”足るを知る者は富む”八百万(やおよろず)の精神をアートに込めて世界に示す

このエントリーをはてなブックマークに追加
15


八百万(やおよろず)の精神は、この壊れかけた世界に対する処方箋となりうるのではないか?

夜桜をぼんやりと眺めている時に、私はひらめいた。全てはそこから始まる。

 

桜の下のスパイダー

まだ寒さの残る2016年3月早朝、満開の桜の下で白いジャケットとジーンズを身に着けた男が、カラフルで巨大な物体を背負ってベンチの上に立っている。それはプラスチックで作られた生物の様であり、彼はその作品を撮影しているのだとわかるまでには、それほどの時間はかからなかった。

さりげなく話しかけてみると、作品とストリートショーについて教えてくれた。

 

彼の名は、タケシ・スパイダー。

ペットボトルで制作したスパイダーを背負って、世界中でストリートショーを開催しているらしい。アートは美術館やギャラリーで展示するだけでなく、背負って外を歩きながら展示しても良いのではないかと彼は言う。その作品は決まった場所へ行けば必ず見られるものではなく、町を歩いていて偶然それを目にする場合もあるだろうし、見たいと思っても必ず見られるとは限らない。まるで珍しい自然現象の様だ。

 

なぜペットボトルでアートを作っているのかと尋ねてみる。

ルネサンスの頃、ミケランジェロは多くの石の彫刻を制作した。それは当時イタリアで、良質の石が安易に手に入ったからだ。21世紀の現在、日本ではたくさんのペットボトルが簡単に手に入る。それを利用してアートを作ろうと思ったのだと彼は続ける。

ちなみに、ペットボトルはリサイクルする方が新しく作るより高くつくので、回収後のリサイクルも上手くいっていないらしい。この作品はリサイクルアートという事か。

 

さくらさくらの口笛を吹きながら、熱心に作品を撮影しているこの男は、日を浴びて金色に輝くスパイダーを背負って、一体どこの町を歩くつもりなのだろうか?

「ニューヨーク!」

聞くよりも早く答えが返ってきた。

 

混沌の世界と八百万(やおよろず)の神

世界は混乱と混沌の時代に突入しようとしている。

ヨーロッパでは、EUが難民問題や金融危機問題を抱えており、イギリスはEUからの離脱の是非を問う国民投票を控えている。中東やアフリカ諸国ではテロが頻発し内戦が長期化。ロシアと中国は一方的に領土の拡大を続けている。アメリカは大統領選挙を控えているが、その結果がどうであれ国力減退により世界の警察官を辞める流れは変わらない。

資本主義や自由貿易によりひたすら経済成長を目指してきた人類は、金に目がくらんで自分が自然の一部であることも忘れ、自らがよって立つ大地や大気を汚し、母なる自然を破壊し続けている。まるで終末に向けて暴走している様だ。おそらく拝金主義者たちの欲望は、永遠に満たされることはないだろう。

 

この壊れかけた世界に対する処方箋は、我々が先祖から引き継いできた精神思想だと思う。

アボリジニの自然崇拝信仰は、大自然を神と捉えて自然との共存共栄を目指すという理にかなったものであり、その思想は日本神道における八百万(やおよろず)の神の精神に通じる。日本の神話から読み解く、その精神は現代を生きる私達にこそ必要なものではなかろうか。これ以降は、八百万の精神と記すことにしよう。

 

古来より、日本列島には八百万の神が存在していたという。八百万という数は無限を意味する。我々の先祖は自然界の全ての物、太陽、川、木や動物には魂が宿っていると信じていた。その精霊信仰と自然崇拝という概念が、後に日本神道の原型となる。八百万の神々はお互いを尊敬し合い、精神的に豊かで持続可能な国を築いたと言う。この物語は“足るを知る者は富む”という言葉の本当の意味を教えてくれる。


スパイダーはとてもユニークな生き物だ。神話や伝説の中で、時には神からの使いとなり、時には悪の化身や怪物となる。今制作しているスパイダーは、八百万の神の一人でもあるかもしれない。そういうイメージを頭の中に描きながら、ペットボトル作品“八百万”を制作した。

 

作品制作と並行して、ストリートショーの開催地について考える。

世界に最も影響を与える多民族国家であり、今年大統領選挙を控えているアメリカ。その中でも特別な都市であり、世界の縮図とも言われるニューヨーク。その人口が800万人超という話を聞いた時、ストリートショーの舞台は、この町を置いて他に無いと思った。

 

“八百万(やおよろず)”タケシ・スパイダーストリートショー

5月末から6月にかけて、ニューヨークのマンハッタン南半分及びブルックリンで、ストリーショー“八百万”を開催する。

初日にはユニオンスクエアでユセフと知り合い、彼の美しい歌声を聞きながらしばらく共に歩いた。その後、ワシントンスクエアで出会った現地在住の日本人3人組バンドと意気投合し、彼らが竹笛や太鼓で演奏する“さくらさくら”に合わせてダンサーの娘と共に踊る。本当に音楽に縁のある一日だった。

 

2日目の朝ホステルを出発して約5分後、スパイダーを背負って歩いていると隣にパトカーが並走してきた。急に窓から顔を出した警察官に呼び止められる。

「それは何?」と彼女が聞くので、

「私の作品。」と答えると、

「良いわね。」と返事が来た。

ストリートショーとスパイダーの説明をして、ついでにN.Y.P.Dのパトカーの前で彼女と写真を撮る。

3日目はマディソンスクエアの前でカメラマンにしばらく捕まった後、タイムズスクエアを通り抜けて、セントラルパークのストロベリーフィールズを訪れ、ジョン・レノンの魂に祈りを捧げる。そこでは、いつも誰かがビートルズやジョンの曲を弾き語りしており、心が穏やかになると同時に少し悲しい気持ちになる。イマジンが静かに繰り返し頭の中で流れていた。

 

そして4日目はチェルシーへ行き、大きなギャラリーにブラブラ立ち寄り、何人かとアートの話で盛り上がった後、すっかり観光名所となったハイラインを歩く。ちなみに、ハイラインとは廃線となったウエストサイド線の高架を整備して、空中緑道として生まれ変わらせたこの公園に付けられた名称である。ここからマンハッタンを眺めると、空を飛ぶ鳥の目線を体験しているような気持ちになる。

5日目には、ホステルで暇そうにしていた同室のガストンを誘って、共にブルックリン橋を渡る。橋の上からは自由の女神やマンハッタンが良く見えた。橋を渡った後はロウアーマンハッタンをブラブラ歩きつつチェルシーまで戻る。その際に教会の前で出会った尼さんに、やおよろずの精神と“足るを知る”という考え方について話をしたら、彼女は宗教の違いを超えて深い共感を示してくれた。 

 

6日目には、グリーンビレッジやソーホーを歩く。夕方に友人のルークと再会を果たし、再びチェルシーのギャラリー街をうろつき、オープニングパーティーの梯子をする。ギャラリー内の展示作品には目もくれず、私の背負っているスパイダーに駆け寄ってくる観客達と笑顔で写真を撮る。

雨の日は、ストリートショーをやらないことにしている。

そういう時には、ホステルでゆっくりと朝食をとり、コーヒー片手に世界中の人々と様々な会話を楽しむ。各国の文化や観光の話から始まり、政治や歴史の話まで話題は幅広く、時には参加者が10人を超え、大いに盛り上がることもある。話の中には、今その国で生活している人の正直な気持ちや考え方が、たっぷりと詰まっているので大変興味深い。

会話に夢中になり、気が付くと昼前になっていたなどという事は良くあることだ。午後は好きな美術館を訪れてのんびりと過ごしたり、友人と食事に出かけたりして英気を養う。

 

最終日には国連本部を訪れる。国連は現在193か国が参加する大きな国際組織であるが、5つの常任理事国の一か国でも拒否権を行使すれば、何も問題が解決しないという欠陥を持つ。重要な案件であるほど5か国の意見は分かれることが多い。現在の潘基文事務総長になってから、国連はさらに機能不全に陥る。彼が国連職員として身内である多くの韓国人を登用し、中国の軍事パレードにも参加したことで、国連の公正中立の思想までも失われてしまった。せめて次の事務総長は、公明正大な人物であってほしいと願いつつ、スパイダーを背負っていつまでも国連の前を歩いた。

 

ニューヨークの一番の魅力は何かと聞かれたら、やはり多種多様な人種が共生している点だと答える。そのダイナミズムがこの町のパワーの源であり、移民たちの生み出すエネルギーが大気中に満ちているから、この町は特別なのだ。

その移民を極端に制限し、人種差別を進める政策をとるような人物が大統領になったなら、ニューヨークだけでなく移民の国アメリカ自体の魅力をも色あせることになるのだろう。

しかし、移民を無制限に入れれば良いという話ではなく、何事もバランスが重要だと思う。

 

今回ニューヨークで出会った多くの人々に、少しでも“足るを知る者は富む”という、やおよろずの精神が伝わったなら嬉しい。短時間の会話ではあまり伝わらなかったとしても、偶然街角で見かけた不思議なスパイダーの記憶だけでも、心の中のどこかに残ってくれたらそれで十分だ。

 

イギリスのEU離脱とアメリカ大統領選から見えてくるもの

桜の下で撮影をしてから8か月が過ぎ、11月を迎える頃世界は大きく動いていた。

イギリスでは6月にEU離脱の是非を問うために国民投票が行われて、事前の予想を裏切り離脱派が勝利する。EUはヨーロッパの国々が共存共栄を目指すという理想を掲げて、急速に統合と拡大を続けてきたが、近年はドイツとギリシャの様に、経済的な勝ち組と負け組にはっきりと分かれてしまう。また、域内の国境を無くして人や物の移動が自由になった為、中東からの難民をほぼ無制限に受け入れる羽目になり、治安が悪化しテロの危険も高まる。イギリス国民はそんなEUから離脱することを選択したのだった。さらに不安定化したEUから、再び離脱国が出る可能性も高まってきた。

 

アメリカでは11月の大統領選挙で、ヒラリークリントンにドナルドトランプが勝利して、彼が次期大統領に決まる。アメリカの大手メディア各社がヒラリー優勢を伝えていた中で、まさかの逆転勝利の様にも見えるが、実際にはメディアの偏向報道による世論操作が失敗に終わったのだとも言える。

ヒラリーの様な大企業から多額の資金援助を受けてきた政治家は、資本家が操る大企業の意向に逆らう政策をすることはできない。それはすなわち一部の富裕層がさらに富み、それ以外はさらに貧しくなり、アメリカ国内の格差が更に拡大することを意味する。この現状維持路線に嫌気がさした人々が、かなり多かったのではないだろうか。

トランプには政治の経験が何も無く多くの問題発言で世間を騒がせたが、彼の中に現状打破の可能性を見出して、それに賭けた人が多かったのかもしれない。さて、その結果が吉と出るか凶と出るか。

 

この二つの大きな出来事が意味しているものは、アメリカを始めとする先進国が主導して進めてきたグローバリズム(地球主義)に、異議を唱える勢力が大きくなっているという事だ。

それはすなわち、グローバリズムという地球上を一つの共同体とみなし急速に世界の一体化を進めるという思想に、ある程度ブレーキがかかるという事を意味する。結局グローバリズムとは、大企業と大資産家だけに富の集中する仕組みであったという事に、多くの民衆が気付き始めたのだとも言える。

ただ一つ注意すべきことは、反グローバリズムに傾きすぎれば地域主義・保護主義で世界はバラバラになりかねないので、適度にバランスを取ることが大切だ。

ちなみに、やおよろずの精神とはグローバリズムと対極のものである。

やおよろずの精神とは、みんな違って、みんないい。(違いを認めて、共存共栄)

グローバリズムとは、みんな同じで、みんなだめ。(違いを認めず、極限られた者だけ富む。)

 

この地球には多種多様な花々が咲き乱れているから美しいのであって、地上が全てバラで埋め尽くされてしまったとしたら、その光景は見るに堪えないことだろう。

 

八百万(やおよろず)の国が果たすべき役割

今世界中を見回してみると、どこの国も多くの問題を抱えており前途多難といった様子だ。各国が経済成長を進めれば進めるほど、限られた資源の枯渇は早まり、貧富の差は広がり、国内外の治安は不安定化し、環境汚染や戦争が世界的に拡大してゆく。これはすでに現在進行形で起こっていることだ。その先に待っているものは地球の死、すなわち人類の滅亡である。

今まで進めてきた経済成長最優先の思想にはもう限界が見えているが、誰も改善方法が分からず、新たな方向性を指し示すような指導者や国は見当たらない。

 

このような時代だからこそ、新たな概念を世に示し、世界に手本を示すような国が必要だ。

ここは日本の出番である。なぜなら、日本は成熟した伝統・文化と歴史の中に、その役割を果たす大きな可能性を秘めている。

 

八百万の精神は日本が世界に誇るべきものだと思う。

その中には他民族との時間をかけた融合や、お互いの違いを認めて共存共栄を目指すこと、また自然を大切にすることで自らの生活環境を守る知恵や、もったいないという資源を大切にする感覚が含まれている。なにしろ八百万の神が共存するのだから、基本的にみんな神なのであり、一人だけ特別などありえない。これは大変興味深い思想だと思う。こういう考え方が広まれば、紛争の火種となっている宗教対立は減って行くだろう。

 

貴重な自然や伝統・文化を犠牲にしてまで、無理に経済成長する必要は無いのではないか。

行き過ぎた物質主義や拝金主義を見直し、自然環境を守りながら精神的に豊かな生活をしてゆくことは、我々が覚悟を決めれば十分可能である。別に日本は鎖国をすべしという話ではなく、世界と貿易や国交を続けながらも、もっと自然と伝統・文化の再生を核とした、地方創生及び再生可能エネルギーの開発に全力を注ぐべきだと思う。まずは日本がそれを成し遂げ、新しい国の形を世界に示す。

その時、しなやかに力強く生まれ変わった日本は、世界の目にどのように映るだろう。


終わりに

これからの日本が八百万の精神で生まれ変わるにあたり、アートは文化の部分で一翼を担うことになる。この挑戦を前にして、一人の日本人アーティストとして胸が高鳴る。

20世紀以降、アメリカとイギリスが主導して世界中に展開してきた現代アート。明らかに消費期限切れとなっている空虚な現代アートに変わる、地に足の着いた新たなアートを生み出し、今後も世界中で発表して行きたい。

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

読んでよかった
このエントリーをはてなブックマークに追加
このストーリーをブログ等で紹介する

Spider Street Show ”8 Million"の様子です。http://takeshi-hamanaka.blogspot.jp/2016/06/takeshi-spider-street-show-8-million.html

https://youtu.be/nJB0N9rMP78

Spider Street Show "8 Million"☆- Takeshi Spider, Live, Washington Sq Park, New York 
https://youtu.be/nJB0N9rMP78

Hamanaka Takeshi

彫刻家 1975年横浜生まれ。タケシ・スパイダーとして、ペットボトルで制作したクモやサソリを背負い世界各地でストリートショーを開催している。非現代アートを提唱。海と旅とBarをこよなく愛する。YouTube:Spider Street Show

|

Hamanaka Takeshi

彫刻家 1975年横浜生まれ。タケシ・スパイダーとして、ペットボトルで制作したクモやサソリを背負い世界各地でストリートショーを開催している。非現代アートを提唱。海と旅とBarをこよなく愛する。YouTube:Spider Street Show

Hamanaka Takeshi

彫刻家 1975年横浜生まれ。タケシ・スパイダーとして、ペットボトルで制作したクモやサソリを背負い世界各地でストリートショーを開催している。非現代アートを提唱。海と旅とBarをこよなく愛する。YouTube:Spider Street Show

Hamanakaさんの他のストーリー

  • カナ鉄に乗って①バンクーバーからプリンスエドワード島まで3週間、オーロラやナイアガラも出現するカナダ大陸横断鉄道の旅。果たしてプロポーズの行方は?初っ端から旅延期の危機?

  • Hamanakaさんの読んでよかったストーリー

  • 本音を生きる