貧乏こそ神 我が母まいくばあの話(第36回)

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そこで考えた。「そーだ、名前が悪いんだ。名前を変えよう!」
自分のでなく、相方の名前を変えることを思いついた。思いつかれた方にすればとんだメイワクであります。

(今回ここから)

捜したのであります、姓名判断してくれるその道のプロを。人伝にたどり着いたのがバスで一時間と少しの小さな町。そこにとてもよく観る霊媒師的なおばあさんがいらっしゃる。今で言うすぴりちゅあるなお人。なんせひと昔を十年と数えればイツ(五)昔も前のことです。霊力をつかさどる人は神様とも崇め奉られる風習が色濃く残る時代でもありました。
朝いちばんのバスに乗って、行くはまいくばあ率いる一団、といっても総勢三名。相方とそしてこの僕であります。僕は長男だったからか、幼き頃からいつでもあらゆるところに随行する羽目になっていたのです。
その家はバス停を降りてしばらく歩き、さらに田んぼのあぜ道を通ってたどり着くような外れにありました。ごく普通の民家でありますが中に入ってみればやはりその筋のお方、何やら書かれた白いお札が何枚も鴨居から垂れております。

さて、かくかくしかじかとまいくばあが説明するわけでございます。まいくばあと申しましても当時はまだうら若き、そうですな三十才になったばかりの頃。丸顔ゆえにシャープな訴求力には欠けますが、一重ならではの細く真剣な眼差しで神様に訴えたのでしょう。
「この人はどうしても仕事が続きませんで」、「酒にすぐ逃げるのでございます」、「名前を変えたらどうかと」云々、さまざまな事情を申し立てる間、その老婆、失礼センセイ、いや神様はじっと聞いておいででございました。
ひとときあってその神様の口から本日のお答えが申し渡される段となりました。
「『しげまさ』じゃの」
「えっ?『しげまさ』ですか?」
意外といえば意外、普通といえば普通。たぶん改名などの新しい名前を授けられる時はすべての人が抱く違和感というものでしょう。
「茂正と書くのじゃ」とセンセイ、いや神様は白い紙にさらさらと毛筆で認(したた)めます。書いてもらえば聞いた違和感とは違って何やらとても立派なものに見える。

「これでこの人はうまくいく!」とまいくばあは思ったのでしょうな。その時相方がどんな顔をしていたか同席していた僕も思い出せませんが、決してそんなに飛び上がって喜ぶような風情ではなかったと想像します。
お礼を申し上げ、幾ばくかの謝礼を払って帰途につく頃にはまいくばあの心は晴ればれ。
「よしよし。明日から、いやたった今からあんたはシゲマサじゃ!」と相方に何度も繰り返すまいくばあ。相方のほうは反応に困ったような複雑な顔だったような気が・・

(明日に続く)

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前沢 しんじ

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