曲がった左手の親指 その3

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誰もいない現場で


応援部隊が去った現場。あちこちにやり散らかした資材の山。

詰め替えされた3,000個のダンボールの整理と、ゴミの整理。

あれだけうるさかったフロアーが、嘘みたいに静かで。

ほっとした反面、無性に虚しさがこみ上げてきた。


翌日の作業に支障が出ないよう、現場整理に没頭して気がつけば

日付が変わる頃になってた。足はガクガクだった。

平常でも仕事中15,000歩ぐらい歩いているけど、その日は何と

42,000歩。距離にして26キロ前後。それも重い荷物を運び持って。

現場が好きな私でも、さすがにこの日は疲れ切ってしまった。


ふとした気の緩みが

他のフロアーの終了もあり、現場の設備関係のシャットダウン作業に

取り掛かかり始めた。各種設備のチェックと電源オフの作業。

現場は搬送ラインが縦横に走り、幾つかの渡り通路で搬送ラインの中

を移動出来るようになっている。いつもなら帰宅できるウキウキ感で

渡り通路の階段を上り下りしてるのに、その日はさすがに、、。

だいたいこういう状況下で事故が起きやすい。

日中の緊張した中でも現場のパートさんが怪我したり、社員もミスしたり。

そういうことは良くある現場。実際その通りになった。

シャットダウン作業に入り、最初の階段を上り始めた何歩目かで、思い切り

足を滑らせてしまい、前のめりにコケた。咄嗟に左手を突き出した。

顔や身体を打ち付ける事はなく、何とか支えた。

その代わり左手の親指を、階段の角に勢いよく打ち付けてしまった。

激痛で思わず声が出て、しゃがみ込んで暫く痛みに耐えた。

そして情けなさで、いい年をして涙が出た。痛みより情けない自分に。

親指は直ぐに腫れあがり、紫色になっていった。ヒビ入ったかも。

そんな中でも、明日以降の事考えていた。仕事に支障は出ないかな?

こんな事でも、事故報告として上司に報告すべきなのか?

結局は報告もせず、自業自得と割り切った。車の運転を痛みを耐え慎重に。

自宅に到着して薬箱から湿布を出し、1人で貼って痛みが無くなる事を

祈りつつ、その日は直ぐに寝た。とにかく疲れ切っていた。寝たかった。




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