インドでアーユルヴェーダ 1か月体験記(1)

スピリチュアルなインド医学


(このストーリーは2010年にブログにアップしたものから抜粋したものです。

アーユルヴェーダとは、インドの伝承医学。南インドのケララ州が有名です。)


ケララ州コジコーデにて、アーユルヴェーダの治療を始めました。


治療とはいっても、私は特別、病気というわけではなく、病気の予防として体のケアのためのトリートメントが目的です。


2年前に出会った、あるアルゼンチン人、Hさんの方の紹介で、「実力があり、治療費も安く、またスピリチュアルで親切な人がやっている」このセンターに、いつか行ってみたいと思っていました。電話で、問い合わせてみると、一度、カウンセリングに来てくれとのこと。私が住んでいる、タミルナドゥ州からは、隣の州ではあるものの、電車とバスで10数時間かけて行かなければなりません。しかし、アーユルヴェーダのトリートメントは最低1カ月かけて行うのが基本なので、その前に、一度会っておきたいとのことでした。私は、この誠実さが気に入ったため、長時間かけてセンターを訪ねるのは気になりませんでした。


自宅を出たのが夕方6時半、センターに到着したのは、翌朝8時すぎ。みんな太陽のような輝く笑顔で迎えてくれました。部屋は、とても簡素。マットレスさえない、板張りのベッドです。「マットはないのですか?」と聞くと、皿洗いのスポンジを大きくしたようなマットをくれました。ベッドからはダニが溢れています。雨季のため、湿度が高く、どんよりした空気が、部屋の中にも漂っています。「ここで1カ月過ごすのか・・・」正直、憂鬱な気分に。


ここは、リゾートのスパではなく、クリニックですから、期待はできないのは承知ですが、少し不安な気持ちになりました。


紹介してくれた友人も、「部屋は、はっきり言って、サドゥ(修行者)がタパス(苦行)を行うための部屋と言った感じ。包帯をグルグル巻いて、一日この部屋で何もしないで過ごす。そうして僕は45日過ごした。かなりきつかった。でも先生たちのことは一生忘れない。また戻れたら戻りたい」とのこと。スタッフも先生も、とても素敵な人たちで、明るく、フレンドリーだし、先生は正真正銘の実力の持ち主であることは、友人や、アーユルヴェーダに関する記事で紹介されていた評判を見ても、明らかです。しかし、ここはあまり外国人が訪れないインドのクリニック。環境は、インド人向けで、あまり配慮がないようです。さて、1ヶ月間、耐えられるか!?


大先生と息子さんは、ケララ伝統の武術、カラリパヤットのマスターでもあります。大先生は地元の医師たちにも尊敬され、地元の人々もみんな知っているほどの有名な方のようです。先生がざっと30分ほど、私の体を診察してくれました。先生は、あまり英語を話されないようで、片言のコミュニケーションですが、なんとか意味は通じます。


診察の途中、「あなたの哲学は?」と聞かれ、「ラマナです・・・」タミルナドゥ州では、大体の人が知っていますが、世界的に有名な聖者ではあるものの、他の州にいくと、途端に、認知度が下がるので、ご存知かな~と思いつつ、ためらいながら答えたのでした。「ラマナマハリシ?」おお、ご存知でした! これも診察に関係してるのかしら?哲学が、体にも影響する・・・うん、十分考えられる・・・なかなか深いな~さすがだな!と一人で納得し、後でもっと英語の堪能な息子さんに尋ねてみると、


「ティルバンナマライに住んでいるというと、大抵、瞑想とか哲学とか、スピリチュアルな人ばかりだから、それでですよ」・・・単に、聞いてみただけ、だったようです。ちょっと拍子抜け。笑


先生に診てもらった後、私は一日中、眠りこけました。魔法にでもかかったみたいに。先生のハンドパワーはすごいな・・・。それか、単に、旅の疲れだったりして・・・笑 これは冗談ですが、Hさんに、後でメールしてそのことを伝えると、


「先生の手には、パワーがある。だからだよ」とのこと。


息子さんにも、「お父さんは、何かスピリチュアルなヒーリングパワーを使われているんですか?それとも、全くの医療的なものだけですか?」と聞くと、「父は50年の経験があり、なおかつ、神をとても崇拝しているので、そういった力は自然に流れているということは、ありえますね」とのこと。


特にスピリチュアル性を強調されず、全く自然な感じで受け止めていらっしゃるところに共感しました。スピリチュアルなことは、自然で当たり前というスタンスがとても素晴らしいと感じます。 大先生に、「友人Hさんから、先生はとてもスピリチュアルな方だとお聞きしています」と伝えると「な~に、ほんの、ちょっとだけですよ」と笑顔の先生。謙虚で素敵です。そして、「スピリチュアルが真理です」と少し真剣な表情で付け加えられました。


アーユルヴェーダの名医でもあり、武術カラリパヤットのマスターでもある。どちらも実践、経験がものを言う世界です。ティルバンナマライには、スピリチュアルな情報、知識を持つ人は多くても、どれくらい実践しているかは「?」な人が多く、無駄な哲学論争が繰り広げられているので、経験主義の人に出会うと、素直に尊敬の念が湧いてきます。


大先生の息子さんも、アーユルヴェーダとカラリパヤットの先生をされていて、やはり、経験第一主義のようです。ドイツ人のスピリチュアル・リーダーであり、今、最も世界的に注目されているエックハルトトール氏の本についての話題になった時、「私、ビデオを持っていますが、見たいですか?」と聞いてみると、「私は、一度本を読んだら、その後は、実践しないと嫌なんです。何度も、繰り返し教えを聞くだけでは、飽きてしまう。だから、ビデオはいいです」きっぱりした答え。う~ん、さすがです。武術は、スピリチュアルな精神を学び、実践するのに、とてもよさそうです。教えを理解しているかどうか、目に見えて明らかで、ごまかしようがないですものね。


ヨガも同じで、アーサナがぐらつかずに出来ているか、呼吸が穏やかでゆっくりかどうかというところで理解しているかどうか一目瞭然なのと同じですね。


ここでは、21歳の男の子が2人働いていますが、一人はカラリパヤットを3年続けているそうで、もう一人は、興味がないそう。息子先生によると、「アーユルヴェーダをやっていきたいなら、カラリパヤットもやらないと、先々難しくなる」とのこと。「どう関係しているんですか?」と聞くと、


「元々、アーユルヴェーダは、カラリパヤットの実践者が体に故障を起こした時のために始まった治療法なんですよ」とのこと。比べては失礼ですが、スタッフの男の子2人は、体つきも、礼儀も、精神の成熟度も違っているように見受けられます。武術をやっている方は、体の動かし方が、自然でありながらも、とても優美ですね。


ところで、友人Hさんも、アーユルヴェーダのトリートメントを学ばせてほしいと頼んだそうですが、「カラリパヤットを7,8年続けられたら、教えてもよい」との答えだったそう。これは私がHさんから2年前にこの話を聞いたときに、このセンターは本物だなと感じた一番のポイントでした。


そのことを後で、先生の息子さんに尋ねると、「数週間だけ学んだとしても、単なる真似ごとに過ぎないでしょう?アーユルヴェーダは、師弟関係の元に、何年もかけて学ぶものなんです。いろんな症例を見ながらね。ひとりひとりが、みんな症状が違う。何百も、何千もそれと向き合いながら、学んでいくんです」とのことでした。


さて、一旦、また自宅に戻り、必要なものを準備して、トリートメントのために2週間後センターにやってきました。1ヶ月間もいられるかわからないので、まず1週間試してみてもいいか許可を願うと、OKとのこと。とりあえず、1週間様子を見てその後考えさせてもらうことにしました。


トリートメント1日目13:00 香ばしい薬草の香りのするオイルを全身に塗られ、マッサージを受けました。ゆったりしたリラックス系ではなく、手荒くゴシゴシ、たわしで擦る感じのマッサージです。(たわしは使いませんよ。誤解のないように言っておきますが・・・先生の手の感触がたわしのようなのです。笑)


3年前に、ケララでアーユルヴェーダトリートメントを1週間受けたことがあり、2週間自分も一通りのテクニックを表面的にではありますが、学んだことがあるので、慣れてはいました。初めて受ける方は、この手荒さに、驚かれるかもしれませんね。リラックスするためではなく、あくまで治療が目的なので、痛いマッサージなのです。オイルマッサージを受けていると、自分でも気づいていなかった意外な所に痛みを発見しました。特に叫ぶほどの痛いポイントがあると、その後、そこにたっぷり薬草が塗られた包帯をつけ、さらにその上にオイルをたっぷり染み込ませた包帯を乗せ、さらにその上を包帯でぐるぐる巻きにします。まるでミイラになった気分です。一見、大怪我でもしたの?というくらいの大げさな巻き方です。薬草も、オイルも惜しげなく使われています。これが、じょじょに時間と共に、体に染み込んでいきます。


大先生が、「あなたは健康すぎますよ」と言って去って行きました。本当に、1カ月必要かな・・・?Hさんによると、ここは、歩けないような人や骨を折った人、重病の人が来ているとのことだったので、果たして自分の目的に合うのだろうか、と疑問に思いつつも、先生の実力やお人柄の素晴らしさに魅了され、しばらくこのヒーリングパワーを味わいたいと思っています。


ハーブの内服薬をもらいました。食後に飲むと、アルコールのように、カーっ熱くなり、眠気を誘います。体の中を洗浄したり、血流をよくしたり、いろいろ効果があるそうです。薬の中の一つに、「カイシャグルグル」という名前のものがあり、「会社グルグル?」という日本語が浮かび笑ってしまいます。スタッフも、ソーメンさん、サンジューさんなどがいらっしゃり、日本語とかぶることを説明しました。


ケララはトロピカルな土地柄か、蚊がとても多いです。スポンジのようなマットレスには重みがないため、蚊帳が外れ、4匹ほどを蚊帳の中に招き入れたまま、眠っていました。刺したい放題の蚊に刺された後、目が覚めて、蚊をやっつけました。明りをつけたまま横になります。蚊帳の周りには、血に飢えた特大の蚊が5,6匹、元気に集まってきています。蚊帳に触れて刺されないように体を固定して寝ました。


トリートメント2日目


13:00 おなじみのゴシゴシ・マッサージ。血流をうながしながら、痛いところを発見する感じで行われます。そして、包帯をグルグル巻きに。大先生が、「宇宙飛行士みたい」と言って笑わせてくれます。


「体の痛いところ全部、関連してますよね」と言うと、先生は「蜘蛛の巣のようにね。一か所を引っ張ると、他の部分も引っ張られるでしょう」と表現されておられました。


「日本には、こんな治療法はありますか?薬の投与だけですか」と聞かれ、「鍼灸や指圧があります。中医学ですね。中医学も元はインドからでしょう?」と言うと、


「そうです。カラリパヤットを学んだ仏教徒が、中国へ行き、武術と医学と仏教を伝えました。柔道や空手は元がカラリパヤットです。インドは昔、最高のレベルまでいきつきました。そして怠け者になって、堕落しました。今スタート地点からまたやり直しです。そうして時代は循環しています」と話されました。


先生のことを書かれた記事を以前読んだのですが、


「先生は、本当に真剣な生徒しか弟子にとらない」こと、「しかし、多くの若者は、空手やカンフーに憧れ、伝統的なカラリパヤットにはあまり目を向けない」こと、「伝統を守っていくのは難しいようだ」などということが書かれていました。


「あなた、学位は?」インドではよく聞かれる質問です。「社会学の修士号を持っています。しかし、今は、スピリチュアルの学びに専念しています」と伝えると、「最後には、全て、そこへ行きつく。スピリチュアルが真理」とおっしゃいました。先生は英語が片言ですが、おっしゃることの深みが、伝わってきます。50年の経験に裏打ちされた言葉だからでしょう。That is the truth(それ=スピリチュアルが真実です)とのお言葉は今回2回目です。私も深く共感し、うなづきます。


19:00 今日の診察が終わった息子さんDさんの所へ行って、おしゃべり。朝と夕方にカラリパヤットを教えながら、患者さんの治療も行うという多忙ぶり。途中、電話がかかったり、来客があったり、常にお忙しそう。いろいろ聞きたいことがあるけれど、なかなか時間が取れないのが残念です。


「カラリパヤットを学んでいるS君は、成熟しているし、礼儀正しいし、いい子ですね。比べては悪いけど、すごく違いがあるのを感じますよ。」というと、Dさんは「あなたのおっしゃる意味わかりますよ。カラリパヤットは、とても規律を重んじるんですよね。どの武術でもそうだと思うけど。グルに対して、きっちり挨拶をするところから毎日の練習は始まります。とても厳しいんです。体を鍛えて、マインドも鍛える。そして、性格もよくなる。全ては規律を守る所から来ているんです。でも、最近は、そういったものは排除して体だけを鍛えるような表面的なことをやっている教室も多いです」「ヨガも同じですよね~。アーサナだけを教えて、大事なことは教えない。」と私は答えました。 「アーユルヴェーダには、いろんな流派があるんですか?このセンターでは、いわゆるパンチャカルマや、脈診や、シローダーラ、ヴァータ、ピッタ、カファを診断したりなどの典型的なものはしていないですよね。」「そういったものは、短期のコースですぐに学べてしまうんです。そして、パンチャカルマセンターと大きな看板を出す。観光地によくありますよね。きれいに外側を飾って見た目をよくして、治療と言えば、3回ここをさすって、反対側を3回とか、そういう感じでやる。それが最近よく起こっている傾向です」と笑いながらおっしゃっていました。ネットで体験記などを読むと、それでも、効果を感じている人たちはいるようですが・・・インドの伝統的な考え方では、師弟関係を重んじ、その関係性の中で学び成長します。それは、ヨガ、悟りの世界でも同じです。教えの内容そのものを受け継ぐのは言うまでもなく、もっと大事なのは、グルの性質、パワーを受け継ぐと言えばいいのでしょうか。そんな感じがします。


私がたまに話しをする、インドに住んで長いスイスの聖者の方は、「グルが必ず必要だという考え方は、インドの伝統社会にはあるけれど、一人ひとりが違う道を、違う方法で進むから、それが絶対というわけではないと思いますよ」との大らかな意見もありました。


トリートメント3日目


6:30 朝起きてすぐに、頭頂のいわゆる百会のツボに赤茶色のクリーム状の薬を塗り、その上に丸い葉っぱを乗せます。頭頂に葉っぱを乗せるところが古代の治療法のように感じて、なんだか微笑ましくて笑ってしまいます。何のためにこれをしているのか、聞きたい気持ちもありましたが、まずは何も聞かずに自分で効果を感じ取ってみて、後で聞いてみようと思いました。頭の上に乗せた葉っぱに手を置くと、ドクドク血行がよくなっているのを感じます。手に強く脈動が響いてきます。頭から染み込んだ薬が全身を通り、消化も促している感じがします。30分置いて、今度は黄粉色の粉末を手のひらに乗せ、百会のツボをゴシゴシ手のひらでこすります。


12:30 大先生による、おなじみのオイルマッサージです。同じところが同じように痛みます。昨日まで感じていた最も痛みの弱い個所だけが、今日は痛みがなくなっていました。先生とまたスピリチュアルな話になります。


「ラーマクリシュナを知っていますか?」「はい、バクティヨガですね。先生、お好きなんですか?」「もう、好きすぎるくらい好きです」とのこと。


先生は長年の経験を積み、すごい実力の持ち主で、また地元でも有名でありながら、とても腰が低く愛らしい方です。全く上からの威圧感のようなものがありません。


朝、下に降りて挨拶をすると、患者さんを見ている間でも、ぱっとこちらを向いて、両手を胸の前で合わせ、子供のような無垢で、キラキラ輝く笑顔で挨拶をしてくださいます。ご高齢でありながら、新芽のような透明感を感じます。先生が、バクティのラーマクリシュナがお好きという意味がよくわかる気がしました。


私に包帯をグルグル巻きにしながら、先生は、「この治療法が、とても効果的なことは、私、とてもよく知ってるんです。」「お父さんの代もこれをやってらしたんですか?」「父もやっていました。父はとても有名な人でした。どんなに他の治療を試してもよくならなかった人が、この治療法を受けにやってきます。今、4年間アーユルヴェーダの大学に通っている生徒が、あらゆるところを周ってアーユルヴェーダの治療を試しても、症状が解決せず、今うちに通い始めて4週間たちました。あと2週間でよくなるでしょう。」



その口調には、全く威張っているという感じも、アピールしている感じもなく、代々、引き継いできたこの治療法に、純粋に誇りを持っていることを感じさせました。

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