2月の2話 目医者に行くことに

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 そんなふうにして毎日パソコンのディスプレイとにらめっこしていたある日、本当に、急に、左目が痛くなった。時々、チクッとする痛み。こんな痛み方は経験が無かったし、3日様子を見たが回復する様子が無く、不安になった。

 研究所には、学校でいうところの保健室のような施設があることを知っていたので、ボスに、保健室に行きたい、と言ってみた。すると、ボスは、「いつでも医師がいるわけじゃないから、時間を確認しないと」と教えてくれて、保健室に電話して確認してくれた。その日の夕方に診てもらって、目を洗う目薬を注してくれた。そして、3日間ほど、毎日来るように言われた。

 それで、目の調子は心なしか良くなった。しかし、これで最後、という3日目の保健室で、いつもとは別の人が対応してくれたのだ。仏語で状況を説明せねばならない事態に戸惑いながら事情を説明。するとその新しい人は、事態を勝手に重くみて、断乎医者に行くように私に勧め始めた。

 私は、医者には行きたくなかった。なぜなら、海外旅行保険には加入しているものの、言葉が不自由な状態で身体に直接施術するような医療を受けることそのものが怖かったからだ。医療費も気になった。保険でおりるはずではあるが、書類や手続きが面倒で、結局申請を諦めてしまう、などという話も同じくらいよく聞いていたからだ。

 しかしだ。渋る私(しかも仏語怪しい)を心配し、なかなか帰してくれない担当の方。なんと、研究所のメンバー表のようなものまで取り出し、ボスに連絡を取ろうとする。いや、ボスとか皆忙しいから、呼ばないで欲しいんだけどと思いつつも、不自由な言葉でどう伝えたらいいのかも分からず、かと言って、私の為に何かしようとしてくださってるその方を無視してその場を立ち去ることも出来ず立ち尽くしていたのだが、そうこうするうちに、私と同じオフィスの先生、そして博士学生の友人が、その保健室まで来てくれてしまった。博士学生の友人は、わざわざ病院なんて行かなくていいんじゃないのと思っているに見えたが、先生の方がすごく心配してくださって、もう絶対に病院に連れていくぞという意気込み。こちらは内心、ええー(汗)である。

 しかしもう、その先生(と保健室の担当の方)の気持ちは固く、脳の病気まで懸念しており、とにかく検査を、と執拗に勧められた。私はもうどうしても、病院に行かなければならない雰囲気にあるようだった。 

 とうとう私は観念し、先生が病院まで車で連れて行ってくださる道中に保険会社に電話をかけ、必要な書類や手続きなどを確認した。診療を受ける前に、英文・仏文でも記載のある証書を受付に提示することや、領収書、診断書を必ずもらっておくことを案内された。領収書が「ファクチュール」という発音のものだと教えてもらった。(ちなみにこの単語は、今後も度々活躍したから、ここで教えてもらっておいて良かったかも知れない。)

 病院に着いてからも、医療費のことはいいとして、外国の医療を受けることが心配だった。街には大きな総合病院があって、その中の一つに、目の診療をする科もある。病院に着いたのが午後4時頃。先生にフランス語で色々と受付に説明をしてもらって、予約を取って、1時間ほど待っただろうか。医師が現れ、私の目の検査をした。 結果はドライアイ。薬を処方された。また、個人的に、たまに視界に光が複数飛ぶことがあるのが気にかかっており、それを医師に言ってみたら、その検査もしてくれた。そちらも異常なし。この点の心配が晴れたので、病院に来た甲斐はあったかも知れない。

 先生は、私を寮まで送って帰ってくれた。私は初めての異国の医療を体験し、ちょっとふわふわしたような気分だった。そして、ボスに明日どう説明しようかな、などと考えていた。

 結局、その後もう一度通院し、薬を処方してもらっただけで、診療は終わった。保険の方は、領収書と診断書、それからちょっと書類を用意したら、薬代も含めて満額返還してもらえた。


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3月の1話 シーシック

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