12月の2話 論文をひたすら読む

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 一日目のミーティングで、最初の私のやることは、研究対象の地域、分野に関する論文を読みこなすことに決まった。私にとってこの分野の研究は初めてで、知識が殆ど無かったからだ。指導教官の一人が、私が読むべき論文10本あまりをピックアップして、USBメモリに保存して渡してくれた。だからまず私がすることは、これらの論文を全て読み、知識を蓄えることだった。

 しかし、これが長かった。

 まず、私は、これまでまともに英文の学術論文を読んだことが無かった。いや、本当はある。ゼミで輪読があったので、それで読んだことはあった。しかし、今思えば、輪読の準備をするのに二ヶ月半ほどの時間があった。その間で一本というペースだった。思えばトロトロと読んでいたのである。

 留学したてで、やる気に満ち溢れていた私は、できるだけ早くこれらを読み終わろうと思っていた。読み終わったら教官に報告することになっていて、それが終わらないと先に進めないということもあったし、サクサクと読んでいけるつもりだった。

 ところが、現実は甘くなかった。

 まず、サクサクッと読み進めていけるような単語力が無い。当然のことだが、専門用語が多く登場するので、まずはその専門用語に当たるたびに、辞書で調べ、尚且つ記憶していかなければならなかった。加えて、論文に書いてあることは、殆どが私にとって新しい情報である。読んだ端から、前の段落では何が書かれてあったか、忘れてしまうのである。

 それで、最初の一本は、筆読とも言えそうな方法を取った。殆ど全てのセンテンスを、ノートに書き出していくのである。この方法は、読んだ内容を記憶する、という点ではうまくいった。しかし時間が掛かりすぎた。結局、読み終わるまで、月曜日から、翌月曜日いっぱいまで掛かった。

 こんなペースで読んでいては、10本読み終わるまで2ヶ月半も掛かってしまう。焦ったが、次の2本目の論文は3日で読めた。3本目は2日になった。しかしそれよりも早くなることは無かった。もう筆読というやり方はしておらず、あまり記憶できていない論文もあった。それにも関わらず、1本2日だった。

 なかなか読むのが早くならず、自分の能力の無さが辛かった。周りの同僚に、どのくらいのペースで読めるのか聞いてみたら、多くの人は、大雑把に目を通すだけなら半日、とのことだった。私の4倍のスピードだ。

 結局全部読み終えたのは年始だった。フランス人は皆が取るクリスマスからお正月に掛けての休暇、それを返上して、やっと読み終えることができた。一ヶ月とちょっとの間、私はひたすら英語論文ばかりを読んで過ごした。

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12月の3話 ホームシックの折鶴

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