナンバーワンとツーである。




入ってくるなり私を見たアヤは、眉をひそめた。




2人に続いて他のショーメンバーもなだれ込んできた。




一気に汗と香水と化粧も匂いで室内が蒸せ返るようになった。






「あんた、いつまでそうやってる気?」




アヤが呆れ交じりの苛立った声を出した。




更衣室がシンとなり緊張が走る。




皆一様に聞こえないふりをしながらも


視線はしっかり私に集まっていた。




私が答えずにいると




ルイがやんわりと言った。


「アヤ、よしなよ。杏ちゃん疲れてるだけだよね」




「でもさ、急にショーに出ないとか言い出したせいで私


2人のところ1人で踊る羽目になったんだよ。超やりずらかった。


あれソロとか マジないんですけど」




「まあまあ」




苛立っているアヤをルイがなだめる。





アヤは前も佐々木と痴話喧嘩してヒステリックに騒いでたっけ。




佐々木がうんざりしてたのを覚えてる。




ルイは、こういう偽善でいい顔して客とってきたんだろう。




あとのウリは、そのVネックに溢れんばかりの豊満なバストだけ。




私、知ってるんだから。


2人とも蛍光灯の下ではきったない肌してるくせに…






こんな奴らに負けてる自分って…なに?





私はまた涙が込み上げてきた。






「わっ。泣いてるよ」




アヤが侮蔑をこめた顔で言った。




「あのさ、ドウデモイイけどさ、店ん中暗くなるから


プライベート持ち込むのやめてくれる?


プロ意識持ってよ!プロ意識!!」




だから、アンタに言われたくないってのに…




涙は止まらなかった。




「さ、行こ行こ。私、客待てせてんだ」




「3人もね。ルイさん忙しすぎ」




あれ、そのネイルもしかして…


ネイルの店の話で盛り上がりながら


アヤがルイと肩を並べて更衣室を出ていくと




他のホステスたちも徐々に出て行く。




「ね、杏さんてさ。もしかしてアキサンのことじゃ…」




誰かがヒソヒソ声でそう言いかけると




複数の「シーっ」と言う声がそれをかき消す。




さも面白そうにチラっと私を見ながら


人差し指を口元で立てているのは




カナと仲の良かった女だ。






カナ…




あの頭の悪そうな表情


ヤマンバもどきのどぎついギャルメイク

半開きのアヒル口

グロスを塗りまくったヌメヌメした唇


半開きの股


魔女のように伸びた爪




全てがいやらしく生々しく思い出される。





私は1人残された更衣室で


髪をかきむしった。


なんで!?


なんで!?





なんであの子なの!?





佐々木がカナと共に失踪したのを聞いたのは

今日店に出てすぐだった。




カナが借金取りから逃げ回っていて


そろそろヤバイから一緒に逃げてやることにする



黒服の1人が佐々木がそう言っているのを聞いたそうだ。




それを聞いてしばらく私は



客の隣のいても会話も上の空だった。



ショーの時間になると私の動揺はさらに酷くなり


こうして衣装に着替えたきり座り込んでいる。





昨夜まで一緒にいたのに


パテオに来ればいつでも会えたのに


もういないなんて

信じられなかった。




なぜ突然いなくなったのか…




なぜ、カナなのか…







「あなたが泣くのはおかしいんじゃない?」




私は、涙で濡れた顔を覆いながら鏡越しに


戸口にもたれかかってこちらを見ている玲子を見た。




「本来アキちゃんの失踪を嘆くのは私だと思うけど?」


私は顔を伏せて涙を拭った。

何言ってんの?

この女、売上以外のことはどうでもいい強欲冷血漢のくせに。

私は声を振り絞った。


「アキさんがいなくなったくらいで

   なんともないでしょ。あなたは」



玲子は、腕を組んだままアハハと宙をを仰いで笑った。


「入店してもうすぐ一年経っても

   あなたって、根っから素直な子なのよね」


ガラス越しの玲子は皮肉っぽい苦笑いをして顔を歪めた。


「でも、それじゃ3位止まりよ。永久に」




私は充血した目で玲子をにらんだ。




「男の1人や2人、利用するならともかく

   こんなことで勝負の場で泣きじゃくってるんじゃ

   お話にならないわね」



「ほっといてください。あなたには関係ないこと

  なんだから」


早く出て行ってほしかった。ほっといてほしかった。


「教えてあげる。何を言われたか知らないけど

  佐々木は正真正銘の女たらしよ。

  この店のほとんどの子が一度は口説かれてる。

  ちょっと可愛い子と、もれなく手を出される。

  私だって元々は佐々木に誘われたのよ。ボスの女にだろうが

  平気で口説く、それが佐々木よ。そして一度寝たらほとんどの子は

  ほっとかれる。私は立場上無碍にはできなかったのね」


玲子の声は、私を追い詰めるだけ追い詰めた。

私は、佐々木から愛を囁かれたことすらない。

ただ窮地を救ってもらい、優しくされたに過ぎない。

私の一方的な恋だったのかもしれないのだ。

誰にも恋したことがなかった私の勝手な思い違いだ。


私は何を期待していたのだろう。

1番、愚か者で滑稽なのは、私なんじゃないか?



「もう帰りなさい」


玲子が静かに言った。


「その精神状態じゃ無理よ。

   指名のお客さんには私から謝っとくから」


玲子はそう言い捨てると姿を消した。




私は着替える気力もなく


着替え途中のキャミソールのような格好で店を後にした。


自分が惨めだった。

とにかく何も考えたくなくて

一刻も早く店を出たかったのに

家で1人になるのが辛かった。


途中、溝にヒールが引っかかって派手に転んだ。

折れたヒールを探していると

すぐ後ろにいた見ず知らずの男が声をかけてきた。


「おいおい、ねーちゃん、大丈夫?どこの店?」


男は私の赤いヒールをつまんで見せてきた。



ひと目で私は夜の女と分かったようだ。

それはそうだ。

派手な化粧に、露出度の高い派手な服。


夜の匂いプンプンだ。



私は、どうもと言って男からヒールをむしり取った。


「ねえねえ、奢ってあげるからちょっと付き合ってよ〜〜」


先ほどの転倒で折れたヒールのせいで左右のバランスがチグハグになり

私はヨロヨロと歩を進める。

その隣で男はしつこく誘ってくる。


うるさいな…ハエみたいな男


いつものように追い払う元気がない。

それにこのまま帰って1人でジメジメ泣いたり

悶々とするよりは、この男と一緒にいた方がマシかもしれない。


 

  私は男をチラと横目で見た。


年の頃

20代半ば

説明するまでもない、どこにでもいる

チャラそうなナンパ男だ。


「ちょっとならいいけど」


私が言うと男は


「マジで!?超ラッキーじゃん!!」


そう言うと馴れ馴れしく私の肩を抱いて


「どこ行こっかあ?!」

と言った。


私は、その腕をどけながら言った。


「どこでもいいよ。お酒  飲めるとこなら」





数分後


私は安っぽく不潔な居酒屋のカウンターで


チャラ男と並んで飲んでいた。


「いや、マジで今夜はついてるよ。

   君みたいなマブいコと飲めるなんてさ。

   俺さ、東京出てきて、ずっと客引きやってんだけど」


マブいって…死語じゃん。

この男、若づくりしてて意外とバブル世代なのかも。


ボンヤリとした頭でそう考えていた。


男の話は薄っぺらかった。


話なんて5分も聞けば

その人間の大きさが分かるものだ。



私は五杯目のビールを飲み干すと


チャラ男は嬉しそうに私を見た。


「おねーさん、飲むねえ…なになに、嫌ことでもあった?」


「別にい」


私は、すでに呂律が回らなくなっていた。


「いいねえ、その飲みっぷりに惚れたわ、オレ。

  もっとガンガン飲んじゃおうぜ」


何が惚れただよ

下心しかないくせに。



注文した新しいビールを飲んでいると隣で何やらゴソゴソやっていた男が


「あ、やべ〜」と言った。


「おねーさん、俺さ、カネどっかに落としてきたみてーだわ」



マジでやべーよ。スられたかな?

男は下手な芝居を続けている。



「いいよ。私払うから」


これ以上ヘタクソな小芝居に付き合いたくない。



「え!?いいの?!いや、マジでアンタいい女だね!」


チャラ男は早速ビールを注文した。


ホント最低な男。


でもこんな奴でも、少しは気が紛れた。


私は1時間足らずの間でワインとビールを計7杯も

胃に流し込んだ。


味なんてしなかった。

でも、気分は良かったはずだった。


吐き気をもよおしたのは、その直後だ。


「う、気持ち悪…」


ガタっと立ち上がったのはいいけど、

地に足がついているのかすら分からなくなっていた。


「ちょっと、ちょっとお、おねーさん。だいぶフラついてるけど大丈夫?」


「大丈夫!」


と言って千鳥足でトイレに駆け込んだ。




…ホント最悪だ。


何やってんだろ、私は…


胃の中のものを出して


顔を洗った。


小さな鏡に映るのはメイクが剥げて


お化けみたいな女の泣き顔だった。



これが今の私か…

恋をすると綺麗になるなんて

とんだお笑い草だ。


やっぱり、恋なんてすべきじゃなかった…




私は、ヨロヨロとした足取りで


メールを打っている男のそばまで行き


財布から出した1万円札をカウンターに置いた。



「帰る」


私が行こうとするとチャラ男は慌てたように私を見た。


「ええ!なになに、帰んの?!その状態で歩くのヤバイって」




私は無視して店を出た。




店先で手を挙げるとタクシーが止まった。


倒れこむように乗車した私を運転手は露骨に嫌そうに見た。


「お客さん酔っ払い?吐かないでね、シート洗ったばっかりだからさ」



私がやっとの思いで、家の最寄駅を告げた時だった。



チャラ男が車内に滑り込んできた。


は…何!?ちょっとコイツ?どういうこと?!


声にならず


「ちょ…なんで…」


というのが精一杯だった。


運転手が、怪訝そうに振り返った。


「あれ?お連れさんいたの?」


「そ!俺はこの子の保護者。いいよ、出して!」


当たり前のように私の体に密着してシートにもたれるチャラ男。



「そう、良かったよ。このお客さん到着しても降りなそうだから」


運転手はむしろホッとした顔でエンジンをかけた。



私は薄れそうな意識を必死で保とうとした。


意識がなくなればチャラ男に何されるのか分かったもんじゃない。


ホテルにでも連れ込まれてもおかしくない状況だ。



走行中、絶えずわずかな警戒心を働かせ

意識があることを訴え続けた。


それでも目的地に着いた時はほぼ気を失いかけていた。



「お客さん、着きましたよ」


「おねーさん、降りられる?」


運転手とチャラ男の声がぼんやり聞こえ


私は身を起こした。



支払いを済ませ、見覚えのある


店が何軒か視界に入ってきた。


いつの間にかチャラ男にもたれかかっていた。


チャラ男は私の肩をガッチリとロックしている。



嫌だ…


抵抗しようにも力が出ない。


「ありがと、もういいから」


思ったより上手く言えた。


チャラ男はまだ私の腕を離そうとしない。


「え、危ないじゃん。家どこ?せっかくだし送らせてよ」



「いいってば。もうすぐそこだし」



「そんな冷たいこと言わないでさ」


チャラ男はまだ私を解放しようとしない。


少し酔いが覚めた私は、チャラ男を睨んだ。


「なに?怖い顔しちゃって。え、本当にダメなの?」


私は声を張り上げた。


「ダメ!さっさとその手離して帰ってよ!」



さすがにチャラ男が怯んだ。


私が背を向けると


チャラ男の舌打ちする音が聞こえてきた。


「んだよ!どうせ客とヤリまくってんだろーがよ!!」


そう言うとチャラ男は、もう諦めたのか


私から遠ざかって行った。


私は、急いで小走りで角を曲がり


家路を急いだ。




家の前まで来た時だった。


アパートの前の街灯が少ない暗いスペースに黒い人影が見えた。


大きさから男の影だと分かる。



さっきのチャラ男が頭をよぎって、ゾッとした。


もしかして…つけられてた?



黒い影は私との距離を一気に縮めて来た。


私は悲鳴を上げそうになった。



苗代に襲われかけた時のことまで蘇った。



「あ、俺だよ」



その声に、少し間を置いて


私は喉まで出かかった悲鳴を止め押し黙った。


「ごめん、驚かせたよな」


「え…あ」


よく見ると、見覚えのある顔だ。


それは一年ぶりに見る元彼の拓也だった。













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Yoshida Maiko

恋愛や婚活をテーマにコラムを書いています。またライターとしても活躍中。6年間の海外生活や教育学や心理学も学んだ経験から人生に携わる結婚観連の仕事をしています。 http://ameblo.jp/maichelle←よかったらアメブロものぞいてみて下さい、

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