フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第31話

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《これまでのあらすじ》初めて読む方へ

あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、少しずつ頭角を表し店のナンバーワンを目指していたが、恋心を抱きつつあった店のチーフマネージャー佐々木が店を辞めショックを受ける。そんな矢先、佐々木からの店を取り仕切る立場の玲子に裏切られていたことを聞いた桃子は、玲子をいつか見返すことを誓い、半ば陥れるやり方で、一位の座を手に入れた。取り巻きたちとホスト遊びなどするようになった桃子は、シンヤという1人のホストに出会う。そして彼に誘われ、初めて店の外で会う約束をする。




「ホントさ、最近思うんだ。

  この世界じゃないところで桃子に出会いたかったなって」



シンヤは、改まったように私を見据えてから

いつも以上に低いトーンの声で言った。


その瞳には少女漫画か、とツッコミみたくなるような

キラキラ星がいくつもありそうだった。


こんな風に少し残念そうに笑うシンヤに

彼を指名するオバサマはとろけまくっちゃうんだろうか…


私は、そうだねと言い、彼に調子を合わせ残念そうに微笑み

ストローに唇をあてカクテル吸った。


内心は、ホストのくせに純情ぶっちゃってと

それまでの疲れもあって半分シラけた気持ちだった。




私たちは当時、若者の間で流行っていたビュッフェスタイルの

イタリアンでたらふく食べた後、ゲーセンでバカみたいにお金を使った。


シンヤは自称ユーホーキャッチャーの名人らしく

1時間あまりで両手で抱えきれないほどの商品をゲットした。

急遽100円ショップで一番大きい袋を購入したが

それでも入りきらないくらいだった。

ほんの気まぐれでショーケースを見つめていた私に

シンヤはその中の商品いくつも取ってくれた。

一番大きいもので有名キャラクターのカーペットがあった。

後はほとんどヌイグルミだ。

私は既にヌイグルミなど好きな年齢ではなかったし

これ全部、杏のために取ったんだよと言われても

正直、嬉しくなかったが、私を喜ばそうと張り切るシンヤを

見ているうちにペースに巻き込まれ、無邪気に喜んでいた。


私たちは、そんなどうしようもない戦利品を抱え

この居酒屋に落ち着いたところだった。

シンヤは普段、小洒落たBARなどには縁がないらしく

入る時、しきりに気にしていた。


私は連日、同伴する客に超一流の料亭や、寿司屋、フランス料理などに連れて行かれるので

逆にこのような大衆居酒屋が新鮮さを感じるくらいだった。


そして注文したカクテルが揃ったところで

シンヤの冒頭のセリフを聞かされたと言うわけだ。




伏し目がちな視線を彼に戻すと

意外にも、まだ彼の視線は私に向けられていた。


何だか充血しているような目だった。

この夜、彼が何杯飲んだかもう分からなかったが

ウォッカなどアルコール度数の強い酒を煽る姿を

何度も見たような気がする。



「どうかした?」



私が言うとシンヤは、瞬きもしないで言った。



「杏はさ、どうして俺に自分の店に来いって言わないの?」



「え…それは」


私は言葉に詰まった。

客は大勢いるし、ホスト通いはただの遊びと割り切っていた。

そこでシンヤにたまたま出会っただけであって

自分の店にも来て指名してくれだなんて思ったこともなかった。


いや、それだけだろうか…?



「だってさ、私がシンヤ指名して、シンヤも私を指名だなんて

   考えたら変だよ?私が一方的に会いに行けばいいじゃない」



「ホントは俺に顔出して欲しくないんじゃないの?

   なんたって 杏は、 パテオのナンバーワンだもんな〜」


そこには、わずかな皮肉が込められていたが

私は知らん顔してタバコを取り出した。



シンヤがライターを手にしたが

私は手をかざし、今夜はそういうのいいから

と笑った。

そっか、とシンヤも笑う。 



「なんか変だよ、今日のシンヤ」



「いや、俺、今こうしてパテオのナンバーワンとデートしてんじゃん。

   すごいなーと思ってさ」


シンヤはまた私を真正面からじっと見つめている。

私は構わず豪快に煙を吐き出した。


シンヤを客として見ない理由が

と何となくわかる気がした。

言葉にできないけど。




その時だった。



シンヤの目からツーっと光るものが流れた。


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